東京都交響楽団第830回 定期演奏会Cシリーズを、東京芸術劇場にて。

 

指揮/アラン・ギルバート
ピアノ/イノン・バルナタン

ベートーヴェン:劇付随音楽《エグモント》序曲 op.84

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43

(アンコール)バッハ:羊は安らかに草を食み

ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55 《英雄》

 

ニューヨーク・フィルの音楽監督を今シーズンで退任するアラン・ギルバート。退任後のポストは特に決まっていない。

そのアラン、すでに都響とは何回も共演してその相性の良さが指摘されているか、今回の公演もそれを裏付ける大変な名演であった。

 

冒頭はエグモント序曲。通常、最初に置かれた序曲はさらっと流すものだという常識を覆すような、驚くほどエネルギッシュで説得力あふれる演奏である。学校の音楽室に飾ってあった、あのベートーヴェンの肖像画をほうふつとさせる、激しく熱いベートーヴェン。やはりベートーヴェンはこうでなくちゃ!

 

続くパガニーニ狂詩曲を弾いたのはイスラエルのピアニスト、イノン・バルナタン。2016年1月の都響スペシャルでやはりアランと共演し、ベートーヴェンの3番を弾いている。私は別のコンサートがあったため聴けなかったのだが、そのとき聴いた何人かの方が彼を絶賛していたので楽しみにしていた。

確かに素晴らしいピアニストだ!

音数の多いこのラフマニノフの通俗名曲を、粒立ちよくクリアに、そして極めて表情豊かに弾きこなした。そして、天才ピアニストに共通していることだが、演奏にとても余裕が感じられる。

オケも雄弁に鳴っているが、ピアノをかき消すことがない。ピアノとともに弱音も相当研ぎ澄まされており貴重な体験。エンディングの迫力も大変なものであった。

ピアニストのアンコールはバッハの有名曲。情熱的な音楽のあとに、しっとりと安らぎを感じられる瞬間であった。

 

後半はベートーヴェンの英雄。アランは最近の潮流であるピリオド奏法のスタイルを採っていないが、かといって時代がかった演奏でもなく、モダンで引き締まった表現であるし、第1楽章の最後のトランペットの付加もしていない。

指揮の見た目と同様のエネルギッシュな側面もあるが、同時に日系人らしく日本的な繊細な表現も兼ね備えているのがアランの素晴らしいところだ。

テンポは思ったよりも遅めで、特に第4楽章などは割とどっしりとした印象を与える。

今回の演奏会を通して14型のオケは素晴らしい音で、低音をベースとした重厚なサウンド。広田氏のオーボエの音は、いつ聴いてもほれぼれする。

 

それにしても、アランと都響の相性は本当にいい。先週のジョン・アダムスが聴けなかったのは本当に残念。アラン、大野さんの次の監督にぜひ来てもらいたいけれど、タイミングが合わないだろうか…

 

総合評価:★★★★☆