劇場鑑賞3月下旬(2009)できるだけ感想を書き加えてみた | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

8. THIS IS ENGLAND / イギリス

 シアターN渋谷 7.2

本作はイギリス人以外が観ると分かりにくいとの声をチラホラ聞くが、冒頭サッチャーの年代のモンタージュから始まるのだから、主題は明解だと思う。撮影(照明)形式からファッションに到るまで(選曲も!)、その当時のものに拘り、その編集テンポの危ないスピードは、その当時のイングランドの成り行きのままで、どこに到達するのか否が応にも目を背けたくなります。橋口監督が「ぐるりのこと」で、日本の90年代を代表する社会的事件を背景にしながらパーソナルな映画をとったように、本作もまた、フォークランド紛争直後のイギリスを監督自身の体験と目線で綴ってみせたパーソナルなもの。「ぐるりのこと」が監督自身の心象を描きつつも日本の変容を見事に捉えたように、本作もまた幼かった監督の生の声が、イギリスの変容を見事に捉えている。と言うわけで、世界史的に重要なフォークランド紛争に興味のない人が観ても面白いのかは定かではないが、「ぐるりのこと」で法廷シーンの様々な事件について知らなくても夫婦の再生物として普遍性を獲得できていたように、本作もまた父親を亡くした少年の成長物語として観ることは可能だと思う。人に薦めるのは難しいけど。


9. 『イエスマン“YES”は人生のパス ワード』

 ヒカリ座 4.1

良くも悪くも昔懐かしのジム・キャリー映画の域を出ていません。それなりにジム・キャリーが笑わせてくれます。でもそれも中盤までのこと。後半はストーリーが萎んでいくのがあからさまに感じられ、非常に残念な作品となってしまいました。キャスト表とストーリーラインを眺めてみて、ピンとこなければ見る必要はないでしょう。因みに本作の監督をしているペイトン・リードの前作にあたる「ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き」は、“恋愛の反面教師”的映画の傑作なので、恋愛している人もしてない人も興味があれば是非御観賞のほどを。本作はラブコメと紹介されていることが多いけど、内容はラブコメとはほど遠いのでご注意を。


10.『オーストラリア』 / オーストラリア

TOHOシネマズ宇都宮 5.5

二部構成で中盤主題の流れが断絶しており、映画的積み重ねがないことが残念。様々な主題の片鱗は垣間見られるがどれもまとまっておらず、結局大きな意味での大河ロマンとしての楽しみしかない。基本的に喜劇的な味付けがなされているので退屈はしないが、オーストラリアのタイトルが示すような雄大さは皆無で、あらゆるシーンがロケでなく、往年のハリウッド大作の巨大セット撮影かのように見えてしまう役者の顔のアップや風景の切り取り方が悔しい。役者にも往年のハリウッド大作を意識してかメリハリの利いたドタバタ演出がついていて、非常にチープな印象しか受けない。このレベルの演出なら素材をキムタクと松たかこに入れ替えても話しが成立してしまうのではないか。役者の無駄遣い。


11.『PVC-1 余命85分』 / コロンビア

 シネセゾン渋谷 3.8

85分ワンカットで撮影したコロンビアの低予算映画。ワンカットのアイデアは主題と噛み合っていたと思うのですが、それでもやはりおいらとしては、及第点との評価しか与えられません。ワンカットの計算されたカメラワークを誉める人が結構多いけど、おいらはそのカメラワークにこそ不満がある。対象“A”から対象“B”に撮影対象が変わる際の“A→B”という移動時間に、お客は付き合う必要まるでない。“A→B”の“→”という移動時間を許容するためには、そのカメラマンの移動に必然性がないとダメだが、おいらはそれを本作からまったく感じることができなかった。主人公達がわけあって長時間移動を余技なくされる黙々としたシーンとか、爆弾処理班がチンタラチンタラ作業する場面などのワンカットには、有効性を見い出すし付き合いもするけれど、上記のような撮影のためだけのカメラマンの“→”仕事に付き合わされるのは、映画に入り込む妨げともなるし、興も削がれてしまうと思う。


12.『ダイアナの選択』

 シネスイッチ銀座 7.4

全米では完全に拒否された作品だけど、おいらは本作に完全なる支持を捧げます。確かに本作はチケット代を払った多くのお客さんに必要とされない映画かもしれません。しかし、例えばおいらのようなある特定の人間には訴えかけるものがあり、また、本作を観て結果救われるかもしれない人間がいると信じて疑いません。おいらも若かりし自分を思い浮かべて、自分が撃たれたかのようにショックを受けました。監督は、前作でも哲学的な映像にトライしていたけれど、前作はまだ映像というより役者の演技に比重が掛かりすぎていた。本作はその高い水準の演出力をそのままに、役者の演技と映像スタイルを見事に融合させてみせてくれたと思う。配給サイドは、ネタバレ禁止とかオチがどうのと宣伝しているけれど、基本的にそういう映画ではない。本作はミステリー映画ではありません。そこんとこ注意。


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13.『シリアの花嫁』 / イスラエル==

 岩波ホール 9.2

現在無国籍になってしまった元シリア人家族を、イスラエル占領下のゴラン高原を舞台に描いた作品だけど、予備知識なしで観にいったおいらにも複雑なはずの問題を的確に提示できていて高評価。そして、本作は、偏見や社会構造、人種問題様々なことを主題とせず、家族と二度と会うことのできなくなる花嫁とその肉親の話を中心に、多くの笑いや切実さ、そしてコミュニティに埋没する自身のアイデンティティの問題を的確に挟みながら、人道的で且つ非常にエモーショナルな作品として普遍性を有している。問題は、演技派と呼べるような役者の自然な演技があると思えば、コテコテのドラマの中の住人のようなレベルの役者も出ていて、全体としての一定水準が確保されていないように感じられてしまうことかな。でも社会派映画にもなってしまいそうな本作をして、片意地張らずに多くの人の目を本問に集中させる間口の広さは確かにあって、非常に有意義な映画だったと思う。


14.『フロスト×ニクソン』

TOHOシネマズ シャンテ 8.8

繰り広げられる熱のこもった対話と出演俳優の見事なパフォーマンスが一体となって、本スクリプトの存在意義でもある主題を炙り出すことに成功している。その主題を机上のものとしてではなく、感情とともに映画に昇華させた監督の手腕は見事の一言で、最近奮わなかったロン・ハワードの新たなる代表作にも成り得るような完成度の高い一本だ。同じく舞台劇の映画化作品であった『ダウト』は演技合戦に終始してしまい、舞台色から抜け切れなかったけど、こちらはまがうことなく映画である。


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