父危篤 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


以前、僕の劇団に所属していた劇団員のエピソードです。


アルバイトで始めた喫茶店のウエイトレスを、

一週間で辞めたいと思った彼女は、

お父さんに病気になってもらうことにしました。


彼女はお店に行って店長に告白しました。

「田舎の父が突然倒れたんです!」

最初、彼女の言葉を、

あんまり信じていないような店長の態度に、

彼女は必死になります。


以前、親戚のオバさんが病気になったときのことや、

映画で見たことやあれやこれやを、

総動員して話しているうちに、

彼女はだんだん、

本当に自分の父親が病気になってるんだと錯覚し始め、

ボロボロ涙をこぼしながら店長に訴えました。

すっかり騙された店長さんは、

彼女に一週間分のアルバイト料と、

なんと見舞金までくれたのだそうです。


その時の彼女はまぎれも無く名女優だったと思います。

ひとりでその気になるんじゃなく、

まず相手を騙すつもりで始める。

そして、必死になっているうちに錯覚する。

これも演技の極意なんじゃないかと僕は思います。



▶︎みりん