君が好き

君が好き

アイドルの話でもしようず。

6月の長崎からスタートした熊本アイドル3グループ合同九州北部ツアー。7月に大分で鶏天を食べて旅行気分を味わっていたら、8月10日に天草、そして8月17日に佐賀とあっという間に折り返し地点を過ぎてしまった。
6月、7月と各グループはこのツアーを照準に仕上げてきているなという感じがあったが、8月10日の天草に関しては、Re:fiveにとっては聖地studio5なのでここで新曲初披露をぶつけてきていたとはいえ、どちらかというとゲストが煌ということもあって、たしかにツアーだったのだろうが、いつものホーム感のあるイベントという感じだった。もちろんこれはこれで楽しかったけど。
それからちょうど一週間で迎えた佐賀。
場所はいつもの656広場。SunnyHoneyに関しては8月14日にもここでステージを行ったばかりの場所だ。
気温が体温を越えるほどの猛暑の屋外イベントなので、長崎や大分ほどの緊張感のあるステージではなく、天草のようなどちらかというと楽しい空気のイベントになりそうな予感だった。

とはいえ、佐賀在住で主現場が熊本であるぼくにとっては、熊本のアイドルが主催ライブを佐賀でやるということは感慨深いことだった。ちょうど今年はあおたいPによって、熊本でサガンプロの主催ライブも行われた年だったこともあり、記念すべき一年だなと感じた。
十年ほどぼくは熊本のアイドルを追っかけて佐賀から通っているが、佐賀と熊本はアイドル文化的に交流はこれまでも多かった方だと思う。それはあおたいさんのように熊本の方が佐賀を主現場にされていることもあれば、ぼくのように佐賀に住んでいながら熊本が主現場という人もいる。
個人的な感想ではこの十年間、佐賀のアイドルを熊本はリスペクトし、熊本のヲタクの沸き文化を佐賀はリスペクトしていたように思う。
そのようにお互いをリスペクトしあえる関係だったからこそ、このふたつの地域の交流はうまくいっていたのだと思う。

開演直前、656広場は屋外ステージなので袖でスタンバイしているアイドルがどうしても目に入ってしまうが、そこにいたのは熊本Flavorの日向みさきさん、こはるさん、のぞみさんの中学二年生トリオだった。
タイムテーブルにはオープニングと書いてあるが、どのグループが出演するかは書かれていない。
このオープニングは、長崎と大分でSunnyHoney、天草ではRe:fiveが受け持っていたが、ここで熊本Flavorが登場したのは、この中学二年生トリオにとって大きなチャレンジだったと思う。実際、その初々しさがFlavorのかわいらしい世界観とマッチしているオープニングだった。曲も「シエスタ」とかわいく攻めていたのもこのオープニングの初々しさを表現するのにぴったりだったと思う。

この日はトリも熊本Flavorだった。ここは初々しさに加え、かっこいい表情も見せてくれた。
感じたのは日向みさきさんの歌唱力と存在感、そしてその陰に隠れずに終始笑顔を振りまいていたこはるさん、のぞみさんの成長だった。ラストの曲「コイマチ」ではこのこはるさん、のぞみさんが歌うパートもあり、もちろんそれ以外ではほぼソロステージのように歌いまくっていた日向みさきさんもすごいのだが、それに押しつぶされずに、ファンの視線を集めていたこはるさん、のぞみさん。
水無月さんと聖さんが休演でそれはそれで残念だったが、いなくてもしっかり熊本Flavorらしく楽しませてくれたこの中学二年生トリオは素晴らしかった。

三日前にもくむつライブに出演していたSunnyHoneyは、熊本Flavorの初々しさとは逆に、手慣れた感じのステージだった。
これにはメンバーのもくむつライブに出たばかりという余裕もあっただろう。だけど、それ以上に感じたのは、ずっと佐賀が憧れ続けていた熊本の沸き文化を支えてきたヲタクがSunnyHoneyのステージでは爆発するからだということも感じられた。
そのヲタクたちを加速づける紬ひなたさんのあおりも絶好調だったうえに、ぼくはこの日初めて聞いたのだが、「太陽的な僕のカノジョ。」ではメンバーがイントロでミックスを先導するように「しゃーいくぞー」とあおる場面もあった。
そうやっていつもいるヲタクが盛り上がってくれることで、たとえツアーといういつもと違うステージでも、いつもと同じように手慣れたステージができる。それこそが佐賀が憧れた熊本の沸き文化の素敵な形であり、それがあったからこそいつも通りの手慣れた感じでSunnyHoneyはステージをこなしていた。

久々に珍しいフリフリセーラーで登場したRe:fiveは、佐賀で人気の「Avalon」に新曲の「ツインテール似合ってる?」を遠征初披露ということで気合が入っていた。なにげに緊張感あるツアーらしいステージをやっていた印象だった。

特に「ツインテール似合ってる?」の曲振りを白鳥ひなさんがするのは盛り上がった。4月のあおたいPの熊本主催で、まざまざとサガンプロや園田有由美さんのすごさを見せつけられたRe:fiveは、これまでの熊本のアイドルやヲタクがそうだったように、園田有由美さんやひぜんりささんをリスペクトしている。そのリスペクトしているアイドルのホームステージで主催ライブができるのだから、いいものを見せたい。その気合いがセットリストはもちろん、久々の衣装、そしてなにより激しいパフォーマンスから伝わった。
いつかはサガンプロのアイドルのようにパフォーマンスで評価されたい。そんな気持ちが見えるステージだった。

佐賀アイドルのステージはまずは、りゅらちーさんからスタート。
弱冠小学四年生でカバー曲中心のステージだったが、ギャルっぽいキャラクターでMCをこなしてて、個性を見せていたのにタダモノじゃないなと感じた。
りゅらちーさんはそのあとのひぜんさんや園田さんのステージのときにフロアに降りてきてヲタクに混じっていた姿も好感が持てた。

いまやもくむつライブのマスターとして佐賀のアイドルシーンを引っ張っているひぜんりささんは、猛暑の屋外でもお姫様のドレスのような衣装をキメて登場。さすがである。
一曲目は8周年ライブで披露されたという新曲からスタート。「セカイノシンパシー」が最新曲だと思っていたのでどんどん新曲が増えてるなあとそこで勢いを感じた。
そして「セカイノシンパシー」もそうだけど、最近、かっこいい曲が増えたのがステージの幅を広くしているように感じた。
カラフルな眩しい衣装にこの日のようなドレススタイルだと、かわいい世界を見せたいように見えるのだが、かっこいい曲をやってしまう。その奥の深さがひぜんりささんの最近のステージの魅力ではないかと感じた。奥深く演じきれているのが、さすがひぜんりささんなのである。

さすがと言えばこの日もさすがだったのが園田有由美さん。
熊本はやはり沸き文化ということで、一曲目から沸き曲の定番カバー曲でフロアを盛り上げる。
「熊本のヲタク、やっぱりすごいわ」と言ってしまうあんたがすごいわと思うが、四曲のセットリストでどれもこれも熊本のヲタクが喜ぶ曲を用意していた。
最後の「君に届け」では舞台袖で見ているRe:fiveに「熊本ありがとう!」と言いながら手を伸ばす仕草も、佐賀のアイドルをリスペクトしている熊本への感謝が見える素敵なシーンだった。
佐賀がリスペクトしている熊本のヲタクの沸き文化を最高潮に高まらせる見事なステージは、まさに圧巻。熊本のヲタクと佐賀のアイドルの頂上対決の熱気はすさまじかった。

佐賀のアイドルシーンの頂点に君臨しているアイドルに、熊本のヲタク文化を引っ張ってきたヲタク。
それらが佐賀の現場で熊本の主催でぶつかりあう。
そこにあるのはお互いをリスペクトし、憧れながらも追いつけ追い越せと目標にする素敵な関係性だった。
ライブ後の物販交流会では、これまでのツアーよりも、熊本のヲタクが佐賀のアイドルに並び、佐賀のヲタクさんが熊本のアイドルと交流する姿もよく見られたように感じた。
この素敵な関係性はこれからも続いてほしいと、佐賀在住主現場熊本のヲタクとしては勝手に思った。そのぐらい素敵な関係なのは事実だ。



 

それは大きな事件だった。

2024年1月21日、この日、咲良ひなさんと莉子さんのユニットchem LiLyがデビューする。

そのお披露目イベントの現場にぼくはいなかった(ボウリング大会してました)のだが、帰宅してそのデビューイベントを報告するツイートを見て目を丸くした。

会場には立派なフラワースタンドが立てられ、全体を映した集合写真ではファンの人も会場がいっぱいになる30人以上の人が集まっていたのだ。

セルフプロデュースのお披露目でこんなに集まるとは!

ぼくは素直に驚いた。そしてそのお披露目するchem LiLyへの期待の高さが想像を越えるものだと知った。

実は熊本では、この一週間前に大手事務所のアイドルグループがデビューしていた。また3月には熊本では名の知れたプロデューサーが手掛けるアイドルのデビューもすでにヲタクたちの知るところになっていた。

もちろんそれでシーンが活性化するようになればいいが、10年前の「あまちゃん」時代のローカルアイドルブームの時期ならばともかく、この時代にいくつもアイドルが出てきたら少ないパイを奪い合ってどこもじり貧になるんじゃないかという危惧も抱くような状況だった。

しかし2025年現在、熊本はいまが一番面白いと言われるほど、シーンは活性化している。

そしてその前兆として、大手事務所や名の知れたプロデューサーなどの下駄を持っていない、セルフプロデュースのアイドルが、ファンにフラスタを立てられ、会場を満杯にしてもらえるほど、お披露目ライブで人を集められたことがあったと思う。

もちろんそこにはchem LiLyのおふたりの魅力もたくさんあったのだろうが、その魅力に気づいてくれる人がたくさんいたことが、その後、熊本のアイドルシーンが盛り上がる大きなきっかけになったとぼくは思っている。

 

ぼくが咲良ひなさんを確実に初めて見たのは2022年6月のLIKE!だった。

まだまだコロナ禍の空気が残り、客席は全席着席、マスクをつけていないと中にも入れない状態だった。

「確実に初めて見た」とわざわざここに書いている理由は、実はぼくはこの前にも、どこかで一回見ている記憶があるのだ。ただぼくが記憶の中で「ここで見た」という話を咲良ひなさんご本人にしたときに「そんなイベントには出ていない」と真っ向から否定されてしまったので、本当にどこで見たのかはあやふやなのである。

女性ソロシンガーが三人続く時間の三番目の出演だった。

ぼくは本当にどこかで一回目を見ていて、すでにツイッターもフォローしていた。

当時はLIKE!は、まだ始まったばかりで試行錯誤していたのと、熊本にアイドルが少なかったこともあり、現在のようなバリバリのアイドルイベントというよりも、シンガーあり、ダンサーありのサブカルチャー音楽イベントのようなスタイルだった。

そして最初のふたりがしっかりと歌を聴かせる感じの方だった。

その美声に唸っていたフロアにチャイムの音が流れ「出席を取ります」という声の入った特徴的なSEが流れる。一緒に見に来ていたヲタさんに「やっとアイドルっぽいのが出てきましたね」とぼくは話しかけたのを覚えている。

ただ、そのあとステージに登場した咲良ひなさんは、白い長いスカートが印象的な大人っぽさを強調していた。髪型もポニーテールで落ち着いた印象を受けた。やっている曲はアイドルっぽい、SEからステージングでも歌を聴かせたいというよりフロアを盛り上げたいって気持ちも伝わるし、ステージからフロアを撮影したりとファンとの絆も大事にしているのもわかった。

でもぼくはその衣装からこの人はどっちの人なんだろうと思った印象が強かった。

アイドルでいたいのか?

シンガーになりたいのか?

申し訳ないがあまり知識がなかったため、アイドルとしてのポテンシャルは高いんだから、アイドル性を突き進めばいいのにという印象を抱いてしまった。

それからもLIKE!で何度かは見ていた。

たぶんご本人はアイドルらしくアイドルを演じられていたんだと思う。

だけど印象としてはどうしてもその最初のLIKE!で見た大人っぽさの印象と澄んだ声の歌声のインパクトもあり、アイドルなのか? シンガーなのか? よくわからないなあと感じていた。

よくわからなかったと言えば、この頃のLIKE!で咲良ひなさんはいきなり卒業をされた。

正確なことを言うと、この頃の咲良ひなさんはステージのほとんどはソロだったけど、「そんな君が好きだよ」というユニットで活動されていて、そのユニットからの卒業ということだったらしい。

まあ、そういうことがあり、ぼくとしてはアイドル性があるのにアイドルなのかシンガーなのかよくわからず、しかもいきなり卒業をした人という謎の印象だった。すみません。

 

卒業されたとはいえ、2023年にはまたソロで活動を再開されていたように記憶している。

ただ、この頃の記憶は現場が被らなかったのか、あまり印象にない。

共演者にはシンガーやダンサーの人が多かったので、そっちの方向で進んだのかな、ご本人が好きな方向でやるのが一番だからそれはそれでいいんだろうなとぼくは遠目で見ていた。

そして2024年1月のchem LiLyのお披露目である。

ぼくはこのことを知ったときに最初に思ったのは「あの咲良ひなが本気でアイドルをやるんだ!」ということだった。

お披露目のときはぼくはボウリングをしてたので行けなかったが、たぶんその次の週のLIKE!だったと思う。

そしてそこで登場した咲良ひなさんは、正しいアイドルだった。アイドルらしい制服をモチーフにリボンのついた青い衣装に絶対正義のツインテール。これは強いと感じた。

ステージもテレビサイズのヒット曲を連続でやって、最後にオリジナル曲をやるみたいな構成だったと思うが、これまでの歌を聴かせるスタイルから一転、曲を通してフロアと一緒に楽しもうというスタイルに、ぼくは、これはすごくはまってる! と感じた。自分がうまく歌うことよりもフロアを楽しませようとするスタイルが素直に感じられ、その空気を美人の相棒、莉子さんとキラキラ輝かせながら演じる。

同じように感じた人は多かったのか、この日のLIKE!でぼくは物販にも初めてお邪魔したのだが、結構並んだ記憶がある。

それからはほんと、あっという間にchem LiLyは、熊本アイドルシーンのメインカルチャーの一角に躍り出た。もしかしたらこのLIKE!の前のお披露目ライブで躍り出ていたのだろう。それほどの事件だったのだから。

熊本が十代以下のアイドルが多いシーンであることもあり、メンバーが二人とも二十代という隙間的な需要も取り込み、重要な熊本のアイドルイベントには必ず顔を並べている活躍を見せていた。

しかし、その盛り上がりは期間限定のものだとファンも気づいていた。

chem LiLyは熊本理系大学生アイドルというキャッチコピーだった。そしてふたりとも最終学年。つまり、長くても1年程度しか活動期間のないグループだったのだ。

8月末までは毎週のようにイベントをこなし駆け抜けたが、9月に咲良ひなさんの国家試験受験のための活動休止が発表され、莉子さんひとりの活動になる。その莉子さんも卒業を半年前に控えると慌ただしくなり、2024年の1月から8月までは毎週のように活動していたグループが、2024年の年末にもなるとほとんど活動しなくなっていた。

そして2025年の3月のイベントに名前を久しぶりに見たかと思ったら、そこで莉子さんが卒業。

そしてスケジュールの調整等もあったのだろうが、昨日、2025年8月3日に咲良ひなさんの卒業とchem LiLyのラストライブになった。

 

昨日はそのラストライブに行ってきた。

実質の活動は2024年のたった8か月だったけどそこで強烈なインパクトを熊本に残したchem LiLy、そして4年間の咲良ひなさんのアイドル活動の最後。会場にはchem LiLyのTシャツを着られた方もたくさんいらっしゃたが、咲良ひなさんとJリーグの話をよくさせていただいた思い出もあったので、有志数名とサッカーのレプリカユニフォームを着て集まった。

まずはchem LiLyのovertureに乗って、咲良ひなさんのウエルカムステージからスタート。

久しぶりに見る咲良ひなさんの姿に、ついついファンからは「おかえり」という言葉が漏れていた。

このウエルカムステージと最後の本編に共通して一曲目は古のヲタクが喜ぶ選曲をされていた。

これが咲良ひなさんが本当に歌いたい曲なのか、それともファンが喜ぶことを念頭に置いた曲なのかはご本人しかわからないけど、この二曲を歌ってフロアのボルテージを上げようとしているところに、ぼくはやっぱりこの子はアイドル性が高いなと感じた。

イベントの主役だったということもあるかもしれないし、珍しくトリだったこともあるだろう。

とにかくこの日の咲良ひなさんは、いままで見たなかでもいちばんかもしれないと思うぐらいアイドルらしく、キラキラ輝いていた。

アイドルというのはダンスを見せるものでも、歌を聴かせるものでもない、ファンに愛されるものだというのがぼくの持論だけど、咲良ひなさんの場合は更に上をいっていて、まずファンを咲良さんが愛し、そこからファンに愛されている。紺関係性が素敵だなと改めて感じられた。

曲中にファンをひとりずつ見つめる仕草、カメラに向ける目線、沸いてるヲタクと一緒に盛りあがる表情、そのすべてがアイドルとして優等生で、やっぱりアイドル性が高いんだと感心していた。だからこそ、たくさんのファンや熊本のアイドルから愛されてきたんだと。

この日、chem LiLyに対し「最後はグループアイドルをやりたかったから(結成した)」と咲良さんは話されていた。

アイドル性が高いからやっぱり咲良さんにはグループアイドルが天職で、実際だからこそchem LiLyはシーンのメインに出るほどの人気も生まれた。

ただ、そこにはそのchem LiLyに至るまでの咲良さんの経験があったからこそ、chem LiLyが他のアイドルにはないファンを愛しそこから愛されるという関係性、ファンを喜ばせることに長けてるステージというものが生まれたのも事実だと思う。

昨日はその集大成を見られて、咲良さんのアイドルとしての完成形を見られた満足感の余韻にぼくは浸ることはできた。

ただ、終わったあとは素直に「もったいない」と思った。

寂しさから涙を流している人も何人もいらっしゃった。

これだけの気持ちを心に残してくれた咲良ひなさん。

熊本のアイドルヲタクたちは、きっと咲良さんとの思い出を大事にしていくだろう。

実質の活動期間はたった8か月、しかもセルフプロデュース。それなのに、熊本アイドルシーンのメインカルチャーでたくさんのファンに強烈な印象を残し続けたchem LiLy。

そこにはそれまでの三年間で培った咲良さんの経験と、莉子さんという優れたメンバーがいたからこそできた奇跡だった。

 

 

水無月あやかさんの生誕祭に初めておじゃましたのは2022年の6月だった。
昨日MCでRe;fiveが「あやかちゃんとはRe;fiveができた頃からのお付き合い」と言っていたが、当時Re;fiveは熊本市内の劇場を持っていて、そこで行われるRe;fiveの主催イベントによくゲストで登場していた。
その縁もあってか会場はそのRe;fiveの劇場だった。
当時は現在の熊本FlavorもJunior Flavor Kumamotoという名前で、水無月あやかさんもAyakaという名前だった。
まだ福岡にもFlavorがあって、その福岡FlavorもRe;fiveの劇場にはゲストで来てたりした頃だった。
炭坑ガールズのときにもちらっと話したことあったけど、ぼくはジュニアアイドルにはあまり興味がない。
ジュニアはジュニアなりにもちろん努力をし素敵なステージを見せようと考えているのだろうけど、申し訳ないけど高校サッカーよりもJリーグのほうがおもしろいのと同じ理由で、その時期にしか出せない才能によって人気が決まる世界のような気がしている。県代表や青春の舞台ということでプロ野球よりも高校野球のほうがおもしろいと言われる人もいるが、ぼくはやっぱりプロ野球のほうがおもしろいと思う人間なので、同じような理由であまりジュニアアイドルには興味が持てず、Junior Flavor Kumamotoにもあまり関心がなかった。

それから約一年後の2023年の5月、その頃もRe;fiveとJunior Flavor Kumamotoはよく共演していたが、オフ会的な運動会「モネリンピック」にJunior Flavor Kumamotoが参加した。
たぶん、このオフ会でぼくは初めて水無月あやかさんとお話しした。
そしてぼくはそこで、ステージと普段のあやかさんのギャップに目を丸くした。
2022年の年末ぐらいからあやかさんは高校受験のために休養されていた。そのため、2022年の生誕から何度か共演していたのかもしれないが見る機会が少なかったこともあり、あやかさんのイメージをぼくはよくわかっていなかった。はっきりいえば、ジュニアアイドル的な天真爛漫の自由なドジっ子のイメージだった。
それが高校に入学されたあやかさんは、交流してみるとジュニアアイドルではなく年相応の、リーダーということもあってしっかりした女性だったのだ。
ステージでは年下の子(当時はみさきさんはまだ小学生だった)に混じって、ジュニアアイドルのようにかわいくふるまう。
でも話してみるとしっかりされていて、むしろかなり頭の良い女性。
このギャップが本当に魅力的に感じた。
もっとも、ジュニアアイドルっぽくないあやかさんの魅力を売り出そうと運営さんも考えていたようで、それから半年もしないあいだにあやかさんの所属グループはJunior Flavor Kumamotoから熊本Flavorに変わり、名前もそれまでのAyakaから水無月あやかさんに変わった。

昨日はその水無月あやかさんの18歳の生誕祭に行ってきた。
熊本いちばんの美少女集団と名高く、またそのリーダーの水無月さんの生誕祭とあって、梅雨明けの真夏日の熊本の暑さに負けじとステージも暑かった。
真っ赤な風船とスイカの風船にステージは飾り立てられていた。
開口一番に熊本Flavorが登場する。最近、生誕イベントではよく歌う、生誕祭って一年に一回じゃ足りないよなあと思ってしまう曲と、これまで見せたことのない新しい曲をやっていた。
圧倒的なビジュアル力のある熊本Flavorがステージに並ぶとやはり華がある。この日最初の衣装はラベンダーのセーラー衣装だったが、その衣装の世界観がメンバーの華をさらに引き立てていた。
その中で主役として笑顔を浮かべていた水無月さんは、その重責を楽しむようにフロアの隅々まで笑顔を振りまいていて、もういきなりさすがの世界だった。

それからゲストの出演があってから、いよいよ熊本Flavorの持ち時間になる。
ステージの並んだ熊本Flavorは今度は新衣装を着ていた。ざわめきがフロアに広がる。
大きいリボンが印象的な赤いドレス風の衣装だった。
熊本のヲタクの中では「熊フレの衣装にハズレなし」と呼ばれるほど、いつも素敵な衣装を身にまとっている熊本Flavorだが、さらにそこに新衣装が加わり、その衣装がまた素敵で目を丸くする
一曲目は「LOVE ∞ 無限大」で元気よくスタート。
オチサビの手を振るところなど熊フレらしさも全開で、かわいいかわいい世界が爆発する。
それが二曲目は一転して「恋煩い」だった。片思いに苦しむ少女のような世界観の楽曲に導かれるように、さっきまでステージのかわいさ全開のメンバーの表情に憂いが感じられる。
そしてやっぱりこの日の注目は水無月あやかさん。
ぼくはここでしっとりと恋煩いの世界を演出している水無月さんの姿に「ここが真骨頂」だと感じた。
最近は、水無月あやかさんのオンリーワンの魅力が認知されてきたこともあり、あまり聞かなくなったが、Junior Flavor Kumamotoから熊本Flavorに変わりつつあった頃、水無月さんの印象を一言で表すときに、その整った顔立ちから「昭和のアイドルみたい」と呼ばれていたことがあった。
ぼくは「恋煩い」を演じている水無月さんを見ながら、まさにその言葉を思い出していた。
そして感じた。
水無月あやかとは、なんて正しいアイドルなんだろうと。

たくさんのアイドルが生まれ、たくさんの価値観が生まれたため、アイドルに正解などというものはないに等しい時代である。
アンチの人から見れば、それこそおニャン子クラブやAKB48の握手会だって「あんなのはアイドルじゃない」と言われていたし、ヲタクからすると「好きになった子がアイドル」であり、そこに定義のようなものはないのが普通だ。
だけど、かわいい衣装、優れた楽曲にオシャレな振り付け、安定した歌唱力と正攻法でアイドルをやる熊本Flavorのそのリーダーの水無月さんは、まさに超がつくほどの正攻法の正統派アイドルである。
そしてそれが絵になるから、正しいアイドルなんだとぼくは感じたのだ。
「恋煩い」のあとはしっとりした空気を仕切り直しのように「OMG」で盛り上げ、持ち時間最後の曲は「NO.1スター」だった。
「おれのあややん」と呼ばれ、諭すようにファンに向かって「みんなのあややん」と言う。「笑顔が一番」とコールされる。ステージに立つ水無月さんの存在感はもちろん、それに反応するファンの対応も、まさに正しいアイドル像のように見えた。

そのあとも元祖「おれのあややん」でおなじみのヲタさんが発動したアンコールあり、ソロ曲あり、熊フレメンバーがひとりずつ手紙を読むグッとくるシーンがあり、お母さんやみゆ先生にお礼を言ってじんとくる場面もあり、最後の最後は「コイマチ」で締めるという素敵な時間だった。
水無月あやかさんは、高校受験のときも受験で休養されたように、この生誕祭をきっかけにこれから大学受験のために休養に入られることがすでにXで発表されている。
それでも、高校受験のときと違い。ご本人の言葉を借りるならば「息抜きで」、だいたい月に一度ぐらいを目安にステージに立たれることも付け加えて発表されていた。
ご本人にとっては受験が一番大事だろうけど、回数が減っても熊本で一番の美少女グループのリーダーとして、正統派アイドルとして輝く姿を回数が減っても見せていただけることはありがたいとぼくは感じている。
ジュニアアイドルでシーンに登場し、ついには成人になった水無月あやかさん。しかも、しっかり学業優先もするし、それでも活動は続け、ファンを元気づけてくれる。
その姿はやはりアイドルとして「正しい」のだ。



 

昨日は、Re:five、SunnyHoney、熊本Flavorの3グループ合同九州北部ツアーの初日、長崎に行ってきた。
X上のハッシュタグが「#FSFツアー長崎」になっていて、これが何の略かもよくわかっていない(Flavor Sunny Fiveかな?)状態だったし、ぼくは佐賀県民なのであまり熊本も長崎も距離的にはあまり変わらないので、ツアーと言われてもそこまでピンと来ていなかった。

それでもいざ行ってみると、あえてツアーと称し、熊本から移動してライブしてよかったと思える内容だった。

まずはこのツアー、そのツアー先の地元のアイドルをゲストに呼ぶ趣向らしく、この日は長崎なので長崎の雄・ミルクセーキがゲストだった。これがもうとにかく素晴らしかった。
一曲目が十年ほど前のセカンドシングル「What A Fanta G☆」。
この曲のイントロが流れた瞬間、古舘伊知郎風に大げさに言うならば、ライブの終盤に誰もが知っている曲が立て続けに演じられるローリングストーンズのライブのようなトランス状態にフロアが襲われた。
その状態で二曲目にサードシングルの「Say it!」をやってくれて、とどめを刺された。
ライブ後、プロデューサーのシズカさんとお話をさせていただいたときに、シズカさんは「今日は熊本の人が多いから、熊本の人でも楽しめるセトリにした」とおっしゃっていたが、そのシズカさんの狙い通り、熊本からやってきたヲタクたちも鳥肌を立てながらも汗を流すほどの大興奮のライブだった。
さすがはミルクセーキだとぼくは感じた。
そして痛感したのは、シズカさんが作り上げた「ミルクセーキ」のブランディングが成功し、いまでも長崎に君臨し続けることのすばらしさである。
ご存じかと思うが、ミルクセーキはメンバーが一定期間在籍すると新たな夢のために卒業する仕組みになっている。芸能の世界や裏方に回り活動を続けられる方もいれば、社会人として地に足をつけた生活に向かう方もいる。そのため、オリジナルメンバーはもちろん、たとえば三年ほど前に佐賀の大町でRe:fiveと共演したメンバーも、現在はすべて卒業されている。まるで、3年から長くても5年ぐらいでトップスターが退団する宝塚歌劇団のようである。
それでも、「長崎アイドル・ミルクセーキ」は長崎の人に支えられ、また九州でも有数のライブアイドルとして君臨し続けている。
そこには優れた楽曲があることと、プロデューサーへのアイドルへのスタイルがブレずに存在しているからだとぼくは思う。
二年ほど前のNHK紅白歌合戦にクイーンがアダム・ランバートのヴォーカルで「Don't Stop Me Now」を披露して多くの人を感動させた。フレディ・マーキュリーが早世しているため、フレディの新しい歌声を聴くことはもうできないが、それでもクイーンはクイーンとして人を感動させる。
そんなクイーンのような、また宝塚歌劇団のような、伝統とも呼べるブランド力をぼくはミルクセーキにも感じている。
メンバーは変わってもミルクセーキのスタイルが好きな人が支え続ける限り、たくさんのファンをこれからも惹きつけ続けるだろう。
その姿は熊本のアイドルにはまだないものであり、大きな刺激になったと思う。

今回のツアーはそのような刺激も含め、いつも共演している3グループが、あえて他県に移動してライブをやったことで、いろいろなものが得られるものになるなと、ぼくは昨日の長崎で感じた。
正直に言えば、かくいうぼくもそうだけど、観客も八割ぐらいは3グループについてきていた熊本のアイドルを応援している人が多く、ライブ開始前は入場の際に予約名を運営がマイクで読み上げる内輪ネタっぽいこともあり、天海や健軍、天草のような雰囲気のライブになるのかなという予感もあった。
ただ、最初に登場した熊本Flavorが一曲目から変わった選曲で仕掛けたこともあり、いつもと同じ出演者、いつもと同じファン、いつもと同じ運営であっても、他県でやるというアイドル側の気合の入れ方がフロアに伝わったことで、いつもと違うライブになったとぼくは感じた。
何がいつもと違うようにぼくが感じたかと一言で言えば、それはツアーだからと気合を入れたアイドルの姿勢に、ダイレクトにレスポンスするファンの力が作り上げた空気だ。この空気が、ツアーだからこそ生まれていた。

ホームはホームなりに楽しいものである。
ただ、どうしてもいつも同じアイドル、いつも同じファン、いつも同じ会場でやっていると、どうしてもそこにマンネリというものが生まれてしまう。
寅さんの映画みたいにマンネリしても楽しめるようになればまた違うのだろうが、本質的にアイドルは若い女性が演じるというフレッシュな楽しさをファンが求めるもののため、どうしてもマンネリ感が漂うと、その中に浮かぶこの日だけしか見られないレアさに注目が集まりがちである。ヴィジュアルでいえばちょっと変わった髪型だったり、衣装だったり、トラブルも含めての、くすっと笑える瞬間だったりと、その日しか見られない瞬間を待っているような空気がどうしてもある。たしかにそこに「ライブアイドル」だからこその価値もあるのだけど、そうなってしまうと、アイドル側が提供したいキラキラ感やかわいさというものと、ファンの求めているものにギャップが生まれ、場合によってはアイドルのほうがそのファンのニーズに引っ張られ本末転倒になったりすることもよくあるのである。
それが昨日は、場所を変えただけでそのような空気は全くなかった。
それはそうである。長崎で見ているというだけでファンにとっては特別になっているからだ。
そして、アイドル側も、おそらくここを6月の目標にしていたのだろう。真正面からキラキラしているステージを見てほしいという姿勢が伝わっていた。
これについては各運営さんのモチベーションの持ち方として、今月と来月は月末開催ということもあって、月末のツアーに向けてと目標にしやすく、それぞれのメンバーもここに照準を合わせていたのだろう。
長崎で3グループともいつも以上にキラキラしていた。
そしてファンの多くもそのキラキラを歓迎していた。

来月の大分に行かれる方もいらっしゃると思うし、そこからの佐賀、福岡に行かれる方もいらっしゃると思う。
佐賀と天草、熊本はもしかするといつもの熊本に近い感じになるかもしれないからなんとも言えないけど、勝手ながら昨日のツアーの3グループを見てぼくが少なくとも今後の大分と福岡でいちばんこのツアーの見どころだと感じたのは、アイドルが真っ向勝負でステージを見せてくれるからこそ輝く、実力派メンバーの姿だと感じた。昨日の長崎もまさにそうだった。
具体的に言えば、熊本Flavorの日向みさきさん、Re:fiveの空豆かれんさん、SunnyHoneyの橘みおさん。
このお三方の歌声にぼくは長崎で聴き惚れた。熊本で見るときもこのお三方はうまいなと思っていたけど、更に磨きがかかっていて、すごく心地よく堪能させていただいた。
どのグループもこの日のために仕上げていて、最高のパフォーマンスを見せてくれるからこそ、そのグループの中でも特にポテンシャルの高いメンバーの見せるパフォーマンスは、それまでの努力とこの日の緊張感が後押しして最高潮の仕上がりだったのだ。熊本でも同じようにパフォーマンスをされているのかもしれないけど、やはり緊張感は違うだろうし、フロアの空気がそのキラキラした姿を見たいと求める空気も、熊本とは違うように感じた。だからこそ、いつも以上にどのグループもキラキラに見えていたし、そのなかでこのお三方が群を抜いて目を引いていたのだ。
「熊本は、今が1番面白い」がこのツアーのタイトルみたいだけど、その1番面白い今、1番高いレベルでパフォーマンスを見せてくれているメンバーを見るのはやはり最高なのだ。

たしかにアイドルの魅力というのはあくまでパーソナルの総合的なもので、そのメンバーさんのキャラクターや、あともちろんヴィジュアルなど多岐に渡っているもので、ステージパフォーマンスがいいからと言っても、それだけで評価されるような甘い世界ではないかもしれない。だけど、やっぱりうまいに越したことはないのだ。

アイドルが特別に輝くステージを見に行ったとき、そのグループで一番輝いているメンバーの歌割りを待ち、歌声を聴かせていただくと、アイドル本来の魅力はこれだよなと再確認させていただいた。

さて、3グループ合同九州北部ツアー。次は7月27日の大分である。
場所を変えることで新たな刺激を受け、また各グループとも7月はここを目標に仕上げてくるだろう。
熊本アイドルのファンも、他県のアイドルファンに好きな熊本アイドルを見てもらいたいと願い、3グループがキラキラステージを見せてくれることを期待して集まるだろう。
その中でやはり実力派の日向みさきさん、空豆かれんさん、橘みおさんの活躍がぼくはいちばんの楽しみだし、そのお三方の背中を追いかけて各グループの他のメンバーも成長した姿を見せてくれるのではないかと期待が高まっている。
まずはこのお三方に注目し、それからこの3グループに注目する方が九州各県に増えるとぼくはうれしい。

 

 

今朝は4時からクラブワールドカップの浦和レッズ戦を見るつもりでアラームをかけていたが、10分ほど寝過ごしてしまい、起きたときにはすでにリーベルプレートが先制していた。結果的に1-3でレッズは負けたが、午前六時過ぎ、浦和レッズOBの坪井慶介氏による渡邊凌磨選手へのインタビューが心に残った。
渡邊選手はマイクを向けられると開口一番「すごい楽しかった」と言ったものの、表情は悔しさをにじませ「ピッチに立った瞬間から負けていた」「Jリーグではピンチにならないようなミスもピンチになる」と素直に世界との壁を痛感した気持ちを語り、最後に「技術よりも基準の差を見せつけられたと思う」と唇を噛んでいた。
歴史に残る素晴らしいインタビューだった。
そしてぼくは「技術より基準」ということでもう一度、身の回りの物事も考えてみた。
試合をテレビで見てそのまま寝ないで仕事に行ったから完全にそのテンションだったが、見まわしてみるとぼくのまわりでもあるわあるわ、技術だけでごまかしているものが。
ぼくが考えた技術と基準の違いとは、いま話題のお米に例えるとわかりやすいかもしれない。わかりにくかったらもうしわけないが。
最近テレビでよくやっているが、おいしいお米の炊き方というのは技術だ。炊く前に長時間水につけるとか、軟らかめに炊くとか、炊く時に昆布やお酢と一緒に炊くとか、米を炊く水に日本酒やみりんを足すという方法。それらが技術と思う。
それで基準というのは、もっと技術ではどうにもならない基礎である。どんなにお米を炊く前に工夫しても、炊飯器が安物では一般的に高い炊飯器より美味しいお米を炊くことはできない。これはぼくがひとり暮らししていた頃、実家からもらったお米でどんなに工夫して炊いても実家の味が出せなかったのは、パチンコの景品の炊飯器を使っていたからということがあったから身をもって知っている。また、最近テレビでお米の炊き方をやっているとぼくは書いたけど、これは明らかに品質の落ちる流通米が出回っているからで、流通米を工夫して美味しく食べましょうねということであり、食べたことないから断言はできないけど、どんなに工夫して炊いたとしても個人的には流通米に新米の味を出すのは無理なんじゃないかとぼくは思っている。
そういうわけで、渡邊選手は険しい顔で「技術よりも基準の差を見せつけられた」と語っていたし、そのような目で仕事をしてみると、日常、驚くほど技術だけでごまかして、お米でいえば炊飯器やお米みたいな基準にはあまり目を向けてなかったと痛感した。
そしてふと思ったのだ。
ぼくの大好きなRe:fiveはおそらく今回の北部九州ツアーでこの基準を組み立て直すことができる可能性があると。

アイドル業界に浸透しているかどうかは公開されていないので存じ上げないが、一般的に企業などの組織で基準として考えられているのは「MVV」というものである。
MVVとは、マネジメントの父として知られ、日本では高校野球の女子マネージャーの愛読書にもなっているピーター・ドラッカーが提唱した概念である。「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の頭文字のことで、ミッションで存在意義、ビジョンが実現したい未来像、バリューが持つべき価値観と考えられている。まさに企業の基準となる、企業のアイデンティティと言えるもので、成功するための重要な要素でもあり、多くの企業は採用している。
ぼくが下手な文章で説明するよりも実例をいくつか引用してみよう。

ソフトバンクグループ
ミッション
情報革命で人々を幸せに

ビジョン
世界の人々から最も必要とされる企業グループ

バリュー
挑戦 逆算 スピード 執念
努力って、楽しい。


トヨタ自動車
ミッション
幸せを量産する

ビジョン
可動体(モビリティ)を社会の可能性に変える

バリュー
トヨタウェイ、ソフトとハードを融合し、パートナーとともに「トヨタウェイ」という唯一無二の価値を生み出す


花王
ミッション
豊かな共生世界の実現

ビジョン
人をよく理解し期待の先いく企業に

バリュー
正道を歩む よきモノづくり 絶えざる革新


最近はWebサイトもあるおかげで大手企業のMVVはこうやってちょっと検索すればすぐ出てくるぐらい良く知られるようになった。
なぜ企業が、うがった言い方をすればパクられるかもしれないのに、おそらく大金をかけて作った自社のMVVを公開しているのかといえば、自社のブランディングのため、つまりくだけた言葉を使うと企業のファンになって推してもらうためである。
言葉自体は昔からあるのだろうが、ブランディングという言葉がいろんなところで聞くようになったのはここ十年ぐらいだとぼくは感じている。なぜそうなったかといえば、商品で差別化できない時代になってしまったのがひとつと、CM一本でその商品がバカ売れする時代のような「大衆」と呼ばれる人たちが消えたからである。
たとえば、コンビニで飲み物を買うとする。特に水やお茶、ブラックコーヒーなどシンプルな飲み物の場合、どれもおいしいのである。それでも、どこのコンビニでもたいていは水だけでも数種類、緑茶も数種類、ブラックコーヒーも数種類置いてある。その中で選ぶ基準のひとつとして、特にプライベートブランドに見られる価格や量という商品の特性で選ばれることもあるが、それは例外として、普通は無意識に選ぶか、ファンとして同じものを買い続けているかのパターンに分かれる。そして企業としては当然、自社製品を推してもらって毎回買ってもらいたい。そのため、こうやってMVVを公開していると考えられている。
なぜなら商品の完成度はどれもおいしいレベルまで上がり、それに伴う情報も簡単に入手できる現在において、「みんなに好かれる商品」を作るのは難しい。そこで一部の人々にファンになってもらい、推して常に選んでもらうことを目指しているのだ。
そして推してもらうにはビジョンが必要なのだ。
企業が掲げているビジョンのような世界になってもらいたいと思う人が、その企業のファンになりその商品を推す仕組みだからだ。

ということで推してもらうことが最も大事なものと言えば、アイドルである。そもそも「推し」という言葉自体がアイドル界から派生したようなものだ。
てなわけで、すでにあるのかもしれないが、ぼくなりに現在のRe:fiveを見てのMVVを考えてみた。

ミッション(存在意義)
アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する

ビジョン(未来像)
Re:fiveを見てみたい人をたくさん作り、ひとりでも多くの人に笑顔を提供する

バリュー(価値観)
ダンスと歌の完成度を高め、愛されるメンバーの個性を作り上げる

まあ、あくまでこれはぼくのイメージで実際には違うかもしれないが、ぼくはこんな感じでいまRe:fiveをとらえている。
一般的に「ミッション」のために、「バリュー」を大切にし、「ビジョン」を目指すというストーリーがMVVには必要と言われるが、そのやり方でまとめると「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供するために、ダンスと歌の完成度を高め、愛されるメンバーの個性を作り上げ、Re:fiveを見てみたい人をたくさん作り、ひとりでも多くの人に笑顔を提供することを目指す」と成り立ってはいる。だから、Re:fiveの基準となる「ミッション」や「ビジョン」はいまのところしっかりしているとぼくは感じている。
だが、ここまで作ったところでぼくは、今月から開始されるツアーでその基準が進化してほしいなと今日感じたのだ。

そもそもとやたらと上からの言い方になって申し訳ないが、地方のアイドルが、縄張りという言葉を使うと変だけど、わざわざ地元以外で主催ライブをやる意味はなんだろう。
もちろん、ミッションの「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する」を他の地方の人にも提供することで、「Re:fiveを見てみたい人をたくさん作り、ひとりでも多くの人に笑顔を提供する」ことに一歩近づく可能性はもちろんある。
でもそれはゲストで遠征に行くのではだめなのだろうか?
それに今回のツアーでは訪れる県でそれぞれの地元のアイドルさんをゲストで呼ぶようだが、訪れる県のファンにとっては「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する」点では地元のゲストのアイドルに比べて確実に不利であり、しかもそのゲストのアイドルも「わたしたちを見てみたい人をたくさん作り、ひとりでも多くの人に笑顔を提供する」ためにがんばっているのだから、不利な条件で勝てる見込みがあるとは思えない。
でも、だからこそ、今回のツアーは意味があるのだ。

6月28日にツアー初日の長崎が迫っている。
技術的な「ダンスと歌の完成度を高め、愛されるメンバーの個性を作り上げる」ことで、少なからずXをフォローしてくれるようなファンは増えるかもしれない。少しでも知っていただけるだけでも大変ありがたいことなのはわかる。
でも、ぼくとしてはRe:fiveのポテンシャルを信じているからこそ、それだけでは終わってほしくない。
つまり、「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する」以外のRe:fiveじゃないとできないミッションの発見を、今回のツアーでできるんじゃないかと期待しているのだ。
一緒に熊本から出演するグループもゲストで出演するその県の地元のグループも多くはRe:fiveと同じように「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する」ことを求められているから活動をしている。ただその中で揉まれるからこそ、この基準の部分で、これのプラスアルファでなにか新しいものをつかむことができるんじゃないかと期待しているのだ。メンバー同士の信頼感やチームワークを見てるとそれができる時期に来ていると信じている。
それは、「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間を提供する」ことへの解釈が、もう少し具体的な言葉に変わることでもいいと思う。
とある企業が「多様性を大事にする」という言葉を「年齢や性別で接し方を変えない」と言い方を変えただけで、会社の雰囲気ががらりと変わり、入社希望者も増えたなんてことがあったという話を聞いたことがある。
「アイドルのライブや触れ合いを楽しめる時間」でRe:fiveにしかできないことはきっとある。オリジナル楽曲もそのひとつだし、メンバーそれぞれの個性も魅力的だ。でも、他のアイドルも同じようにオリジナル楽曲はあるし、それぞれのメンバーにも個性的な魅力がある。
その中で「やっぱりこれだからRe:fiveがいい」とファンが言えるような、なにかをこのツアーで見つけてほしいと願っている。