40年前「写楽考」という舞台を見ました。
矢代静一作「淫乱斎英泉」「北斎漫画」と並ぶ
浮世絵三部作のひとつです。
このとき主役の東洲斎写楽を演じたのが、
まだ20代で新人だった西田敏行さんです。
なんと彼は写楽登場の場面で、
当時大ヒットしていたピンクレディの「ペッパー警部」を、
口笛で吹きながら現れたのです。
実はその頃の僕はその類の演技が大嫌いでした。
シェイクスピア作品の中に時事ネタを入れて笑いを取る。
作品の世界観を壊すだけじゃないか、と思っていました。
しかし「写楽」と「ピンクレディ」にはなんの違和感もない。
むしろ写楽という人物の破天荒で謎の存在感を表すのに、
「ペッパー警部」ほどぴったりなものはない。
僕は西田さんの軽妙洒脱な演技に心を奪われました。
同時期、同じように「演出センス」を感じたのが、
芥川比呂志演出の「スカパンの悪だくみ」です。
作品はフランスの古典喜劇ですが、
当時、まだ無名の若手だっった橋爪功さんが主演。
幕が上がるとローラースケートに乗って現れる主人公。
しかも喋り始めると彼だけが流暢な関西弁。
フランス古典劇なのにローラースケートに関西弁。
これにも度肝を抜かれました。
しかしこれが物語の雰囲気によく合う。
舞台はシンプルな港町という設定で、
舞台奥の書き割りには著名なイラストレーターが描いた、
港に浮かぶたくさんの船の絵。
しかも国も時代もバラバラの船がごちゃ混ぜに書いてある。
つまりこの物語は時代も国も関係ないのだと示唆してある。
こんなにオシャレで面白いコメディを、
僕はそれ以前もそれ以後も見たことがありません。
上手か下手ではなくセンスが良いかどうか、
これが感動分岐点を分けるのではないか、
そんなふうに思うのです。