炭坑ガールズ 主語が観客のステージ | 君が好き

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アイドルの話でもしようず。

昨日は炭坑ガールズの地元イベント「大九州歌謡フェスティバル」に行ってきた。
会場の荒尾総合文化センター小ホールは、そのイベントのメインである歌謡曲を聴きに来たお客さんが集まっていた。
この日は熊本ではたくさんのイベントが行われていることもあり、先週のような熊本ドルヲタ荒尾に集合という感じではなく、歌謡曲を聴きに来られているお客さんに比べてアイドルヲタクは少なかった。
そんななか、いよいよステージには炭坑ガールズが登場。
炭坑ガールズには「盛り上げ隊」と「アイドル」という2パターンのパフォーマンスがあり、ファンの方たちはその日の衣装で見分けているようだ。
この日の衣装はセーラー服。
これはアイドルステージだ。
よーしキモヲタDDおじさん発動するぞ! とぼくのボルテージも上がったところで、意外な曲のイントロが流れる。
一曲目はなんと「ダイナミック琉球」だった。
イヤーサーサーの合いの手に、本格的な歌声、年少メンバーまで仕上がってるダンス、なにげに完成度の高いその曲をぼくは、「炭坑ガールズはこんなこともできるんだ」と驚きながら見つめていた。
そして二曲目に来たのが「ラララDance」。
スカートの衣装だったため、10周年ライブのツナギ衣装のときとは違い、激しいアクロバットはなかったものの、笑顔と元気、パワーを合言葉に、アイドルヲタクじゃない人にも伝わる楽しいパフォーマンスを行い、椅子に座っている一般の観客までも左右に揺らしていた。こういうヲタクじゃない人の多い現場では、このシンプルなダンスで会場に一体感を生むこの曲は強い。
もちろんそれは、楽しめる楽曲の良さやメンバーのパフォーマンス力があってこそ。それらを武器にしっかり演じる炭坑ガールズはさすがだった。
ぼくは、衣装がアイドルだったことでこの日「ラララDance」が見れるとは思っていなかったので、今週も「ラララDance」を見られてよかったと酔いしれていた。
タイテをぼくは把握してなかったので、「ラララDance」が終わると、もしかしたらこれで終わりかなあとも思ってたら、ステージではしょうこさんを中心にMCが始まった。どうも次の曲もありそうだった。
MCの途中で、ステージには、一度ハケて衣装の上に着物を着つけていたYUIさんが登場。何が起こるのかと見守っていると、なんとYUIさんが歌い、他のメンバーが踊る「お祭りマンボ」が始まった。
またもやこれもすげーぞと目を丸くし、ぼくはこれこそが「盛り上げ隊」なのだと気づいた。
つまり、炭坑ガールズのステージは主語が観客なのだ。
普通はアイドルステージの主語は「私たち」である。
「私たちの歌を聴いてください」
「私たちのダンスを見てください」
「私たちの努力の結果を見てください」
しかし、これはアイドルだから成り立っている。
アイドルには、ずば抜けた歌唱力を求められているわけでも、ずば抜けたダンスが求められているわけではない。
アイドルとはパーソナルを売りにしているものであり、
「推しが歌っているから聴きたい」
「推しのダンスを見たい」
「推しの努力を支えたい」
というのがアイドルヲタクのニーズなのである。
だけど、アイドルファンはそうだけど、一般の人相手にはそれが成り立たない。
「推しが歌っているから聴きたい」のではなく一般の人は「聴きたい唄を聴きたいのだ」。
そこを炭坑ガールズはよくわかっているのだろう。
だから、この日はあらかじめ熊本でたくさんのアイドルイベントが開催され、アイドルヲタクが少なく、客席は歌謡曲を聴きに来るお客さんが多いことが予想できていたからこそ、歌謡曲を聴きに来たお客さんでも飽きさせないセットリストを用意していたのだろう。
普通にそういうセットリストが組めることもすごいが、それが文化祭程度の付け焼き刃的なものではなく、しっかり踊れ、歌えているのもすごい。
そして実際、歌謡曲を聴きに来ていたお客さんを楽しませていた。
「私たちを見せたい」ではなく「観客を楽しませたい」。そこに力が注がれた結果、会場が楽しい空気に満たされていたのだ。
つまり会場を盛り上げたい、まさに「盛り上げ隊」なのである。
もちろん、それがお金を払ってでも見る価値のあるパフォーマンス力だから会場は盛り上がっているという実力的な裏付けもある。
味方であるアイドルファンを喜ばせるのではなく、一般の人まで楽しくさせる。炭坑ガールズ、すごいなとぼくは感心した。
そんな楽しい空気の中でラストの用意されていたのは現代風にアレンジされた「炭坑節」だった。
もともとこの炭坑節は明治時代の民謡「伊田場打選炭唄」が原曲で、その後炭鉱夫たちが歌ったゴットン節が発展して芸者さんたちが歌う座敷歌になり、戦後流行歌としてレコードに吹き込まれたものが爆発的に流行し、盆踊りの定番と化した曲である。そして面白いのは、民謡からゴットン節、座敷歌、そして流行歌とそれぞれにメロディーや歌詞が違う。だから大げさなことを言うならば、明治・大正・戦前・戦後と変わっていったように、この曲が令和の時代に変わるならば、この炭坑ガールズの「炭坑節」みたいに変わるのもいいなと考えていた。ドリフターズの「ズンドコ節」と氷川きよしの「ズンドコ節」がメロディーや歌詞が大きく違うように、日本の音楽にはそんな柔軟性があり、それを活かすのも面白いなと感じた。
まあ、それはともかく盆踊りでおなじみで、石炭や炭坑と言えば頭にイメージする人の多い「炭坑節」を、かつての炭坑の都・荒尾で踊る炭坑ガールズというシチュエーションは本当に炭坑ガールズが自分たちの武器をわかっていてそれをうまく使い、それが一般のお客さんにも通じているように感じた。これこそが先週感じた10年のグループの歴史の強みなのだろ。
そのように、昨日の炭坑ガールズには、普段アイドルヲタクが多数派を占める会場とは全く違う一面を見せていただいた。その引き出しの広さには舌を巻いたし、それらの活動の経験が今後も蓄積され、アイドル会場のステージもよくなっていくんだろうなとぼくは感じている。

アイドルステージ以外での炭坑ガールズをご覧になったことのない方は、盛り上げ隊の炭坑ガールズもぜひ見たほうがいいですよ。アイドル活動じゃないからこそ、アイドルを見直し、アイドルの良さが感じられます。