オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) 第40回東京定期公演を、サントリーホールにて。

 

指揮:マルク・ミンコフスキ(OEK桂冠指揮者)

 

ベートーヴェン   交響曲 第6番 ヘ長調 作品68 「田園」

ベートーヴェン   交響曲 第5番 ハ短調 作品67

(アンコール)バッハ:G線上のアリア

 

2018年から2022年までOEK芸術監督を務めたマルク・ミンコフスキによるベートーヴェン全交響曲演奏会は、15日の石川県立音楽堂による第9公演で完結。

私は当初、この記念すべき第9公演を聴きに金沢まで行く気満々だったのだが、ブッフビンダーのベートーヴェンピアノ・ソナタ全曲演奏会の初日が15日ということで気が変わり断念。その代わりに、プログラムは違うが東京定期公演を聴くことにした。

 

古楽の巨匠であるミンコフスキとOEKの演奏、芸術監督就任前に聴いたロッシーニ「セビリャの理髪師」演奏会形式(2017年石川県立音楽堂)、ドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(2018年東京オペラシティ)がとてもよかったのだが、芸術監督時代になってから聴いたベートーヴェンの交響曲第1番・3番(2021年石川県立音楽堂)は少々印象が薄い。というのも、ミンコフスキのベートーヴェンは意外に「普通」であり、古楽の巨匠らしさがあまり感じられなかったからである。別に、奇をてらった演奏を期待しているわけではなかったのだが…

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12685758089.html 

ミンコフスキが都響と演奏するブルックナーはまさに「目から鱗」というぐらいに斬新な解釈なのだが、ベートーヴェンの交響曲に関しては、まだ彼のなかで熟成し切れていないということなのだろうか。

そのようなわけで、今回のベートーヴェンもおそらく極めてオーソドックスなものだろうと予想していたのだが、果たして「田園」は予想通り、「運命」は少々予想外の独特な演奏であった。

 

前半の「田園」、弦は10-8-6-4-3でコントラバスはステージ中央最後列に並ぶ。ミンコフスキは古楽系指揮者であるが、いわゆるHistorical Informed Performanceではなく、普通に弦はヴィブラートをかけているし、金管が金属的な音を出すわけでもないし、テンポも全然速くない。編成が小さいせいもあって音色のふくらみはあまり感じられないが、心地よさから眠くなってしまう。少しだけミンコフスキらしさがあったのは第3楽章トリオ、ダンスの強烈なリズムか。

 

それに対して、後半の「運命」はいい意味で期待を裏切られた(弦の編成は前半と同じ)。拍手が止むか止まないかのうちにミンコフスキは冒頭の主題を演奏し始めた。アンサンブルは決してぴったりそろっていなくて粗さがあるのだが、これがかえって新鮮。テンポはかなり速めである。第2楽章、低音弦楽器をブンと鳴らすときに指揮棒を床に突き刺すようなゼスチュアをするのも面白い。第3楽章トリオのチェロとコントラバスによるフレーズ、小編成ながらあまりぴっちりそろった感はない。驚くのは第4楽章で、テンポが尋常でなく速い!しかしリピート1回目と2回目でテンポ設定が微妙に違うという不思議。しかしさらにびっくりしたのはコーダで、これはもう、私が聴いた中では最速のテンポ設定である。

 

おそらく、田園も運命も、ベーレンライター版の譜面ではなかったと思う。

オーケストラには在京オケのメンバー(元メンバー含む)らがエキストラで21名も加わっている。

 

開演前にOEKアーティスティック・リーダー広上淳一氏が事務方の人とともに登場してスピーチ。そして、終演後はミンコフスキが英語でスピーチし、アンコールとして能登半島地震の犠牲者と先日亡くなった小澤征爾氏のためにG線上のアリアを演奏した。

 

OEKの東京公演は18時半開演。私はこれを前日に友人に教えられて助かった。一昨年のOEK東京定期の日だったか、私はOEKの公演には行ってなかったのだが、20時半過ぎにサントリーホール下の駐車場あたりを歩いていると、OEKメンバーを載せたマイクロバスが出発していたので、ひょっとしたら最終の新幹線で金沢に帰るために18時半という早めの開演なのだろうか??

 

総合評価:★★★☆☆