都響スペシャル 【インバル/都響第3次マーラー・シリーズ①】を、東京芸術劇場コンサートホールにて。
指揮/エリアフ・インバル
マーラー:交響曲第10番 嬰へ長調(デリック・クック補筆版)
インバル/都響第3次マーラー・シリーズが、インバルさん88歳の2024年にやったスタート。しかし来シーズン(2024年度楽季)のプログラムにインバルのマーラーはない…
さてシリーズ初回はデリック・クック補筆完成版による10番。ちょうど10年前、第2次マーラー・シリーズの掉尾はこの10番で、これが超名演だったのである。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11897832784.html
そして、今回の演奏も超絶的な名演であった!こんな素晴らしいクック版が日本で聴けるとは!
第1楽章の冒頭のヴィオラの音がすでに名演を予感させたが、オーケストラの深く濃い響きはまさに世紀末的、退廃的にして濃厚な浪漫を感じさせる。実にいい響きだ。弦は硬質でいつもながら密度が濃く低音が強靱。金管セクションは立体的で輝きがある。木管も素晴らしいが、第5楽章のフルートソロ(首席の松木さや)が切なく胸に響き、ここで涙腺が緩んだ。
インバルの指揮は予想通り見通しが非常によく、テンポは比較的速めで変な思い入れがないのがいい。デリック・クックは音楽学者であり、彼が完成させたクック版も変な思い入れが排除されているから、インバルのような恣意性を排除したアプローチが凄みを増すのかもしれない。第5楽章エンディングで、ポルタメントの後の弦のボウイングはアップダウンをあえて揃えず強靱な音であった。
クック版のヴァージョンについては、木幡一誠氏による曲目解説に詳しく記されていて非常に参考になる。詳しい版の差異について私は詳しくないのだが、特徴的なところをあげると
・第2楽章エンディングのシンバルがなかった
・第4楽章にシロフォンが加えられていた
・第5楽章エンディングのホルンにゲシュトップフトの音が加わっていた
などなど。
クック版、録音で聴くと、やはり後半に弱さが感じられることがある。マーラーが遺したパーティセル(4段か5段の略式スコア)、かつてウィン・モリス指揮ニュー・フィルハーモニア管のLPに付録で付いていたので見たことがあるが、これを見ると第5楽章などかなり音符の数が少ないところがある。クック版は最低限しか音を加えてないと思われるので、どうしても音の厚みが感じられないところがあるのだが、インバルの今回の演奏はそうした弱さを全く感じさせない、説得力があるものであった。
前日昼の定期演奏会Cシリーズではキズが目立ったということであるが、2日目のこの日は(小さいキズはともかく)非常に高水準。
この日はヴィオラの店村眞積氏が退団するということで、インバルさんや他の楽員から花束や釣り竿が贈られていた。
総合評価:★★★★★