脱線と暴走 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

先日放送された「プレバト」という番組で俳句の永世名人を賭けて東国原さんが一句を詠もうとしていました。その直前、すでに永世名人の座に就いていた梅沢富美男さんが「永世名人は二人いらない。もし東国原が永世名人になるなら私はこの座を降ります」と高らかに宣言しました。結果、東国原さんは見事に昇格。永世名人の座を勝ち取ったのです。すると梅沢さんは掌を返したように笑顔で拍手し「東国原さんは素晴らしい。二人で永世名人となってこの番組を盛り上げて行きましょう!」と、臆面もなく言い放ったのです。会場は大爆笑の渦に包まれました。梅沢富美男さんの、あえて危険地帯に乗り込んでいく度胸と、その後のサバイバルが実に見事でした。

 

劇団研究生だった十代の頃、初舞台で僕は硬直していました。演出家の指示通りに立ったり座ったり、右を向いたり左を向いたりするだけで精一杯でした。自分の意志ではただの一歩も動けなかったのです。同期の俳優に自由自在に動くことの出来る奴がいました。僕は彼のことが羨ましくもあり妬ましくもありました。しかし、彼はときどきその役がしそうにない動きをしたり態度を取ったりもします。途端に物語は壊れてしまいました。案の定、演出家にそれを指摘された彼は混乱し、その後何も出来なくなってしまいました。

 

ちょうどその頃、尊敬する芥川比呂志さんが演出する劇団雲の「スカパンの悪巧み」を見に行きました。フランスの作家、モリエールの古典喜劇です。幕が上がると柳原良平氏が描いた色んな種類の船のイラストが舞台奥一面に描かれたシンプルでお洒落な港町の舞台装置。主演の橋爪功さんがローラースケートを履いて登場し舞台上を一周して退場して行きます。まるでチャップリンの映画のようなハイセンスな演出です。ところがその直後ずる賢い召使いを演じた橋爪さんの口から出て来たのはなんと大阪弁だったのです。フランス古典劇で大阪弁?しかしこれが絶妙で、モリエールの面白さを倍増させていたのです。

 

同じ時期、「写楽考」という舞台が上演されました。東洲斎写楽を主人公にした斬新な時代劇で、当時、注目を集め始めていた西田敏行さんが主役を務めていました。そして彼が登場して来た瞬間、僕は度肝を抜かれました。なんと彼はその頃ヒットしていたピンクレディの「ペッパー警部」を口笛で吹きながら登場して来たのです。時代劇にピンクレディ?しかしこれも絶妙で、洒落の破天荒なキャラクターがより強調されていたのです。

 

最近になってこれは「脱線」と「暴走」の違いなんだと理解出来るようになりました。舞台での脱線は舞台を壊してしまうことですが、暴走はワクワクドキドキに繋がります。梅沢さんのように度胸を持って暴走し観客を魅了していくことこそが大事なんだと思うわけです。