足利蕎麦問答。 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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そんなこんなで、蕎麦屋三軒梯子するという暴挙に出てきたわけですが、おいらには少し思うところがある。足利で食べてきた蕎麦たちは、店によって多少の違いはあるにせよ、蕎麦粉の素材そのものの味がまるでしない、香りもほとんどしないという蕎麦たちでした。ここで整理したい。おいらにとっての蕎麦とはなにか。おいらは蕎麦は香りだと思っている。確かにそれだけではないのは認めるが、蕎麦で最重要なのは香りである。香りがする蕎麦というのは蕎麦の実を摘んでから口に入るまでの時間がそれだけ短いということだし、製粉も丁寧に行われたということだし、丁寧に打たれたということだし、見事に茹でられ水で締められたということである。つまりは蕎麦の香りを口に入る瞬間まで残すのは至難の業で、それこそ、蕎麦屋の蕎麦の十中八九香りなんてものは飛んでいる。蕎麦に鼻を近づけてみても臭いを嗅ぎ取ることができないという事実からお解り頂けるものと思う。


蕎麦の香りの繊細さについては、以前の【蕎麦一考】で纏めた。今回は蕎麦は本当に香りだけなのかという問題である。冒頭でも書いたが、おいらは蕎麦は香りだと思っている。香りが最重要事項。次にくるのが蕎麦そのものの素材の味がすることである。「嗚呼、蕎麦の味がする」と思えるかどうかである。これは甘いとかどうだとかいう話しではなく、美味しい所の蕎麦は新鮮な蕎麦粉を利用していて本当に蕎麦そのものの素材の味がするから、それ以外では形容することができない。簡単にいうならば蕎麦茶から“茶”の部分を抜いた味と解釈してもらっていい。よく蕎麦の甘さがというプロの表現を目にするが、おいらは蕎麦の甘さはというのは甘さの誤用だと思う。蕎麦の味はけして甘くはない。蕎麦の甘さがどうのというなら、甘ければ甘いほどいいことになりはしないか。違う。蕎麦はよく分からない成分の混合として変な味がするのであって、甘さはその一要素にしか過ぎない。つまり蕎麦の甘みが~なんていうふうに誉めるのは間違いである。


結局おいらは蕎麦とは新鮮で香りと素材の味が楽しめるものが最上だと認識しているわけだけど、世間一般にこの考え方を常識として押しつけられない可能性がどうやらあるらしいということ。おいらは蕎麦につけ汁はいらないと思う。汁と蕎麦の相性が如何に良かろうとも、蕎麦を汁に浸したら最後、かつおの強烈な臭いに、蕎麦の繊細な香りは吹き飛ばされてしまう。つまりつけ汁はデフォルトでついてくるのに、邪魔なだけの存在なのだ。それと同じ理屈で薬味も蕎麦の香りを楽しむためには必要のないものと言ってみたい。葱も山葵も、少しでも量を間違えれば、蕎麦の香りを消し去る強者たちである。でも、蕎麦を食べる際につけ汁を入らないなんて人間はほとんどみかけない。皆汁をつけて食べるわけだ。香りを楽しむつもりがさらさらないように思える。


しかし、おいらの子供のころから、蕎麦の食べ方について、「蕎麦を少量とって、さきっちょだけ軽く汁に浸して吸い込めばいい。そんなに汁にひたしてはいけない」なんて意見があった。これはつまりどういうことか今なら分かる。そばのつけ汁は、蕎麦の香りを消すのことについて絶対的な効果がある。つまり邪魔なのだ。だけれども、人は塩分を求めるので、蕎麦だけを啜っても美味しいとは思わない。そこで、蕎麦のさきっちょだけ汁をつけることによって、最初に口内に飛び込んでくる蕎麦は汁がついてない状態にし、香りを楽しめるようにして、後になって口内に入ってくる蕎麦には汁がついていて出汁の味と一緒に蕎麦をいただく。この2段構えの食べ方こそが、子供のころから存在する「蕎麦は少し浸すもの」で、一般人がもっとも受け入れやすい食べ方なんだろう。


やはり世間も蕎麦は香りを楽しむものという認識があるのだ。しかしであるしかし~、今回梯子した三軒の蕎麦屋さんは、どこも汁にたっぷりと浸してお食べて下さいと書いているのである。上に書いた香りを消す作業を意図的にしいているのである。足利の蕎麦らは蕎麦だけで食べてみても香りも蕎麦の味もたいしてしない蕎麦であるから、汁をたっぷり付けることになんら抵抗はないが、美味いと本に紹介されている店がもともとそういう態度でいいのだろうか。非難されてしかるべきじゃないのか。しかしされずに美味いとされ、本に載っている。なぜだろう。おいらはこう思う。香りや蕎麦の素材の味がして最上という考え方は、一つの思想なのであって、まったく別の考え方で蕎麦を出している店があるのではないかと。蕎麦は郷土料理である。地方の特色が色濃く繁栄されていると聞く。それならば、今回偶然にも梯子した三軒が三軒とも、香りと素材の味がしない蕎麦を出し、ましてや汁にたっぷりと浸して食べてくれなどと公言しているのは、それは出来の悪い蕎麦なのではなく、作り手がもともとそのような蕎麦を意図して出しているという風には考えられないか。それが足利の蕎麦なのだと。


おいらが足利で食べて、すぐに関連付けられたのは、二宮で食べた「そば道場 ますみ」の蕎麦である(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=884721979&owner_id=1064357 )。おいらはそこでもやはり汁を付けて食べてと言われる蕎麦に戸惑い、低い評価をくだした。しかし、そこも道場として蕎麦打ちを教えているような店である。やはり意図して、出していると考えるべきだ。そこで共通点が浮かび上がる。足利も二宮も栃木の南部に位置するということだ。栃木南部では、蕎麦は香りや蕎麦の新鮮さではなく、汁を沢山つけてがっつくものだと理解しているのではないか。コシやキレなど食感を楽しむ“うどん”とは非なるものとしての“蕎麦”である。意図してそういうものを出す店があり、それを美味い蕎麦として採点する基準がどこかにあるのかもしれない。そうであるなら、おいらが香りや素材の味がしない「汁をたっぷりつけて食べる蕎麦」にわざわざ遠出して味わう必然がないなどと酷評するのは、たんにおいらが無知を露呈しているだけのことかもしれない。


しかし、本来の素材の味がしない蕎麦に、汁をたっぷり付けて食べたからといって、それが蕎麦であるというアイデンティティを構築するものなのだろうか。美味いものならなんでもいいなら、蕎麦屋でなくてもパスタ屋だっていいということになるぞ。おいらには基本的に足利の蕎麦の良さが分からない。


おいらもいい加減、美味しい蕎麦を頂いてきた。高評価の店は、大平の蕎麦屋で大平産の蕎麦粉を使っていたり、粟野の蕎麦屋で粟野さんの蕎麦粉を使っていたり、自家栽培自家製粉の蕎麦屋だったり、どこも新鮮さこそを売りとしている。そういったその日の分をその日粉にしてすぐに打つような店と、足利の味の差を、地域の差だからと簡単に結論付けていいのだろうか。足利も同様においらが高評価をくだしてきた店と同じだけの手間暇をかけていると言い切れるのか。おいらには今のところ見当もつかない。


または、そんな新鮮な蕎麦粉ばかりが手に入るわけではないのも事実なのだから、そいった蕎麦粉でも美味しく頂くための工夫こそが、栃木県南部の“ほおばる蕎麦”ということになるのだろうか。たしかに、梯子三軒目の蕎麦屋さんは、香りは微かに香る程度だったが、食べ方に工夫をして、大層美味しい食べ物としてオリジナリティを獲得していたし、評こそ高くしなかったが、美味しい食事を楽しむことができた。先の足利二軒もそのような汁の工夫だったり、薬味の工夫だったりで美味しく食べさせる努力をしていたのだろうか。三軒が三軒とも汁をたっぷりつけろといっていたのが気になる。三軒目だけを美味しく頂いたからといって、区別する必要はないだろう。足利の蕎麦は、超絶フレッシュでない蕎麦粉でも美味しく提供するべく苦心していると結論付けることも可能である。ただその苦心がはたして、おいらが高い評価をしている蕎麦屋さんと肩を並べるほどのことなのかは甚だ疑問だ。おいらには今のところよく分からないという他ない。


一つ書いていて、気付いたのだが、おいらが低評価なお店はすべてと言っていいくらい、蕎麦粉の産地が北海道(または産地をあかしていない蕎麦屋さん)である。食べさせ方の工夫で評を獲得した「九・一そば 第一立花」も香りや素材の味には不満があり、やはり北海道産。


1.【宇都宮】 若森/道楽そば ☆☆

4.【宇都宮】 とく富/天せいろ ☆☆★

7.【二宮】 そば道場 ますみ/天もり ☆☆

16.【足利】 山/もりそば ☆☆

17.【足利】 そば処 明治庵/せいろ ☆☆☆


おいらは思う。もしかしたら、おいらが蕎麦粉の違いを見分けられているのではないかと。考え方としては二つある。①北海道産の蕎麦粉の質が劣る、②北海道から栃木までの輸送時間が蕎麦粉の質を落としている、の2パターン。がしかし、まさに今検索をかけてみると、おいらは知らなかったが、北海道は蕎麦王国なんだそうな。蕎麦王国だからといって美味いとは限らないが、やはり検索結果をふまえれば、②が正解ということになるのだろうか。しかし、②なら、何故にわざわざ遠くから仕入れる必要があるのかということにならないか。遠くから仕入れるからには、理由は②つしかない。①わざわざ仕入れる価値がある特筆に値する蕎麦粉、②わざわざ仕入れる価値のある特筆に値する安価な蕎麦粉。真相は髪の味噌汁。ともあれ、おいらはもしかしたら利き蕎麦粉ができるのではないか?これから、事前に産地の情報を頭に入れずに食べて、答え合わせをして、産地の特徴を憶えてみようと思う。


どこにいくのか18軒目を迎えた蕎麦漫遊記。長々と書いたけど、蕎麦はやっぱり香りだと思うんだわ。そして蕎麦としての素材そのものの味。なにかつかめるまではこの基準は変わらずで評価していきたいと思います。ではでは


【蕎麦まとめページ】

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