東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.15《トリスタンとイゾルデ》(演奏会形式/字幕付)を、東京文化会館大ホールにて(30日)。

 

指揮:マレク・ヤノフスキ

トリスタン(テノール):スチュアート・スケルトン

マルケ王(バス):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ

イゾルデ(ソプラノ):ビルギッテ・クリステンセン

クルヴェナール(バリトン):マルクス・アイヒェ

メロート(バリトン):甲斐栄次郎

ブランゲーネ(メゾ・ソプラノ):ルクサンドラ・ドノーセ

牧童(テノール):大槻孝志

舵取り(バリトン):高橋洋介

若い水夫の声(テノール):金山京介

管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ベンジャミン・ボウマン)

合唱:東京オペラシンガーズ

合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩

音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

 

27日に続き、「トリスタンとイゾルデ」を聴く。この長いオペラを実演で聴くのはなんとこの1週間で3回目。

このオペラは聴き始めるとかっぱえびせんのようにやめられなくなり、止まらなくなる。無限旋律ということもあるが、曲の説得力が強すぎて、途中で切ることができなくなるのである。そして、今週は仕事中もずっとこの曲が頭の中で鳴っていた。

 

基本的な感想は27日公演と同じ。30日公演も、あまりに素晴らしくあっという間の5時間であった!

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12846074651.html 

ただ、27日1階センター前方で聴いたのに対し、今回30日は3階センター1列目で聴いたので、聞こえ方がだいぶ違う。

 

1階前方で聴くとイゾルデ役クリステンセンの声量はそこまで不満がなかったのだが、3階だとやはりやや声量が弱く声もこもり気味。27日もそうだったが、第1幕、高音で伸ばすべきところをさっと打ち切ってしまっていたのはちょっと残念。ただ、この人突き抜けるところがないとはいえ安定はしていて破綻はない。ブランゲーネ役ドノーゼ、イゾルデよりは尖っていて押し出しが強い。ブランゲーネの見張りの歌は2階右手で歌われた。

やっぱり30日もゼーリヒとアイヒェが圧倒的によかった。ゼーリヒはもう20年以上聴いていて名前はよく知っているけれど、これほどインパクトの強い歌唱は今回が初めてかもしれない。彼の声にはただただしびれて聞き惚れてしまった。アイヒェもゼーリヒ同様20年以上聴いているが、かなり英雄的で雄弁な声になってきていて、来週のニーベルンクの指環ガラではヴォータンを歌うようだ。トリスタン役スケルトンは突き刺すような破壊力があるわけではないが、包容力がある声とでも言うべきか。

 

それにしても、ヤノフスキのダイレクトで推進力のある音楽は実に聴いていて気持ちがよい。鳴るべきところでしっかり鳴っているし、重力感もばっちりである。27日、オーボエ首席が1・2幕と3幕で交代しているのが見えたが、今回3階でステージを見ていると、ホルンも第2幕のみ首席が交代していて、1幕と3幕はN響首席今井氏、2幕は東響首席上閒氏だった。

 

そして3階で聴くと第1幕の力強い男声合唱を、シャワーのように浴びることができた。

 

27日にヤノフスキが第3幕で拍手を制止したことがあったからなのか、第1幕のエンディングの後は指揮者が棒を下ろすまで長い静寂があって、これがなかなか素晴らしかった。ところが第2幕ではいったん拍手が起こってしまい、いったん静まったもののL側の客が一人、決然と拍手をやめなかった。全く空気を読まないしょうもない奴がいるものだと思っていたら、さらにひどいことに、第3幕ではいったん起こった拍手をヤノフスキが制止したものの、5階Rにいた客がひとり、決然と拍手をしばらくやめなかったのだ。全く信じられない神経である。ああいう奴と同じ空気を吸うのもいやだとつくづく思う。

 

終演後は大喝采。なかなか拍手はやまなかった。オーケストラが引いたあともヤノフスキに対するソロ・カーテンコールが続き、歌手を引き連れてヤノフスキが再登場。最後はおやすみなさいのゼスチャーをして下がっていった。しかめっ面でにこりともしないヤノフスキにもお茶目なところがあるのだった。

 

総合評価:★★★★★