ある日突然、目の前にUFOが現れ、
宇宙人に連れ去られてしまう。
宇宙人による誘拐、エイリアンアブダクションです。
まず、事件の発端はひとりで寝ているとき。
夜ふと目を覚ますと体がぴくりとも動かない。
近くに気配を感じでそちらを見ると、
得体の知れない人影がいる。
翌朝目覚めると、そのときの感覚がリアルに蘇る。
体に目をやると見覚えのない傷が。
あのあとの数時間、
記憶が失われた間に何かが起きたのだ。
思い悩んだ末、彼らはセラピーを受けに行きます。
そこで催眠を受け失われた記憶を取り戻す。
催眠中に語る彼らの記憶。
大きな宇宙船。奇怪な宇宙人。
人体への検査や実験が行われる。
こうした体験談は、
その多くは同じような経過をたどると言います。
アメリカではこういう体験をした人が、
これまでに370万人いるというのです。
この現象、日本での「金縛り」に非常によくにています。
しかし、日本人の場合は、
それは宇宙人ではなく幽霊であることが多く、
江戸川大学精神生理学教授の福田一彦氏によると、
アブダクションで見る恐ろしい人影は、
金縛りの仕組みを理解すれば説明出来ると言います。
金縛りで感じるという、
現実と区別がつかないほどのリアルな幻覚。
それは夢とはどのように違うのか。
睡眠中眠りが浅くなると脳が活性化する。
このとき人は脳の中にある記憶の断片が、
集まって夢を見るのですが、
しかし記憶の集まり方が不規則なため、
夢の内容は矛盾したり現実味がないことが多い。
この眠りが浅いとき、
恐怖や不安の感情を感じる扁桃体が活性化するため、
夢は恐いものが多くなるのだというのです。
ここでさらに眠りが浅くなり意識が目覚め始める一方、
体の筋肉が目覚めから覚めない場合に起きるのが金縛り。
医学的に言うと「睡眠麻痺」です。
睡眠麻痺のときは五感を司る部分が活性化。
そうすると寝る直前に五感で感じた記憶が、
真っ先に呼び起こされる。
その結果、自分が部屋で寝ている場面の、
リアルな幻覚を見ると考えられるのです。
こうした状況が重なると体は動かず、
いままさに恐ろしいものが、
近くにいると感じるようになるのです。
この幻覚による恐怖の対象は、
国や文化によって異なると言います。
アメリカ人は宇宙人。日本では幽霊。
中世のヨーロッパでは「夢魔」ナイトメア。
つまり悪魔だったり魔女だったりします。
体験者の多くが最後にたどり着くのが催眠。
そこで引き出された記憶によって、
アブダクションが確信へと定着します。
しかし、スタンフォード大学の、
デビッド・シュピーゲル教授によると、
そもそも催眠で引き出される記憶は、
間違いが多いと言います。
「催眠とは例えれば望遠レンズで、
過去の体験をのぞきこむようなもの。
過去の体験を忘れ思い出すのが難しいときに、
催眠は有効に働きますが、
実際に起きていない記憶を作り出すこともあるのです」
教授の研究によると、催眠を受けると、
脳の中の間違った記憶が、
出てきてしまう可能性があるというのです。
教授が注目したのは「前部帯状回」という脳の一部。
人が考えたり行動するときは、
まず脳の各所から感情や記憶が前頭前皮質に集められる。
ここでは実際に自分が経験した記憶や、
他人に聞いた話や作り話の記憶などが入り交じっている。
前部帯状回はそうしたさまざまな記憶をチョイスし、
矛盾のない正しい記憶を行動へと繋げていくのです。
ところが催眠を受けると、
その機能がうまく働かなくなってしまい、
実際には体験していない記憶、
たとえば本や映画で見た記憶が、
正しい記憶と認識されてしまうのです。
つまり人間の記憶は、
自分が体験したことだけではなく、
あったことなかったこと、知識として持っていたこと、
人から吹き込まれたこと、
これらすべてを自分が実際に。
体験したこととして蘇らせてしまうわけ。
これは俳優にとっては、
経験だけではなく想像力で、
役作り可能だという福音でもあると思うのです。
▶︎下北沢