『九・一そば 第一立花』(足利)- 蕎麦漫遊記18。
わいは馬鹿や大馬鹿者や! 二軒目もそば湯を完飲したことを悔いながら、破裂しそうな腹をかかえて、渡良瀬川をこえ足利北部に移る。三軒目はおいらが初登山に選んだ行道山の麓にある『九・一そば 第一立花』。駐車場に着いてもいたたまれない気持ちだった。二軒の梯子で腹が破裂しそうだからではない。足利で蕎麦を食べれば食べるほど輪郭がはっきりしてくる蕎麦の一面。おいらは間違っていたのか。貧弱な蕎麦体験の薄皮を剥がされ、蕎麦のことを知っているのかと問いつめられている気分だった。車の運手席のシートを倒し、目を瞑る。おいらは思えば遠くまできてしまった。蕎麦を食べ始めて18軒目。何故食べ始めたのかさえ今では思い出せないくらいだ。おいらが歩んできた道は間違っていたのだろうか。すべて我流で通してきたツケがまわってきたのか。しかし逆に考えてみれば、やはりおいらは今回もラッキーだったということになる。もし今日この足利三軒梯子を実行にふさなければ、この新たな蕎麦の一面を知ることはできなかったかもしれないのだから。『山』さんだけでは疑問は疑問のまま霧散したであろう。梯子したことによって見えてきた蕎麦の一面。それは間違いではなく、新たな段階へ昇る生みの苦しみなのかもしれない。そう考えれば、今おいらに起きていることは蕎麦道のイベント=2面のボス戦なのかも。きっとここをクリアすれば新たなステージが開けているに違いないわ。そうよ、そうに決まっているわ。
どりゃあああああ。身体を起こす。無駄な妄想をすることにより、車内で横になって15分も経過させることに成功。破裂しそうな胃の悲鳴も弱まった。いける、今ならいける。おいらは食べると決めたら最後、絶対に食べえるのだぁぁあ(やけ)。
というわけで、三軒目。ここの店は、創業明治十二年。四代に渡って足利で蕎麦を出し続けているんだそうな。おいらの基本書のピックアップによれば、ここは、現主人が考案した十割そば“生粉打ちそば”が絶品らしい。がしかし、それも1日限定15食。夜来訪のおいらが食べられるはずもなく、基本の“もりそば”で我慢する。限定は所詮限定、基本はあくまで“もりそば”であると言い聞かせていたらば、これって、最初の店のデジャヴだなとちょっと心配。
品が届くまで、「九・一そばの手引き」に目を通す。なるほど拘っているようですな。しかし、おいらはもう騙されない! 言うはヤスシ行うはキヨシである。食べてみないことにはね。特徴としては、9割で打った蕎麦を細く切りそろえてコシを出しているとのこと。
到着。どれどれ、例のごとく、数本つまみ上げて汁なしで吸い込む。ずずっ。細い蕎麦だから香りは軽めで微かに感じられる程度。ふーむしかし・・・。蕎麦を一定量すくい上げて、汁なしでもう一度。すずずぅつ、もぐもぐ、おお・・・・。すずずぅつ、もぐもぐ、おお! つけ汁を容器に移し、浸して吸い込む。ずずzっ、もぐもぐもぐ、こっこれは、まさか?!
完食。いやあ最後の最後に美味い店を発見しましたよ。『九・一そば 第一立花』さん。おいらがいまだかって食べたことのないような蕎麦を出してきた。極細切りで仕上げ、短時間でゆであげられた蕎麦は店自身が言っているようにコシがあってさらにキレもある。数本取って食べてもなんてことはないが、それは食べ方の間違いで、がばっと取って豪快に細い蕎麦を頬張る。口一杯に頬張った時の感触の面白さ。噛めば噛むほど広がる蕎麦の味というより美味しいものを頬張っているというような感覚の味。さらに汁を沢山付けて頬張ると甘からず辛からず蕎麦の美味しさを引き出すようなさっぱりとした汁で、これがまた美味しい。細い蕎麦だから汁がよく絡む。モグモグと噛む“食べる”楽しさよ。
コンセプトと自身の売りをよく理解し、どこに力を入れればそこがより光るのかをはっきりと弁えた蕎麦屋さんであった。蕎麦そのものの素材の味や香りが楽しめるわけではないが、ここ頬張る楽しさはオリジナリティを獲得している。これを大笊一杯に盛って大家族でお腹一杯になるまで頬張りたい。お盆期間とかに。面白かった。次足利に出てくるチャンスがあったら、是非限定十五食の生粉打ちそば(十割蕎麦)を頂きたいと思います。ごちそうさまでした。
【足利】九・一そば 第一立花/もりそば ☆☆☆★/そば湯 ☆☆☆
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【素材情報】
そば粉:主に北海道産
つ ゆ:本がえし/亀節、宗田節、サバ節の一番だし
薬 味:葱、わさび、大根
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