ティル・フェルナーのピアノ・リサイタルを、トッパンホールにて。

 

シューベルト:4つの即興曲 D935より 第1番 ヘ短調/第2番 変イ長調

シェーンベルク:6つの小さなピアノ曲 Op.19

シューベルト:4つの即興曲 D935より 第3番 変ロ長調/第4番 ヘ短調

モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K475

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 Op.53《ワルトシュタイン》

(アンコール)

バッハ:フランス組曲第5番BWV816より 第3楽章 サラバンド

 

ウィーン生まれのピアニスト、ティル・フェルナー(1972〜)による、ウィーンで作曲された曲を集めたプログラムである。

 

フェルナーの演奏は極めてウィーンの正統派的で、いい意味で「型」にはまったところがあって、それが聴いていて非常に心地よいものになっている。今までトッパンホールで聴いてきた彼の演奏、2009年〜2010年にかけて行われたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会をはじめとして、実にウィーン的な「様式美」が感じられる素晴らしいものだった。

今回の曲目も、そうしたフェルナーの「様式美」が感じられたのであるが、その一方で、今回のリサイタルでは若干その「型」からはみ出る表現が聞こえてきたような気がしたのである。

 

シューベルトが死の1年前に作曲した素晴らしいD935の4曲は、シューマンが1つの大ソナタという見方を示しているが、フェルナーはそれを否定し、間にシェーンベルクをはさんで演奏するというスタイルを取った。こうして、シューベルト作品の間に無調のシェーンベルクを入れても違和感が感じられないのは、その根底にある音楽話法が共通しているからなのかもしれない。

シューベルトの第3,4曲ではシューベルトの叫びのようなものすら聞こえる。第2曲は自分が発表会で弾いた曲であるが、つくづく、こうして旋律線をくっきりと浮かび上がらせて弾けることに驚嘆する。フェルナーの師匠であるブレンデルとも違う演奏だが、テイストは似ているかもしれない。

 

後半はモーツァルトとベートーヴェン。幻想曲、私はロマンティックな表現が好きなのだが、フェルナーの演奏は徹底して古典的な作法である。

続いて演奏されたワルトシュタインも、冒頭の刻みからして非常に明晰だ。この曲で、フェルナーは古典的な様式を維持しつつ、以前は聴くことができなかったような情熱的な表現も若干見せたのであった。第3楽章コーダの下降音型は、オクターヴ・グリッサンドではなく両手で弾いていたが、これは前回のチクルスのときと同じである。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-10445234515.html

 

アンコールはバッハ。フェルナーが片言の日本語で紹介しての演奏だった。フェルナーはトッパンでバッハをまとめて弾いたことがないので、次回あたりは彼が数多く録音しているバッハをぜひ聴いてみたいものである。

 

ところで。トッパンホール2階のカフェに休憩時間に上がったら、なんとカツ丼が売られているではないか!認知度が低かったせいか、ほとんど売れてなかったようであったが。確か800円だった。

 

総合評価:★★★★☆