新・映像の世紀 | T-MOTOの日曜映画

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日曜日のショートムービー製作

昨夜、NHKスペシャルで20年前に放送された「映像の世紀」の新シリーズが放送されました。

20年前に放送されたときは熱心に見ていた番組なんですが、新シリーズの一回目を見て、ちょっと気になる点が、2点ありました。

1. アメリカの参戦理由

番組では、第一次大戦のアメリカの参戦理由について、英仏側が負けるとアメリカの持っている債権が焦げ付くから、英仏側についたという説明でした。

これだと、第一次大戦は各国の利害に基づくどっちもどっちの戦争で、アメリカはたまたま英仏に多くの債権を持っていたので英仏側について参戦し、そのためにドイツはたまたま負けた、みたいな印象を与えかねません。

第二次大戦と比べると第一次大戦は複雑でわかりにくいのですが、ドイツについていうと、サラエボ事件に便乗して事件とは無関係な地域、中立国ベルギーを侵略してフランスとの領土問題の解決のためにドイツが仕掛けた戦争です。現代の国際法秩序なら、完璧にドイツ側に非があります。侵略を罰する成文法がなかった当時も、ベルサイユ条約によりドイツ皇帝を訴追する方針が立てられています。

(ベルサイユ条約第227条)
連合国は国際的道義および諸条約の崇高なる義務に最高度の侵害を犯したことにより前ドイツ皇帝ホーエンツォレルン家のウィルヘルムⅡ世を公式に訴追する。
 その被告人を裁くため特別の法廷が設置される。被告人には弁明の保証が与えられる。法廷は次の諸国により指名される5人の裁判官で構成される。;アメリカ、イギリス、フランス、イタリー、日本。
 判決に当っては、法廷は国際的公法の崇高な動機により運営されねばならず、国際的道義と国際的取り決めによる義務が斟酌されねばならない。そして審決に見合った処罰が課せられるだろう。
 連合国はオランダ政府に裁判に付されるべく前皇帝が引き渡されることを要求する。

番組では触れてませんが、ドイツの無制限潜水艦作戦によるルシタニア号撃沈事件とか、ツィンメルマン電報事件とかあって、アメリカの国内世論が反ドイツで沸騰していた、というのもありますしね。

債務問題に限定したのはバランス感覚としていかがなものかと思いますね。

第一次大戦も第二次大戦も帝国主義の戦争にしたい歴史観の左右のウルサ型の視聴者向けには、いいのかもしれませんが。

それから根本的な疑問として、イギリスとフランスが戦争に負けたらアメリカの債権が回収できなくなるというのは本当ですかね?

ドイツにも戦前債務があったわけですが負けても債務はチャラになっていません。戦前債務を払うことはロンドン債務協定しっかりと約束させられています。日本も戦争に負けても英米から借りた日露戦争の公債の債務はチャラにならず、1986年までずっと返し続けています。


2. フランスの公認慰安婦

第一次大戦下でのフランスの公認慰安婦についての記録映像が簡単に紹介されていました。
新シリーズでは、ある人物に焦点を当てた作り方になっていて、それ以外の事柄はどうしても網羅的で簡潔な説明になってしまうのでしょうが、これだと、どこの国でも戦争中は従軍慰安婦制度があった、という誤解を与えかねません。

公娼制度だから、という理由で日本の従軍慰安婦の制度が批判されているわけではありません。誘拐や監禁や強制売春など犯罪シンジケートなみの不法行為が日本軍を主体に行われたから批判されているのです。

NHKの籾井会長は就任会見で的外れの発言をしているわけですが
籾井「戦争地域にはどこでもあったと思っている。ドイツやフランスにはなかったと言えるのか。ヨーロッパはどこでもあった。なぜオランダには今も飾り窓があるのか。」

まず、戦争だからどこの国にもあった、ではなく、ヨーロッパでは昔から公娼制度がありました。
近代国家の公娼制度は、フランスは1802年から、イギリスは1860年代からです。

オランダでは今でも公娼制度がありますが、日本の戦前の吉原とは根本的に異なります。
オランダの公娼制度は、犯罪組織の中間搾取を排除するのが目的で、働いている女性は自営業者扱いです。廃業、転職は自由です。ほとんど全員が親が借りた前借金の返済のために年季奉公をしている吉原とは違います。

とはいっても当時のヨーロッパの公娼制度も人身売買的ケースがなかったわけではありませんから、反対運動が盛んになり、第一次大戦後、この種の人身売買を禁止する条約が国際連盟で採択されます。(婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約 1921年)

当時の国内状況についてのブログ
大正末期の無名の娼妓の手記と近代公娼制度について


NHKの籾井会長のように頭の中でごっちゃになっている人が多いのですが、この3つは別物です。

1. 廃業・転職が自由な自営業者で、売春合法の国なら問題なし
○ 現代のオランダ、スイスなど、
○ 終戦時に日本の内務省が企画した米軍向け特殊慰安施設協会、
○ 戦前のヨーロッパの公娼制度(人身売買の例外あり)

2. 自由契約が建前だが、親の前借金による限りなく黒に近いグレーな人身売買
○ 戦前の日本の公娼制度

3. 人身売買、誘拐、監禁、強制売春などの違法行為あり
○ 日本軍の企画・建設・運営の軍慰安所
○ 犯罪シンジケートの売春宿