本年度のアカデミー賞(以後ア賞)は昨年に引き続きサプライズ満載の発表となった。昨年に引き続いているのに巷は大騒ぎ。それもそのはず、昨年のサプライズが映画ファンを喜ばせる絶妙な味付けがなされていたのに対して、今年のサプライズは映画ファンの期待を裏切っているものばかりだからだ。もっとも騒がれているのが「ダークナイト」の作品監督両部門からのシャットアウト。代わりにノミネートされたのがワインスタインカンパニーの「愛を読むひと」だったこともあって、ウォッチャーやファンはかなりエキサイトしている。
ただおいらから言わせれば、おいららの考えが甘かったと言わざるを得ないと思っている。アカデミー賞のような分母の大きい選考でジャンル物は圧倒的に不利だということは定説である。SFやホラー、子ども向け映画、アニメ、アクション、ファンタジー。ジャンル物を観ない人間はとことん観ない。だから評価されるわけがないのだ。それも今回は上記ジャンルとは一線を画すアメコミヒーロー物である。なにをか言わんやではなかろうか。現に英国アカデミー賞(分母が大きい)でも「ダークナイト」は落選している。
まあしかしながら、賞レースを俯瞰して見てみれば、やはり他陣営のキャンペーンが「ダークナイト」を忘れさせていったという印象は拭いきれない。あらゆるウォッチャーが監督賞のみならず作品賞までノミネート安泰と考えてしまったほどの「ダークナイト」の賞レース前半戦のリードも、実は後半猛失速していることが、今となっては見てとれる。派手もんが好きなGG賞の両部門から「ダークナイト」の名前が消えて、「愛を読むひと」がインしたあたりから、見当をつけておくべきだった。「ダークナイト」陣営は、ヒース・レジャーが故人になっていることもあり、お祭りキャンペーンをうてなかったのが痛かったわけで、結局キャンペーン量とノミネート確率は比例するものなのだから、キャンペーンで勝った陣営を非難しても始まらない。それにアート志向の現アカデミー賞に対して、大統領選挙の盛り上がりとあいまって、派手な作品がノミネートされるのではないかとかってに浮かれていたのはファン自身である。
兎にも角にも今年はサプライズ続出でした。細部は以下各部門で個別に語っていきたいと思いますが、今回おいらの予想成績は、最終予想でも22的中とふるっていません。コンテストに投稿した賞レース開始前も19的中。この19的中という数字は例年なら最低の部類に入るのですが、今年はあまりに難易度が高かったため、19的中でもコンテストで8位にランクイン(http://homepage3.nifty.com/filmplanet/oscar/contest.htm )。これを見ると、今年がどれだけ予想が難しかったか分かっていただけると思います。まあでもおいらは荒れるオスカーのほうが得意なのだ。ここから巻き返して、また優勝を狙っていきたいところではある。
ま、そんな話しはおいといて、以下各部門を個別に語っていきたいと思います。マイミクのらりぃくんと今年も予想対決をするから、踏み込んでは書きませんけどね。ではでは
■作品賞■
☆スラムドッグ$ミリオネア
☆ベンジャミン・バットン 数奇な人生
ダークナイト
☆ミルク
☆フロスト×ニクソン
→愛を読むひと
*「ダークナイト」の代わりにワインスタインカンパニーの「愛を読むひと」がイン。前哨戦は「スラムドッグ$ミリオネア」の圧勝。三大前哨戦を完全制覇した作品が作品賞受賞を逃すなんて事態は過去例がない。この部門は決まった感があるが、果たして?
■監督賞■
☆ダニー・ボイル(スラムドッグ$ミリオネア)
☆デヴィット・フィンチャー(ベンジャミン・バットン 数奇な人生)
クリストファー・ノーラン(ダークナイト)
☆ガス・ヴァン・サント(ミルク)
☆ロン・ハワード(フロスト×ニクソン)
→スティーヴン・ダルドリー(愛を読むひと)
*本賞へのノミネートを絶対視されていたがノーランがまさかのアウト。入ったのはダルドリーで作品賞と5候補が完全一致。これはアカデミー賞史上5回目の珍事である。ロン・ハワード以外なら誰がもらっても驚けない面子で、頭が痛い。
■主演男優賞■
☆ショーン・ペン(ミルク)
☆ミッキー・ローク(レスラー)
クリント・イーストウッド(グラン・トリノ)
☆フランク・ランジェラ(フロスト×ニクソン)
☆ブラッド・ピット(ベンジャミン・バトン 数奇な人生)
→リチャード・ジェンキンス(The Visitor)
*イーストウッド落選するとは?!「グラン・トリノ」は、単館上映から全米拡大上映への移行なのに、見事全米1位を樹立したファンに愛されている作品で、おまけにイーストウッド自身が俳優業は本作で最後と明言している。功労的意味合いで候補入り&受賞という流れにうってつけの作品だと考えていたのだけど。イーストウッドを競り落としたのは、リチャード・ジェンキンス。弱小配給の低予算作品でしかも夏前公開というのに見事候補入り。そんな離れ業を披露したからには、よっぽどの演技に違いない。日本公開熱望です。ともあれ、ここも誰が受賞するのかまったく分からない部門になってしまった。前哨戦リードしていたロークとショーン・ペンは、お互い嫌われ者&既に受賞済みという短所があり、だからと言って他に誰と言われてもなあ。頭が痛い。
■主演女優賞■
☆アン・ハサウェイ(レイチェルの結婚)
☆メリル・ストリープ(ダウト あるカトリック学校で)
ケイト・ウィンスレット(レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで)
サリー・ホーキンス(Happy-Go-Lucky)
☆アンジェリーナ・ジョリー(チェンジリング)
→メリッサ・レオ(Frozen River)
→ケイト・ウィンスレット(愛を読むひと)
*しかし、最近のオスカーの傾向やアカデミー賞協会内部の分析をするにあたっては、やはりイーストウッドの落選というのがもっとも大きなポイントだと思う。ここでもメリッサ・レオという世間的には無名に近いベテラン助演俳優がノミネートされている。それも早期公開作品で。明らかに裏文書で、今年のオスカーの方針を誰かが示唆していると思える。マイク・リー監督作の主演はオスカーと相性がいいはずなのに、今年はホーキンスも落選で逆目が出ている。昨年から基本方針が変わっていると思うんだよなあ。授賞式も例年のデータに頼ると痛い目を見そう。
■助演男優賞■
☆ヒース・レジャー(ダークナイト)
☆ジョシュ・ブローリン(ミルク)
☆フィリップ・シーモア・ホフマン(ダウト あるカトリック学校で)
デヴ・パテル(スラムドッグ$ミリオネア)
☆ロバート・ダウニー・ジュニア(トロピック・サンダー 史上最低の作戦)
→マイケル・シャノン(レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで)
*無名の外国籍新人俳優よりハリウッドの中堅俳優をノミネート。おいらはデヴ・パテルのノミネートはないだろうと考えていたから妥当かな。マイケル・シャノンは有名作品に多数出ているから皆さんも何本かは見ていると思うけど、たぶん印象は薄いと思う。そんな方にオススメなのは「BUG」。間違いなく記憶に焼き付きます。
■助演女優賞■
☆ペネロペ・クルス(それでも恋するバルセロナ)
☆ヴィオラ・デイヴィス(ダウト あるカトリック学校で)
ケイト・ウィンスレット(愛をよむひと)
☆マリサ・トメイ(レスラー)
ローズマリー・デウィット(レイチェルの結婚)
→エイミー・アダムス(ダウト あるカトリック学校で)
→タラジ・P・ヘンソン(ベンジャミン・バトン 数奇な人生)
*前哨戦後半の流れをそのまま堅持した候補5名。エイミー・アダムスは、最初の候補作が早く日本でも観られるようにならないかなあと。はおいといて、おいらが今回のオスカー予想で失敗したのは本部門。おいらは、ジョナサン・デミの新作「レイチェルの結婚」から本部門にローズマリー・デヴィットとデブラ・ウィンガーがWノミネートされると大胆な予想を披露し見事に撃沈してしまったのだ。黒人候補が2人という点や「ダウト」から4名も演技部門にノミネートされたものかねと疑ってしまったのが敗因である。ともかく、鉄板の本命だったウィンスレットが主演女優でノミネートされたこともあって、本部門は本命不在になってしまった。サプライズ起きそう・・・。
■脚本賞■
☆WALL・E ウォーリー
☆Happy-Go-Lucky
それでも恋するバルセロナ
☆ミルク
レスラー
→Frozen River
→In Bruges
*ここは面白い選考。最近のオスカーは本当に柔軟だなあと思う。「In Bruges」はコリン・ファレルの演技賞受賞の報が届いたばかりだし、波に乗っているね。「Frozen River」と共に早く日本公開決まってくれると嬉しいんだが。
■脚色賞■
☆ベンジャミン・バットン 数奇な人生
ダークナイト
☆ダウト あるカトリック学校で
☆フロスト×ニクソン
☆スラムドッグ$ミリオネア
→愛を読むひと
*作品賞候補から4候補が同じ。オリジナル脚本不足の構図は変わらず。