末弟 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


3人兄弟です。

僕と2歳年下の弟は仲がよく。

2人ともどちらかというと文科系だったので、

映画や文学の話をしたり、

高校生の頃には二人でフォークソングに熱中し、

アマチュア・バンドを結成したりしてました。

やがて、僕は俳優を目指し上京。

2年後、すぐ下の弟も大学入学で上京することに。


あるとき母から悲痛な電話がかかって来ました。

末弟が中学生になってからの反抗期がすさまじく、

何かというと母に楯突いてくるらしいのです。

暴力こそ振るわなかったものの、

手のつけようがないほどに、

すべてのことに反発しているらしいのです。

電話口で泣きながら弱音を吐いている母、

あんな母をそれまで見たことがなかった、

僕たちは途方に暮れました。


ある年の6月頃、

母から何度目かの電話がかかってきました。

それまでも、末弟と何度も何度も、

話し合いをしていたらしいのですが、

数日前に、ふと思って末弟に尋ねてみたんだそうです。

「あんた、もしかして淋しいん?」

「………」

「お兄ちゃんが二人とも東京へ行ってしまって、淋しいの?」

すると、末弟は大粒の涙をこぼして、

コクリとうなづいたんだそうです。

そしてそれからはまるで憑き物が落ちたように、

反抗期前の末弟に戻ったんだそうです。


人が泣いたり、怒ったり、

笑ったりするのには理由があります。

その理由を見つけてあげることが、

大事なことなのだと思います。


夏休み、母の計らいで末弟が上京して来ました。

弟が大ファンだった、

小田和正のコンサートを見るためでしたが、

僕とすぐ下の弟がそれぞれ自分のアパートに泊めてやり、

末弟の面倒をみてやりました。

夜は布団を並べて話をしました。

文科系の兄と体育界系の弟とでは話もちぐはぐでしたが、

夜遅くまで色んな話をしました。


あるときアルバイトから戻った僕が弟に聞きました。

「昼間なにしてたん?」

「散歩に行った」

「道わかったか?」

「そこの道を真っ直ぐ歩いて行って、

 疲れたからまた真っ直ぐ戻って来た」

「馬鹿じゃのう、ハハハ」

そう僕に言われている末弟はなんだか嬉しそうでした。

1週間後、弟は笑顔で帰って行きました。



▶︎渋谷