バイロイト音楽祭2025 「トリスタンとイゾルデ」(バイロイト祝祭劇場 3日)。

 

指揮:セミヨン・ビシュコフ

演出:トルレイフール・オーン・アルナルソン

合唱指揮:トーマス・アイトラー=デ・リント

 

トリスタン:アンドレアス・シャーガー

マルケ王:ギュンター・グロイスベック

イゾルデ:カミラ・ニールント

クルヴェナール:ジョーダン・シャナハン

メーロト:アレクサンダー・グラッサウアー

ブランゲーネ:エカテリーナ・グバノヴァ

羊飼い:ダニエル・イェンツ

舵手:ローソン・アンダーソン

若い水夫:マシュー・ニューリン

 

バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団

 

ザルツブルク音楽祭を2晩のみで切り上げ、後ろ髪が引かれる思いで移動する。

通常、ザルツブルクからバイロイトは電車で4時間程度(ザルツブルク→ミュンヘン→ニュルンベルク→バイロイト)。ところが、私が移動する時期に限ってザルツブルク〜ミュンヘン間で工事があるということで、ここの移動だけで通常の倍かかるし乗換も多くなってしまう。そのようなわけで、今回朝7時にザルツブルク発の特急に乗ってミュンヘンとは逆方向のリンツまで行き、そこからICEでニュルンベルクに移動してバイロイトに向かうという遠回りをせざるを得なくなった。所要時間6時間。疲れた…

 

そのような長距離移動当日、2時間の休憩を入れて合計6時間に及ぶ公演であったが、疲れが吹き飛ぶような素晴らしい公演であった。上演内容も素晴らしかったが、何よりトリスタンとイゾルデという作品が持つ力が圧倒的にすごい。

 

今回の公演、昨年上演されたプロダクションと同じで、指揮者はもちろん、歌手もほぼ同一。歌手で昨年と異なるのは、クルヴェナール役ジョーダン・シャナハン、メーロト役アレクサンダー・グラッサウアー、ブランゲーネ役エカテリーナ・グバノヴァの3名のみだ。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12862467013.html

 

やはり今年も、イゾルデ役のカミラ・ニールントが秀逸である。彼女の声はリリックとドラマティックが共存するという希有なものであり、アイルランドの王女という役としては最適であろう。強靱な声ではあるが、決してキンキンするところがなくて、弱音がとてもすっきりと美しく伸びるのである。そのニールント、ついに来年のバイロイト音楽祭ではティーレマンの指揮のもと、ブリュンヒルデを歌う!今から非常に楽しみだ。もちろん、今年のウィーン国立歌劇場来日公演でのマルシャリンも必聴である。

トリスタン役アンドレアス・シャーガー、昨年の自分の感想を見たが、今年もほぼ同じである。声が重くなっている分、第2幕の高音はきつそうなところもあって、ファルセットでこなす部分あり。それでも第3幕ではきわめて説得力があり見事だ。

マルケ王役ギュンター・グロイスベック、細めで強い声であるが、演出でマルケ王はかなりワイルドに描かれているので、その描き方には合っている声だと言えよう。

クルヴェナールとブランゲーネは昨年より今年の方が自分の好みである。ブランゲーネ役エカテリーナ・グバノヴァ(昨年も当初彼女が予定されていたが、クリスタ・マイヤーに変更になった)、かなりしっかりしている上に繊細であり、第2幕の舞台裏からの警告など、きわめてはっきりした意志が感じられる歌唱である。クルヴェナール役ジョーダン・シャナハン(ハワイ出身)も非常に明瞭で力強い発声が素晴らしい。

 

オーケストラ、昨年よりもよい席(平土間の中央)だったので昨年よりは音がよく聞こえた。トリスタンとイゾルデ、私の好みは録音だとベーム、実演だとティーレマン(両者は全く方向性が異なる演奏ではあるが)であり、ビシュコフはそのどちらの方向性でもない。ここぞというところでずっしりと手応えある音が欲しいのであるが、それがなくてもったりしているのだ…それでも、第3幕エンディングの愛の死、最後でかなりテンポをぐっと落とすところはなかなか見事な効果があった。

 

合唱団、昨年をもって長らくバイロイト音楽祭の合唱指揮者を務めた、日本でもおなじみエバハルト・フリードリヒが退任。今年から、ライプツィヒ市立歌劇場合唱指揮者であるトーマス・アイトラー=デ・リントが合唱指揮者となった。今年の合唱団がどのような編成になっているのかわからないのだが、本公演第1幕の合唱のみでは、合唱団が昨年に比べてどうなのかまではわからなかった…

 

演出はアイスランドの演出家、トルレイフール・オーン・アルナルソン。詳細については昨年記述した通りだが、バイロイトの演出にありがちな、クセが強い自己主張がないのは救いだ。ただこういう演出は聴衆から見ると叩くほどでもない一方で絶賛するほどでもなく、実際にアルナルソンがカーテン・コールで登場したときの聴衆の反応は可もなく不可もなく、と言ったところ。

 

この日の公演、第2幕の途中から(私の席からだと)左の方で異音が発生し、そこまでひどくなかったのだが途中からかなり気になるぐらいの音になってきた。補聴器のハウリングだ。第3幕ではなくなっていたが、いい加減どうにかならんものかね。全ての電子機器は電源を切るべきではなかろうか。

 

16時開演、各1時間の休憩を2回はさんで22時過ぎに終了。天気はよくないので、結果涼しくて良い。

 

総合評価:★★★★☆