ロシア人のセルゲイだ。コース探しに苦戦しているようだ。
右手に握ったライトを四方八方に向けている。
「セルゲイ」名前を呼んで駆け寄る。
「君のライトは俺のよりも明るいから一緒に行ってくれないか」僕の顔を見るや、彼が開口一番に頼み込んできた。返事を待たずに僕の後ろに回り込む。よほど困っていたようだ。
こちらとしては2人で探せて目印のテープを見つけるのが楽になるので断る理由はない。
ゴールを目指す日露同盟である。
1人が遠くを照らし、もう1人が足元にライトを当て、地面を昼間の明るさに変える。目の数、ライトの数が倍になり、テープ探しの労力が大幅に減った。同盟は大成功である。
セルゲイの表情から焦りが消え、取り澄ましたポーカーフェイスに戻っていた。
その表情には疲れの色はない。足を引きずるそぶりすらなく、体力面ではかなり余裕があるようだ。
僕の方はというと、2人になって順調すぎて気が緩んだのか、右膝の痛みがぶりかえしてきた。太い針を打ち込まれているような鋭い痛み。思わず声を漏らしそうになるが、ぐっと堪えた。協力しているとはいえ、ライバルの前では弱点を隠しておいた方が得策に思えたからだ。明かりの必要な間は置き去りにされることはないにしても、この状態でスパートをかけられたら出遅れてしまう。
引き離されないためには何とかしないと。悶々と考えていたが、ブラジル軍人のジェイソンが初日に「Come to fight!」としきりに叫んでいた言葉を思い出した。
先のことを考えるよりも今を戦うのだ。