日弁連の少年法「成人」年齢引下げ反対の意見書 6 | T-MOTOの日曜映画

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第6 総括

仮に少年法の「成人」年齢を18歳に引き下げることになれば,これまで非行少年として少年司法制度の指導・援助を受けてきた若者のうちの40%強を,「自己責任」の名の下に,刑事司法手続の中に放り出すことになる。
 これは,前記「第3 今日の青少年の成熟度と非行を犯した少年の特徴」で指摘した若者像,なかでも非行を犯した若者の実像を無視するものであり,かつ,「第4 少年審判・保護処分の内容及び再犯防止効果と刑事裁判・刑罰との違い」で紹介した「刑事裁判よりも少年司法の方が再犯防止に効果がある」との実証的研究の結果を無視するものであって,少年の立ち直り・成長支援と再犯防止を阻
害し,ひいては新たな被害者をも生みだしかねない施策である。
 また,少年法の「成人」年齢の引下げは,極めて有効に機能している少年審判・保護処分の対象者を大幅に減少させる結果,少年の成長支援・再犯防止に関して豊富な経験と能力を有する,家庭裁判所・少年鑑別所・少年院等の関係機関の機能を著しく低下させかねないという深刻な問題をも孕んでおり,困難を抱える子ども・若者の成長発達に対する国・地方公共団体の支援施策の重要性が「子ども・若者育成支援推進法」によって確認された中で,それと矛盾し,逆行する施策となるのである。
 また,前記「第1 はじめに 2」における検討からも明らかなように,法律における年齢区分は各法律の立法目的や保護法益によって定められているものであって,民法内においても,身分行為に関しては異なる年齢区分が採用されている。したがって,行為能力が問題とされる場合には民法の成年年齢と連動させるべきであるが,それ以外の場合には必ずしも連動させる必要はなく,むしろ立法目的や保護法益に相応しい格別の年齢区分が設けられるべきである。
 少年法は,明らかに少年の法律行為能力を問題とする法ではないから,民法の成年年齢と少年法の適用年齢を連動させる必要はない。仮に,民法の成年年齢が18歳に引き下げられた場合に,少年法の立法目的や保護法益を検討することなく,ただ単に民法の成年年齢が引き下げられたという理由のみによって少年法の適用年齢をこれに連動させるとすれば,むしろそれは非常に安易で危険な法改正であるといわざるを得ない。
 いま,公職選挙法の選挙権年齢を18歳に引き下げる動きがある。この点については,若者の政治参加を促進し国政への関心を高める効果が期待できるし,かつ国政に広く多様な民意を反映させるという観点からも,当連合会も異論はない。
 近時,法律行為が制限されている成年被後見人に対する国政選挙権の制限を撤廃したが,これは,選挙権の権利としての重要性とともに,国政に広く民意を反映させることの重要性を踏まえたものである。
 これに対して,少年法の適用年齢は,資質上や生育環境上のハンディを抱え,対人関係形成能力や社会適応能力が十分身についていないために社会からの逸脱行動をとったとされる若者に対してどのように対応することが,当該若者の更生及び再犯防止に効果があり,社会の安全確保に有効かという観点から判断されるべきであって,選挙権の承認とは全く異なる視点から検討されなければならない。
 現行少年法(昭和23年制定)は,旧少年法の運用実践とその成果を踏まえ,若年犯罪者については刑罰より保護処分の方が更生にとって適切かつ効果的であるとの立法政策に基づいて,対象年齢を20歳未満に引き上げたものである。それから65年,家庭裁判所による人間行動科学に基づく審理と保護処分優先の処遇という現行の運用は,現実にその効果を挙げている。
 よって,当連合会は,仮に民法の成年年齢を18歳に引き下げた場合であっても,少年法2条の「成人」年齢を引き下げることには反対である。