ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)東京2024。今年もこのシーズンがやってきた。
昨年(2023年)コロナ渦で中断されていたこの音楽祭が4年ぶりに復活、今年2024年も開催されたのは嬉しい限りである。
ただ…コロナ以前に比べると、出演するアーティストが全体として小粒になってしまったのは残念。致し方ないことではあろうが。昔はミシェル・コルボ、マルタ・アルゲリッチ、ギドン・クレーメル、フランソワ・グザヴィエ・ロトなどの大物アーティストが出演していたのだが。
今回自分の興味を引いたのは常連のアンヌ・ケフェレックやアブデル・ラーマン・エル=バシャを除くとジャン=マルク・ルイサダ、ブルーノ・リグット、そしてマリー=アンジュ・グッチぐらいになってしまった。
そんなわけで今回私が参加したのは3日(金)2公演のみ。雲一つない快晴で、木陰に入ると涼しく、まるで初夏のヨーロッパのような素晴らしい気候である。
【公演番号141】東京国際フォーラム ホールG409:グラツィオーソ
酒井茜 (ピアノ)
J.S.バッハ:パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825
ドビュッシー:版画
グラス:メタモルフォーシスⅠ
ラヴェル:ラ・ヴァルス
10年前のLFJでマルタ・アルゲリッチとストラヴィンスキー「春の祭典」の連弾をした酒井茜、ソロを聴くのは初めてである。上記の通り、素晴らしいプログラムだ。
G409(つまりガラス棟409会議室)という小さい部屋において、至近距離でプロのピアノを聴けるのは格別で、また貴重な体験だ。直接音をガンガン身体に浴びるのは快感。
グラスはともかく、バッハ、ドビュッシー、ラヴェルは超有名なピアニストの演奏で何度も聴いているゆえ、酒井の演奏はどれもあと一歩の踏み込みが足りないような気がしてしまうのだが、中でもドビュッシーは最も彼女の音楽性に合っていると思った。ラヴェルはやや粗さが目立ったが、まあこの曲は即興的な側面が大きいのでこういう演奏もありだろう。
総合評価:★★★☆☆
【公演番号122】
マリー=アンジュ・グッチ (ピアノ)
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第5番 op.53
ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 op.22
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番 イ長調 op.82「戦争ソナタ」
(アンコール)
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲〜カデンツァ
昨年4月、パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響の定期に出演し、ラフマニノフのパガ狂を演奏して一躍わが国でも脚光を浴びたアルバニア出身のマリー=アンジュ・グッチがLFJに登場。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12800582265.html
この小1時間で、ロシアの作曲家による重い曲ばかりを弾くというのもすごいが、実に見事な演奏であった。彼女の演奏からはすでに独自の雰囲気が醸し出されていて大物の予感がある。スクリャービンの幽玄にして神秘的な世界観を築き上げ、ラフマニノフでは息を呑むような透明感ある弱音に驚く。プロコフィエフは諧謔性よりも女性的なたおやかな表現が優先し、別の曲を聴いているかのような錯覚に陥った。
アンコールはN響定期のときと同じく、ラヴェルの左手の協奏曲からカデンツァ。今度、この左手の協奏曲全曲を聴いてみたいものだ。
総合評価:★★★★☆