イノン・バルナタン(ピアノ)を、東京文化会館小ホールにて。

 

ラモー:《新クラヴサン組曲集》より 組曲 ト長調 RCT6

ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ

ストラヴィンスキー(G.アゴスティ編):バレエ音楽《火の鳥》より

 魔王カスチェイの凶悪な踊り

 子守歌

 終曲

ラフマニノフ(バルナタン編):交響的舞曲 op.45

 

(アンコール)

J.S.バッハ(E. ペトリ編):狩のカンタータ「わが楽しみは、元気な狩のみ」 BWV 208 より アリア「羊は安らかに草を食み」

J.S.バッハ(ラフマニノフ編):無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 BWV1006 より 第1楽章

 

イスラエル出身ニューヨーク在住のピアニスト、イノン・バルナタンの演奏を初めて聴いたのは2017年、アラン・ギルバート指揮都響でのパガニーニ狂詩曲。あれは、本当に素晴らしい演奏であった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12268259773.html

ウラディミール・ホロヴィッツは「ピアニストには3種類しかいない。ユダヤ人か、ホモか、下手くそだ」と言ったが、ユダヤ人であるバルナタンは確かにピアノを弾くために生まれてきたのではないか、というぐらいに素晴らしいピアノを弾く人で、その演奏には知情意の全てが詰まっている。割と小柄で細身。目鼻立ちは同じユダヤ系のウラディミール・アシュケナージに似ている。小柄ながら、繊細な音から強靱な音まで広く表現する人だ。

 

最初に演奏されたのはラモー。つい先日、トリフォノフがRCT5という作品を取り上げたばかりである。今回演奏されたRCT6は6曲。いずれもユニークなタイトルが付いていて、例えば4曲目は「未開人」というタイトルだ。2曲目のみよく知っている曲で「めんどり」。バルナタンのタッチは優雅で上品である。取り上げた曲が違うというのもあるし、ピアノの状態もホールも違うからだろうが、洗練度合いで言うとトリフォノフの方が上だっただろうか。

続いて演奏されたラヴェルは最高に素晴らしかった。音がキラキラと輝いているうえに洒脱。音色がしっかりと統制されていて隙がない。こういう演奏はワインを飲みながら聴きたい。

前半最後は編曲版の火の鳥。(実際にアドリブがあったかもしれないが)かなり即興的な要素が強い編曲で、オーケストラ版とはだいぶイメージが違う。特にカスチェイはかなりアグレッシヴで、打鍵も強靱でピアノが壊れるのでは?というくらいだった。

 

後半はバルナタン自身の編曲による交響的舞曲。交響的舞曲はラフマニノフ最後の作品であり、オーケストラ曲であるが、それに先だってラフマニノフ自身によって作曲された2台のピアノ版がある。バルナタンの編曲、当然ながら2台のピアノ版をベースに編曲したものと思われるが、あえて1台で、そして自身で弾くということは相当な思い入れがある曲なのであろう。ラフマニノフ自身が作曲したと思われるほど、超絶的技巧が要求されるであろう聴き応え満点の曲に仕上がっている。第3楽章のエンディングに向けた高揚感がすごい。

 

アンコールはバッハ2曲。ラフマニノフが編曲したというパルティータ第3番1楽章は華麗そのもので、ヴァイオリン一挺で演奏されるオリジナル曲がここまで可能性を秘めているということに驚く。

 

日本ではそれほどの知名度がないからということか、客席はガラガラ。もったいない。売れ行きが悪いゆえにチケットをばらまいたのかわからないが、すこぶるマナーの悪い客がいた。

 

総合評価:★★★★☆