ヤニック・ネゼ=セガン指揮METオーケストラ来日公演を、サントリーホールにて。

 

モンゴメリー:すべての人のための讃歌(日本初演)

モーツァルト:アリア「私は行きます、でもどこへ」「ベレニーチェに」

(ソプラノ:リセット・オロペサ)

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

 

前日に引き続き、METオケ来日公演。前日のプログラムオペラの演目だったのに対して、この日はコンサート用の音楽のみである。

 

冒頭に演奏されたジェシー・モンゴメリー(1981〜)は米国の女性作曲家・ヴァイオリニスト。9月に来日するマリン・オルソップ指揮ウィーン放送交響楽団の公演でもその作品が演奏されるようだ。今回演奏された「すべての人のための讃歌」は10分程度の作品で、シカゴ響のコンポーザー・イン・レジデンス時代の作品。映画音楽のようにわかりやすい曲ではあるのだが、そこまで突出した個性は感じられず、現代作品をとりあえず来日公演で演奏しました、という程度の印象である。16型対向配置。

 

続いて演奏されたモーツァルトを歌ったのは、昨年のローマ歌劇場来日公演でヴィオレッタを歌ったキューバ系アメリカ人の美人ソプラノ、リセット・オロペサ!

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12821164706.html 

黄色と黒の模様のドレスを着たオロペサ、モーツァルトのアリアにふさわしい、とてもなまめかしくコケティッシュな声質で、にこやかに歌う表情もまた非常に魅力的である。多少声が揺れるが技巧的にもきっちりとこなした。オロペサは2020年にマナコンダ指揮イル・ポモ・ドーロ(なんという名前だろうか)とともにモーツァルトのアリア集を録音しているが、現在の方が声に色気が増していると思う。

伴奏のオーケストラは12型に縮小したのだが、艶があるうえに豊かな響きを持つ弦の音が非常に魅力的!12型でこれだけコクがある音色が出せるのは見事である。日本のオーケストラでも艶がある弦の音を聴くことができると思うが、どうしても薄くなり、豊麗さで一歩譲る。

 

後半はネゼ=セガン自身が大好きだと語るマーラーの5番。2019年のフィラデルフィア管来日公演でも、彼はこの作品を演奏している。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12542393625.html

しかし、2019年のフィラデルフィア管との演奏とはかなりアプローチが異なる演奏であり、ネゼ=セガンの変化、成長が伺える演奏となった。今回の演奏の方がずっとよかったと思う。

テンポは速いとまでは言えず、すいすいと進んだ前回の演奏とは印象が違う。第3楽章のレントラー風のワルツでも、かなりクセがある表現を試みていた(完全に成功しているとまでは言えないのだが)。指揮ぶりはとても元気に見えるが、出てくる音楽は落ち着いていて、アメリカのオーケストラによくある力で圧倒するところがない。金管のパワーはあるものの、オーケストラ全体のバランスは悪くないのだ。

この曲で非常に大事なホルンのソロが安定していて、思った以上に繊細である。第3楽章のソロはたまに立ち上がって演奏していた。トロンボーン・セクションの重量感はいかにも米国のオケだ。一方、普段演奏しない曲だということもあろう、トランペット他のパートではキズが散見されたのだが、まあこれは想定の範囲内だ。

ネゼ=セガンの解釈自体は前回に比べるとかなり共感できるものになっていたが、第5楽章のエンディングの高揚感などは、もう少し自然な流れが欲しかったのも事実。

コンサートマスター、前日のロバート・チェンは次席に移り、ベンジャミン・ボウマンが担当した。

 

前の日のカーテンコール時にネゼ=セガンが、明日はアンコールをやると言っていたのだが…マーラーが終わると21時20分、指揮者もオーケストラもかなりお疲れの様子で、その後指揮者のサイン会もあったようだし、アンコールなしで終わった。ネゼ=セガンがインタビューで、普段からワーグナーやヴェルディの大作を演奏しているMETのオケにとって、マーラー(の演奏時間)など何でもない、と語っていたのだが、まあそれでもピットの外で、普段演奏しない曲を演奏するのは大変だったと思う。

 

チケットは完売しなかったようだが、招待客が多かったのか、かなり客席は埋まっていた。

 

総合評価:★★★★☆