都響スペシャル2日目、エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団の演奏で、マーラーの交響曲第10番嬰ヘ長調(D.クックによる補筆完成版)をサントリーホールにて。

マーラー演奏最強コンビ、インバル都響によるマーラー・チクルスの最終公演である。
このコンビによるマーラー演奏が現代で最高の水準であるということを再認識させる素晴らしい公演!チクルスの掉尾を飾るにふさわしい出来映えである。

オーケストラの演奏水準は驚くほど高い。この曲、マーラーがほとんど完成させた1楽章や3楽章はともかく、他の楽章はスケルトンのような状態から、音楽学者のクックが出来る限りデフォルメを加えずに補筆しているため、マーラーが完成させた音楽に比較すると、響きはかなり薄い。マーラーらしい音の綿密な重なり合いがどうしても希薄なのである。
その上、作成途中の譜面をいきなりオーケストレーションしたわけであるから、どうしても旋律線がよくわからず不明瞭でもやもやした感が残っているのは事実。録音であればある程度補正できるが、実演だとなかなかもやもや感が解消されないのである。実際、今日と同じインバル/都響が1997年5月にこの曲を取り上げたときは(今日と異なり、サントリーホールには客が半分くらいしかいなかったと記憶する)、そのようなはっきりしない印象があったのである。
その点、今日の演奏はそのような音の薄さや、旋律の不明瞭感をかなり解消していたように思う。絶好調の都響の弦セクションは深い響きを持ち、特に第1楽章のヴィオラは冒頭から深く濃い響きで印象的であったし、音の重なりが薄い部分でも、弦の充実によってそれを感じさせない。
管楽器がこれまた見事。特にトランペット首席の岡崎氏の音色は最高でこの曲にふさわしいものだった。この曲、トランペットが上手くないと絶対にダメで、第1楽章のトゥッティの不協和音を突き抜けて鳴るあのトランペットのA音(アルマのAを象徴するとも言われる)は極めて重要。トランペットは5人とも基本的にロータリーを使用していたが、岡崎氏はそのA音のみピストンに持ち替えていた。これは音色を際立たせるための指揮者の指示なのか、単に技術的な理由なのか(第5楽章の同一音型の箇所でも同じだった)。

インバルの解釈は、9番と同様比較的淡々としたものである。第1楽章、フランクフルト放送響との1992年録音に比べるとだいぶテンポは遅くなっているが、それでも他の指揮者に比べるとそれほど遅くはない。それにしても、この1楽章は涙が出るほど美しい音楽だ…
終楽章、音の重なり合いが薄いなかで、あれだけ熱い演奏を展開したのはさすが。寺本氏のフルートソロは涙が出そうになった。最後のクライマックスでは、9番の4楽章のクライマックス同様、弦のボウイングをあえて不揃いにして強奏。
弦は16型、チェロが右手手前に来る配置。客席はかなり埋まっていた。それにしても、都響の客席は本当に静かで熱心なお客さんが多い。終演後は予想通りインバルが呼び出されること2回。
インバルと都響によるマーラー、本当にもう何回聴いたことだろうか。これでしばらくもう実演を聴くことがなくなりそうなのは残念。
https://www.youtube.com/watch?v=P5Ln897MBnQ