人と話すときの声の大きさを、車のギアの、
ロー、セカンド、サード、トップに例えてみます。
1対1で会話するときがロー。
喫茶店や居酒屋で3、4人で会話するときがセカンド。
体育館で生徒たちの前で何かを発表するときがサード。
精一杯の大声で怒鳴るときがトップ、ということにすると、
日本の舞台で多用されているのはセカンドとサードです。
あきらかに複数、多数の人に向って、
つまり観客に向って話しかけているわけです。
アメリカ映画でも70年代以前のハリウッド映画なんかでは、
けっこうセカンド、サードで俳優たちが喋っていますが、
70年代以降のアメリカ映画は、
あきらかにローが中心になっていきました。
そして映画の中で1度か2度、
本当に激して相手を罵倒するときにトップ。
当時、声の出し方が、
なんでこんなに日本と違うんだろうとひっかかりました。
でも、なんだかわからないけど、
そっちのほうがリアルに感じるんですね。
ずっとこだわっててあるとき気づいたんです。
そうか、対象が観客から相手に変わってるからだ、と。
そこで自分の劇団の俳優たちに言いました。
「本番で観客を無視しよう」と。
観客をないがしろにしろと言ってるわけではないんです。
観客に何かを表現して見せるのではなく、
たとえばお客さんがマンションの一室を、
覗き見しているような気分になれる舞台、
そういうのを作りたいんだ。
そう言って俳優たちには納得してもらいました。
現在もこの実験は続いてます。
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