産経WEBよりコピペ・・・【歴史の交差点】東京大学教授・山内昌之 アウグストゥスの金針
民主党代表選では、マニフェスト実現の財源論争が大きな焦点となった。また、政治とカネの問題も相変わらず世論の関心から消えていない。いずれにせよ、清廉か貪欲(どんよく)かの違いはあっても、政治家はカネの問題から逃れることができない職業なのである。
利権を誘導しカネをばらまいた政治家といえば、まず古代ローマのカエサルを思いだす。カエサルは三頭政治の仲間となるポンペイウスの歓心を買うために、その周囲や元老院議員にカネを無償か低利子で貸して恩義で縛り、他の人びとにも気前よく振る舞い好意を示した。
名著『ローマ皇帝伝』(岩波文庫・国原吉之助訳)の作者、スエトニウスは、カエサルが彼の気性をあてこみ呼ばれてもいないのに来る人びとにも、好意を得るために大枚の祝儀をはずんだと書いている。
おまけに、あらゆる奴隷や解放奴隷にまで大盤振る舞いをし、進んで後見人を買って出た被告や若い放蕩(ほうとう)者たちにも援助の手を差し伸べたというから、カエサルの気前の良さは尋常でなかった。これではカエサルがいくら借金を重ねても、家計は火の車であったろう。
それでもカエサルは、幸運と実力に支えられた外征の成功によって、貢納(こうのう)や罰金や戦利品を得た結果、ふんだんに富を手に入れることに成功したのである。
しかし、出るモノも多かった。軍団兵には給料を2倍にし、穀物があれば無制限に量もはからずに与えたというから、どこまでも太っ腹なのだ。スエトニウスの本にはカエサルの気前のよさが次から次に紹介されている。
ヒスパニア(イベリア半島)での勝利には、昼食が2度も振る舞われたという。「というのも始めのはしみったれた馳走で、気前のいいカエサルにふさわしくなかったと判断したので、五日後にあらためて豪奢(ごうしゃ)な昼食会を催したというわけである」。瞬間的には兵士や市民が贅沢(ぜいたく)に酔いしれたことは言うまでもない。
カネがいくらあってもきりがなかった養父のカエサルと違い、彼の養子、アウグストゥスはまるで逆の生き方をした。勲章を出すのもできるだけ惜しみ、シチリア海戦の凱旋(がいせん)将軍にも贈り物を与えないという始末ぶりであった。とにかくアウグストゥスは、大胆さよりも慎重さ、ゆっくり急げ、申し分なく立派にやれば申し分なく早くしたことになると考えた人物なのである。
勝つ見込みの方が被害の恐れよりも大きいと確信しなければ、合戦も受けて立たなかった。アウグストゥスは、かつて菅直人首相も小沢一郎氏と一緒に楽しんだ釣魚を政治にたとえている。
「最大の危険を冒して最小の利得を追求するのは、金の針で魚を釣るに等しい」と。なぜなら「金針をもぎとられた損失は、どんな魚を捕らえても償えないのだから」。
これは、ともすれば財政出動やバラマキで国民の超短期の歓心を買いながら、(もはや中長期でなく)短期でさえ国を破滅させかねない現代のカエサル的な気前のよさへの戒めと言わなくてはならない。ローマ帝国初代の皇帝にふさわしい責任感に、現代の政治家も学ぶべき点が多いのではないか。・・・・・以上
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ウィキペディアより・・・アウグストゥス(Augustus)は、歴代のローマ皇帝の称号のひとつ。この語はラテン語で「威厳者」または「尊厳者」を意味する。アウグストゥスの名は、初代ローマ皇帝アウグストゥス(オクタウィアヌス)を指すことが多いが、彼の後はローマ帝国の皇帝を示す最高の称号として用いられるようになった。ローマ帝国が崩壊した後も、特に神聖ローマ帝国などヨーロッパでは貴族の男性の名前に用いられることがある。女性形はアウグスタ(Augusta)。