船通学 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


高校時代の3年間ずっと船通学でした。


瀬戸内海の因島から、

小さな客船に乗船して尾道まで約1時間。

しかし、そこには旧態依然とした慣習がありました。


つまり、1年生は客室に入れてもらえないのです。

冬の北風吹きすさぶ中でも、

ずっと甲板にいなければなりません。

反対に夏は当時クーラーのない客室は蒸し風呂状態。

でも、2、3年生は汗ダクダクでもじっと我慢なのです。

ナンセンス。

そう思って僕は度胸を決めて客室に入ることにしました。


座席に腰かけて緊張している僕のそばに、

いかにも不良といった感じの、

厳つい3年生がやって来ました。

「おい、どういうつもりじゃ?」

僕は兼ねてから用意しておいた、

言い訳を口にしました。

「実は僕は中学のときに、

 肺炎が原因の重い病気にかかりまして、

 もし今度肺炎になったら

 命はないぞと医者に言われているんです」

たじろぐ3年生。


彼はすぐに甲板にいる僕と同じ中学出身の、

1年生を呼んで事情を聞きました。

そして、僕が中学1年生のときに、

長期入院していた事実を聞くと、

3年生は言いました。

「そ、そうか、お前体大事にせえよ」

以後3年間、僕は冬の寒いときは客室に。

夏の暑い日には甲板で、快適に通学しました。


数年後、このエピソードを、

大好きだった女の子に得意げに話した事があります。

すると彼女が一言、

「なんだかイソップ童話のずる賢いキツネみたい」

え~~~~っ!そんなあ~~~~~っ!



▶︎近景