よく台本に書き込みをする人がいます。
彼らの台本を見せてもらうと、
余白にはぎっしりと文字が書き込まれていて、
いかにも台本を読み込んでいるなという感じがします。
しかし、僕自身はこの台本に書き込むということが、
昔からどうもしっくりきませんでした。
これまでの上演台本を改めて開いてみると、
余白はほとんど真っ白で印刷したばかりのようです。
まあ、演出も兼ねていることがほとんどなので、
たとえば挿入曲のきっかけや、
曲名などを書き込んだりはしますが、
演技的なことはまったく書きません。
台詞のニュアンスなど文字にしたとたんに
なんだか色あせていくというか、
なんか思っていたことと違うなと感じてしまうのです。
そんなわけで何年も前から、
劇団員たちにも「メモ禁止令」を出して、
稽古中は台本に集中するのではなく、
目の前の俳優の演技に、
集中するようにアドバイスしてきました。
先日、テレビの情報番組を見ていて、
「感覚的なことはメモしないほうが良い」
ということを知ってなんだかとても腑に落ちました。
演技というものも、その作業はとても感覚的なものです。
確かに事前に登場人物のバックグラウンドを考えたり、
演技の方針を決めたりするのは左脳の作業ですが、
実際に台詞を喋るときなどは感覚的な右脳の作業です。
つまり、理屈ではなく、
僕の脳が演技のことを文字でメモするという、
左脳の作業に違和感を感じていたというわけなのですね。