お葬式 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


これまで何度となく、

葬式というものに参列して来ましたが、

故人を偲んで悲しくなったり、

参列者の言葉に感動したりすることはあっても、

葬式そのものに感動したことはほとんどありません。


以前、叔母が亡くなった時にそのお葬式に参列しました。

公民館のような場所を借りての葬式でしたが、

僧侶の到着を待っていたそのときです。

どこからともなくチャリーン、

チャリーンと鈴の音が聞こえて来ました。

何だろうと思って入り口の方をふり返ると、

そこには旅姿の僧の姿がありました。


頭に笠をかぶり、質素な衣服に身を包み、

片手に杖を、そしてもうひとつの手には鈴。

足下には脚絆と草鞋という、

まさに時代劇から抜け出して来たようないでたちで。

僧は静かに祭壇までやってきて座るとお経を読み始めました。

そして読み終わると参列者に礼をして、

そのまま会場から出て行ったのです。


旅の途中でたまたま通りがかった僧が、

お経を読んで、また旅に出て行く、そんな感じでした。

もしかしたら、彼は過去からやってきて、

叔母の霊と一緒に未来に旅立って行くのかもしれない、

そんな空想をしてしまうような、

その素晴らしい演出に僕は思わず唸ってしまいました。


あとで親戚の人にたずねると、

親鸞を宗祖とする浄土真宗のお坊さんなのだそうで、

華美で豪奢な衣服の偉そうな坊主のお経より、

ずっとありがたいと感じました。

それが浄土真宗すべての演出なのか、

彼のオリジナルなのかはわかりませんが、

こういう演出、気遣い、とても大事なことだと思います。



▶︎高田馬場