五億五千万年前、単細胞生物しかいなかった地球に、
沢山の細胞からなる多細胞生物が誕生していました。
生命の進化と癌との関係を研究している、
オスロー大学のジャーレ・ブレイビク博士。
癌の宿命は多細胞生物になったときに、
埋め込まれたと考えています。
多細胞生物は細胞が傷ついたり寿命を迎えると、
新たな細胞を作り、体を維持しています。
しかしこの仕組みにはリスクが伴います。
細胞が分裂するときコピーミスが起こり、
違う性質の細胞が生まれるのです。
コピーミスした細胞から癌細胞が誕生。
増殖を繰り返し、体を蝕んでいきます。
多細胞生物はこの仕組みから逃れられないと考えられています。
しかし人間では日本人の場合、
30%が癌で亡くなっているのに対し、
チンパンジーの癌死亡率はわずか2%です。
人とチンパンジーは700万年前に共通の祖先から別れ、
それぞれ進化して来ました。遺伝子の違いはわずか1%です。
ところが姿や行動にはずいぶん違いがあります。
全身を覆う毛や手足の長さ。
特に人と違うのはメスが妊娠出来る状態になると、
オスに知らせるため生殖器を膨らませることです。
人には見られない特徴です。
カリフォルニア大学のラスムス・ニールセン博士。
人とチンパンジーの1%の遺伝子の違いを、
詳しく調べて来ました。
研究の結果、ニールセン博士はある特定の遺伝子に注目。
それは人の精子を作る遺伝子でした。
チンパンジーと比べ大きく変化していたのです。
人もチンパンジーも、
かつては精子となる細胞は一定の割合で死滅し、
分裂が起きていました。
しかし人の精子は遺伝子が変化したことで、
絶えず増殖する特別な仕組みを手に入れていたのです。
ニールセン博士は癌細胞の研究もおこない、
その増殖の仕組みは精子と似ていることに気づきました。
コピーミスがきっかけて起こる癌細胞の増殖。
癌細胞も特別な遺伝子の仕組みを使って、
増え続けていたのです。
精子の細胞増殖とまったく同じ仕組みでした。
人の癌細胞は精子が増殖のために生み出した仕組みを、
みずからが増殖する力として取り込んでいたのです。
化石から人類の進化を研究してきた、
ケント州立大学のオーウェン・ラブジョイ博士。
人類は700万年前に二足歩行を始めたことで手が自由になり、
オスがメスのもとに、
多くの食料を運べるようになったと考えています。
「メスはその見返りとしてオスと交尾していたのでしょう。
これはメスが進化の過程で取った戦略だったのです」
広大なサバンナで子供を連れて、
食料を確保するのは大変なことです。
メスや子供にとってはオスが食料を採集して、
持ち帰ってもらうほうが安全で効率的です。
そこでメスはオスを積極的に協力させるため、
チンパンジーのような繁殖出来る状態を、
知らせるサインを無くしたのです。
オスにとっては一大事でした。
メスと交尾するタイミングがわからなくなったからです。
そのためメスと頻繁に交尾して、
自分の子孫を残そうとしました。
このとき必要となったのがメスと常に交尾が出来るよう、
精子を絶えず作り続けることでした。
人は進化の過程でそれを実現。
しかし皮肉なことにその仕組みが、
癌細胞に利用されるようになったのです。
▶︎近景