型からアクションへ | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

劇団を創立したばかりの頃、若手俳優たちには演技の「型」をつけていました。そうした方がそう見えるからです。しかし、10の型をつけても本番には3くらいの型しか残らず、そのことにいつも不満を感じていました。彼らもがんじがらめに縛られてかなりのストレスを感じていたようで、稽古終わりの飲み会に演出家の僕はほとんど誘われなくなって行きました。

 

10年くらい経って「must」ではなく俳優自身の「want」が必要だと考え直し、俳優たちの自主性を尊重する演出を模索しました。しかしこれでは探究心のある俳優は伸びていきますが、向上心のない俳優は鈍刀を持ったまま舞台という戦場に出陣し、その結果、返り討ちにあって這う這うの体で逃げ帰ってくるという情けない状況が続きました。

 

現在、5月に予定している舞台「ムーンライト・セレナーデ」で改めて「型」をつける演出を試行しています。先日、その型が非常に上手くいった事例があったので紹介します。

 

修復不可能になった恋人同士。女の気持ちは冷めていますが男はまだ彼女に執着しています。ある夜強引に彼女の部屋に行き勢いに任せてカラダの関係を持ちますが目的を果たすことが出来ませんでした。プライドが傷つく男は彼女に恨み言を行って部屋から出て行きます。この恨み言の台詞が僕のイメージしたのとは違っていたので、男の心理を言葉で説明したのですが上手く伝わりません。そのときふと閃いて「ベッドルームから出て来てすぐにジャケットを思い切りソファに叩きつけてみて」と指示しました。すると叩きつけるというアクションが無意識に感情を生み、直後の恨み言に「芯」が加わったのです。俳優たちもそれを実感してくれたようでした。つまり「叩きつける」というアクションが役の「want」を増幅したのです。ただ縛られていると感じる「型」から、役が欲している「アクション」に昇華した瞬間でした。

 

今回の稽古場に僕は手応えを感じています。