山田和樹指揮 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団来日公演を、サントリーホールにて。
ベートーヴェン:序曲「コリオラン」 Op. 62
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op. 37 [ピアノ独奏:藤田真央]
(ソリスト・アンコール)
ブラームス:8つのピアノの小品より第8番カプリッチョ
ベルリオーズ:幻想交響曲 Op. 14
(アンコール)
ビゼー:「アルルの女」第2組曲“ファランドール”
モンテカルロ・フィル、その昔はモンテカルロ国立歌劇場管と呼ばれていて、私の世代のクラシック・ファンにとってはスヴャトスラフ・リヒテルがロヴロ・フォン・マタチッチの指揮で録音したグリーグとシューマンのピアノ協奏曲が有名だ。逆に言うと、そのぐらいの知識しかない。そのモンテカルロ・フィルを今回、初めて実演で聴いた。
前半はベートーヴェン。コリオラン序曲の冒頭のCの音がもう、フランス語圏のオケ!とすぐにわかるような、明るくしなやかな音なのである。チェロやコントラバスにゴツゴツしたところが全くない。音が小さいというわけではないのだが、ドイツのオーケストラとは全然違う音色で、地中海風のベートーヴェン。
続いて演奏されたのは、藤田真央が弾くベートーヴェンの3番。真央君が弾くベートーヴェンを聴くのは初めてだ。第1楽章はかなり柔らかいタッチで、いわゆるベートーヴェンらしい重量感ある演奏ではなく、歌心に満ちた今まで聴いたことがないような表現である。カデンツァは聴いたことがないものだったので驚いた。一般的にはベートーヴェンの自作カデンツァが演奏されることが多いわけだが、真央君が弾いたカデンツァは相当華麗でダイナミックである。まさか藤田真央の自作なのかと思ったのだが、休憩中に掲示版を見たら、これは矢代秋雄(1929〜1976)の作であった。つい2日前に京都で、デヤン・ラツィックが4番で壮麗な自作のカデンツァを披露したばかりだったので、何か偶然を感じる。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12853751956.html
矢代秋雄のカデンツァはラフマニノフばりに音が分厚く、そのうえ才気を感じさせるものだった。YouTubeに譜面付きでこのカデンツァがアップされている。
第2楽章は相当繊細で、冒頭のピアニッシモはかなり音が小さく、譜面通りペダルを3小節開放して音を空間に響かせる。その後もかなり研ぎ澄まされた表現が続く。第3楽章は推進力を増すが、これに輪を掛けたのがヤマカズで、どう考えてもアッチェレランドしてオケを煽っているようにしか思えなかった。それでも真央君のソロにぴったりと合わせようという姿勢はあって、なかなかスリリングな演奏だ。エンディングはヤマカズがまさに疾走。
アンコールはあまりなじみがないロマン派の曲だったが、これがブラームスだとは思わなかった。数年前にシフがリサイタルで弾いていた曲だ。
後半は幻想。ヤマカズやりたい放題!
ヤマカズは海外のオーケストラを振ったときの方が、日本のオーケストラを振ったときよりも断然いいと私は思っている。昨年のバーミンガム市響との来日公演のときもそう感じた。出る杭が打たれる日本では、ヤマカズもオーケストラには遠慮しているということか?モンテカルロ・フィル、ヤマカズの要求を確実にこなしてしっかりと付いていっているように見えた。
ヤマカズはかなり際どいところまで攻めるアプローチで、過激な表現の一歩手前まで行っている。シャルル・ミュンシュのあの超過激演奏の方向性に近い。第1楽章、かなり音量を絞って開始され、第2楽章は優雅の極みで、第3楽章は割と普通であったが、第4楽章あたりからテンションが上がり、第5楽章はテンションマックス。不思議なことに鐘の音が聞こえるときに、ずいぶん下の音が聞こえてきた。怒りの日のテーマはテンポ速め。その後もテンポの伸び縮みが激しく、363小節ではいったん音楽が止まったかのよう。そのあとのクレッシェンドと猛烈なアッチェレランドは壮絶であった。
第1楽章、第4楽章におけるリピートはなしだった。
アンコールはラコッツィ行進曲を予想していたが見事に外れ、ファランドール。コートダジュールの雰囲気マックスで、音が終わる前にヤマカズが聴衆に拍手を促して会場が盛り上がった。
モンテカルロ・フィル、幻想のトゥッティではやや音がダマになる傾向もあったが、管楽器のソロはいい雰囲気を持っているし、とてもいいオーケストラである。バーミンガム市響もそうだったが、ヤマカズと相性が良さそうだ。
この日、藤田真央出演ということでチケットは完売だったはずだが、当日券が出てなんとたった3枚!
男子トイレに女性がたくさん並んでいたのでなぜだろうと思ったら、女子トイレからの列が男子トイレ前まで続いていたのだった。
総合評価:★★★★☆