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キューブラー・ロス著『死ぬ瞬間』
【3】死と死ぬことについて
■1■「死の恐怖」は人間共通の感情
■2■悪性腫瘍の宣告について
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【3】死と死ぬことについて
■1■「死の恐怖」は人間共通の感情
▼過去
◎宗教
・「神」を多くの人が無条件に信じた
・「来世」は我らを苦しみと痛みから救ってくれると信じた
・「天国」には報償があり、地上での苦しみが多くとも死後に報いられた
【報い】人生の重荷を耐えていく勇気・忍耐・威厳・優雅さに応じて保証された
◎教会
・地上における悲劇に目的を与えていた
・痛ましい出来事を理解し、そこに意味を与える努力を励ます役割を担っていた
▼現在
◎社会的・政治的解放、科学知識・人間に関する知識の取得
【死に対する婉曲法】
・死化粧(エンゼルメイク): 死者を眠っているように見せかける
・幼い子どもが、死にかかる親を病院に訪ねることを許さない
・患者に真実を告げるべきかどうか、長く激しい議論を交わす
⇒死を無視し、死との直面を避ける傾向が強くなってきている
*死に関する不安が増大 |
◎医学の進歩
・医学に携わる職業: かつては、人道主義的であり、尊敬すべき職業
⇒単に生命の延長を目的とする、脱人格的な科学となろうとしていないか?
▽医学生
・医師と患者の関係を学ぶ機会が、急速に減少している
⇒優れた成績を示した医学生が、患者からの簡単な質問に窮してしまう
⇒そんな専門職業社会は、どこかおかしいのではないか?
▽家庭医
・本人の誕生から臨死までの生活を知り、家族メンバーの長所も短所も心得た存在
・家庭医による看取りでは、患者は平和と威厳のうちに家で死ぬことが許された
★「真の進歩」とは
··· 科学技術の価値と並行して「人間的でトータルな緩和ケアの技法と原理」を学ぶこと
◎医薬の進歩
・痛み、かゆみ、その他の不快感を抑える薬剤の開発
*「死後の生」を本当に信じる人が著しく減った
⇒地上での苦しみが天国で報いられる、という信仰は崩落した
⇒苦しみが天国で報いられないとすれば、耐えることはその意味を失ってしまう
⇒死後の生を期待できなければ、我々は死を悩まなければならない
◎科学技術の進歩:戦争
・大量殺戮を行うための新技術・新兵器の開発
⇒終末観的な死への恐怖の増大
・兵士のみならず、市民が大量破壊兵器(原爆や化学兵器)を予測しなければならない社会
・戦争はもはや、男性が権利や信念、名誉、家族を守るための戦いではなくなった
⇒女性や子どもまで含めた、国民対国民の戦争となった
★死の恐怖に怯える社会
・死の恐怖の克服: 破壊的な自己防衛手段のみに頼らざるを得ない
⇒戦争、暴動、殺人、その他の犯罪件数の増加
⇒死への直面を回避するために他人を殺す、破壊性と攻撃性の強化
★「死の否認」
【過去】宗教が減少させた
・地上における苦の意味、それが死後に天国で報いられる、との信仰があった
【現在】社会が増加させた
・我々は、宗教が棄てた「死の否認」を、社会変化によって拾う形となった
⇒科学が進歩するほど、死の現実を恐れ、否認する傾向が強まるのでは?
⇒変化したのは、①死、②死ぬこと、③死にゆく患者、に対する我々の態度
★死に直面する能力の低下
・死を予見し自己防衛することへの非力さ
⇒人は色々の仕方で、心理的に自己防衛しなければならない
⇒しばらくは、自己の死という現実を否定することは出来る
・「死の否認」を続けられない
⇒死を克服することへの挑戦
「自分は死を免れる存在だ」と心から感じられる行動を取ろうとする
(例)高速道をハイスピードでドライブ、ベトナム戦争に志願
*人間個人に立ち戻り、「死」を考える努力をしなければならない
・悲劇的な、不可避的な「死」について
⇒苛立たず、恐れず、直面することを学ぶ必要があるのではないか
▼未来
★死へ直面することを回避
⇒途方もない「死の否認」が必要となる
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◎未来予測
・機械とコンピューターにより、多くの人が生かされるようになる
・コンピューターが生理的機能をチェックし、電子工学的装置による代替を判断する
・技術データを収集した医療センターが、患者が死ぬと自動的に装置を止める
・重病者は冷凍し収容され、科学と技術とが十分に進歩し、解凍される日を待つ
・人口過剰となり、幾人を解凍すべきかを決める委員会が必要となるだろう
・「死の恐怖」を利用した金儲けを防止する法律はない
【重要器官の移植】
・「生と死」「提供者と受益者」という難しい諸問題が、急激に多岐的に増えていくだろう
・ついには、一部をコンピューターに委ねざるを得なくなるだろう
・法的、道徳的、倫理的、心理学的な諸問題の解決は、未来の世代へ委ねられるだろう
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▼「自分自身の死」
・集団レベルではなく、個人レベルで見つめなければならない
・誰もが回避したい要求があるが、遅かれ早かれ、対決させられる
・自分自身の死を見つめ始めると、多くの事柄に影響を与える
・見つめることが出来ると、事物の様相が変わって見えてくる
*患者、家族、そして最終的には国民の福祉に
★偉大なる社会
・科学技術が、破壊の増大や単なる延命の目的のために誤用されない
・科学技術の進歩と関係なく、個人的な人間対人間の接触に、より多くの時間がかけられる
*無神経に死を取り扱う例は、報道メディアには極めて多い
(例)ベトナム戦争:「味方の戦死者の十倍の敵を殺した!」
⇒万能と不死を求める幼児的願望の投射か
■2■悪性腫瘍の宣告について
▼悪性腫瘍
・「悪性腫瘍=末期疾患」と認識される
⇒危機的な情況下において、患者とその家族にいかに接するか
*その後の祝福ともなり呪詛ともなりうる
・医師は、単に良性か悪性かを答えればいい、という問題ではない
⇒悪性腫瘍は常に「迫りくる死」と「死の破壊的性質」に結び付けられる
◎「患者が“真実”を告げられることに耐えうるか否かについて」
⇒医師、病院牧師、看護師らの懸念に直面することが多い
★いかなる“真実”をか?
⇒医師の“真の内的葛藤”とは何か
⇒「告げるべきか?」ではなく、「いかにして、患者と分けもつべきか?」ではないのか
▼末期患者への告知
◎どんなふうに告知を受けたか?
⇒医師の告げ方が、患者の気分に大きな影響を与えていた
※ハッキリと言われなくとも、全ての患者が自身の末期疾患を自覚していた
◎問題
・告知前、医師が患者の性格を十分に知っていない
・新しい患者の性格を知るためには、親しく交わる必要がある
⇔ 家庭医との間には生じない問題
▼医師
・医師自身がしっかりと死と対決しなければならない
・悪性腫瘍とその結果としての死
⇒自らの態度を吟味し、過剰不安に陥らず、患者と語り得る必要がある
★患者の持っている「死の事実」に敢然と直面しようとする意志
⇒患者の言葉に耳を傾け、それを引き出すキッカケを掴む必要がある
①死との対決を極度に恐れる医師
・「患者に告げるな」とスタッフにハッキリと命令する
⇒医師自身の“不安の暴露”
②死に直面できない医師
・患者が悪性腫瘍に関する質問をしないことを望む
⇒敏感な患者は、医師に調子を合わせる
⇒医師自身が、患者を非対決の反応へと誘導していると自覚していない
③死に直面することを恐れつつも、自己防衛的でない医師
・病院牧師や聖職者などの外部に責任を転嫁し、患者への告知を依頼する
④死との対決を恐れない医師
・患者のニーズに敏感で、病気が重篤であることをあからさまには言わない
⇒だが、巧みにハッキリと自覚させ、同時に希望の窓を開いておく
⑤信頼を失う医師
・嘘を教える
・身辺整理の時間的ゆとりのある間に、病気の重大さに患者を立ち向かわせない
★患者への大きな奉仕
・悪性腫瘍を必ずしも死と結び付けない
・自由に率直に話し合う
・『希望へのドア』を開けておく
⇒新薬や新療法があること、新しい技術や研究が現れる可能性があること、など
★患者と悪い報せを共有する技術
・打ち明け方があっさりだと、それだけ患者は受け入れやすい
⇒たとえ、その時は“聞く”に耐えなくても、後で想起する
【受け入れられる告知】
・医師の「末期疾患」と「死」に直面する“態度”と“能力”で決まる
★真摯なアプローチ
①必ずしも絶望ではないこと
②どんな診断が下されようと、医師が患者を見棄てはしないこと
③どんな結果が出ようと、患者、家族、医師の力を合わせての戦いであること
▼患者
◎真実を告げられた患者の反応
・パーソナリティ、生活様式、生活態度などによって異なる
◎医師の真摯な態度に触れた患者
・隔絶、欺き、拒絶の心配がなくなり、協力していこうという気持ちになる
①“否認”を自我防衛手段として使う人
そうでない人よりも、はるかに広範囲に否認機制を使う
②過去に苦しい場面を凌いだ経験のある人
現在の情況にも同様に、冷静に直面することが出来る
★人間は、自分の生命の終わりを自由意志では直視したがらない
・ただ時折、漠然と我が死の可能性を意識するだけ
⇒その機会の1つが、致死的な病気の告知
⇒自分の“可能的な死”が意識の前面に出てくる
★「死と死ぬこと」を時折考える習慣をつけるべきではないか
・自分や家族が末期と診断されたとき、動顛し悲観し過ぎないように
▼家族
・自分の家族が悪性腫瘍と宣告されたとき、絶望的な無能力感に陥る人が多い
・家族は医師の言動、または無言の力づけを頼りにしている
⇒医師の真摯なアプローチが大きな力付けとなる
・延命が困難でも、患者の苦痛の軽減にあらゆる手段が尽くされると知れば、勇気づけられる
*患者の状態に関係なく、それぞれに「死と死ぬこと」の問題を考えることは祝福となり得る