ジャングル記10 3日目 ココナッツ事件、あるいは、おっぱいマッサージ | ジャングルを走ってみた

ジャングルを走ってみた

ブログの説明を入力します。

キャンプ地で遅めの昼食を済ませ一息つく。腹が満ちると気分も穏やかになる。
和やかな昼下がりに、特ダネが飛び込んできた。なんとシャワーがあるというのだ。ジャングルのど真ん中にシャワー? 元新聞記者としては真偽を確かめねば。

「ようこそバスルームへ」
水浴びをしに、川に行くと、誰かが口にする冗談だ。入浴剤を使ってもないのに、濁っている風呂。まさに砂風呂だ。
広大すぎる「浴槽」に対して、シャワーは天候任せのスコールと当てにならない。
初日に浴びたきりで期待薄ときている。
だから、きれいに洗髪できるシャワーはジャングルランナーにとって一大事なのだ。
誰もが、というか僕自身が求めてやまないシャワー。ノズルの曲線すら愛おしい。
思う存分に汚れを洗い流したい。

坂の上のキャンプ地から下ったところでシャワーを発見。川に行く途中で通っていたが、あまりに慎ましやかで気づかなかった。四方がレンガで囲われ、入口はトタンの板がかけられている。屋根もトタンをのせただけで、床は砂浜のままと造りはいたって簡素だ。二つの個室が男女で仕切られている。

順番を待つ。使用中なのにやけに静かだ。蛇口をひねると、水がちょろちょろと流れる。出せるのは水しかない。お湯は当然のごとく出ないし、シャンプーもないのに、さっぱりして気持ちがいい。
それにしても、どうやって水源を確保しているだろう。浴びる前は気になっていたが、体がきれいになったら、きれいさっぱり聞くのを忘れてしまった。

リフレッシュした後は、日課となったマッサージに向かう。
マッサージ免許を持つマルさんとシャーリーの義母でブラジル人のママさん。2人が選手の疲れを癒やしてくれる。
この日はママさんが初めて僕の担当になった。

マッサージ台に上がり寝そべる。ママさんは推定50代後半(元記者などと言いながら、押しが弱くて年齢すら聞けないへっぽこぶり。あくまで推定年齢)。
身長こそ低いが、ブラジルの女性らしく胸、腹、尻と全身が豊満だ。
チャーミングな笑顔で毎日話しかけてくれる。ポルトガル語が分からない僕にもお構いなしで押しが強い。

ママさんの力強い両手が、足からふくらはぎ、太ももと順に筋肉をほぐしていく。
仰向けの状態でうとうとしていると、両手が上半身に移ってきた。
不意に顔面が柔らかな感触で圧迫された。びっくりして目を開けると、ママさんの巨乳が押し当てられていた。
集中しているママさんは特に気にするわけでもない。こちらが変にドギマギするのはばつが悪いので、再び目をつむってやり過ごす。
その後もむぎゅ、むぎゅっとおっぱいマッサージが続く。

シャーリーの声が聞こえてきた。ママさんに話しかけているようだ。
近づくにつれて口調が激しくなる。ママさんに返事をするひまを与えない。実はこの2人、シャーリーが年の差婚のため、旦那さんよりもママさんとの年齢の方が近い。
お互い遠慮することのない間柄。とはいえ、語気が強すぎる。
ポルトガル語なので話の内容は、さっぱり分からない。かろうじて「ジャポネーズ(日本人)」という単語が聞き取れた。
ひょっとしてママさんのマッサージを注意しに来たのだろうか。確かに呼吸が苦しくなることがあり危険だ。何より刺激的すぎる。

弁解を試みるママさん。手を止めてマッサージそっちのけの口論が始まった。窒息する心配がなくなってほっとしたのもつかの間、ママさんのすすり泣く声が聞こえてきた。
おっぱいマッサージなどというのどかな気分が吹き飛ぶ。
様子をうかがおうにも、目を開けるタイミングを逃し、またしてもマッサージ台の上から身動きが取れない。目を閉じたまま、静かに見守るよりほかない。

走っている時間よりも、よっぽど長い数分間が過ぎ、シャーリーが立ち去った。ママさんは涙を拭い、隣にいたマルさんと何か話し合っていた。ようやくマッサージが再開。体はほぐれたのに、精神的にどっと疲れた。

後でマルさんから、そっといきさつを聞く。ココナッツが口論の原因だった。厳しい口調に似つかわしくないきっかけだ。

どういうことかというと、毎日ゴールした選手にスタッフがフレッシュジュースを渡していたのだが、この日に限ってなぜかトップグループの選手にジュースが用意されていなかった。代わりに村の人が用意したココナッツが差し出され、スタッフが飲むように勧めた。ポルトガル、ブラジルの選手が一度は断ったものの、再度勧められ、飲んでしまった。もちろん選手は自分で用意した食料しか口にしてはいけない。

一連の出来事を耳にしたシャーリーは激怒。選手にジュースを飲ませた犯人探しを始め、ママさんということになってしまった。それで怒り狂い、言い分を聞く間もなくママさんを罵倒したのだった。
勧めたスタッフ側に非はあると思うのだが、シャーリーはココナッツを飲んだ選手にペナルティーを与えると取り付く島もない。選手の弁解はまったく聞き入れられず、何人かに2時間のタイムペナルティーが下された。一連の流れを考えると、ランナーとしてはとばっちりに近い。
この一件のせいで一部選手の間に大会側への不信感が芽生え、のちに不満が爆発することになる。