これまで何度となく、
葬式というものに参列して来ましたが、
故人を偲んで悲しくなったり、
参列者の言葉に感動したりすることはあっても、
葬式そのものに感動したことはほとんどありません。
以前、叔母が亡くなった時にそのお葬式に参列しました。
公民館のような場所を借りての葬式でしたが、
僧侶の到着を待っていたそのときです。
どこからともなくチャリーン、
チャリーンと鈴の音が聞こえて来ました。
何だろうと思って入り口の方をふり返ると、
そこには旅姿の僧の姿がありました。
頭に笠をかぶり、質素な衣服に身を包み、
片手に杖を、そしてもうひとつの手には鈴。
足下には脚絆と草鞋という、
まさに時代劇から抜け出して来たようないでたちで。
僧は静かに祭壇までやってきて座るとお経を読み始めました。
そして読み終わると参列者に礼をして、
そのまま会場から出て行ったのです。
旅の途中でたまたま通りがかった僧が、
お経を読んで、また旅に出て行く、そんな感じでした。
もしかしたら、彼は過去からやってきて、
叔母の霊と一緒に未来に旅立って行くのかもしれない、
そんな空想をしてしまうような、
その素晴らしい演出に僕は思わず唸ってしまいました。
あとで親戚の人にたずねると、
親鸞を宗祖とする浄土真宗のお坊さんなのだそうで、
華美で豪奢な衣服の偉そうな坊主のお経より、
ずっとありがたいと感じました。
それが浄土真宗すべての演出なのか、
彼のオリジナルなのかはわかりませんが、
こういう演出、気遣い、とても大事なことだと思います。