東京・春・音楽祭 2022 東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.13《ローエングリン》(演奏会形式/字幕付)(1日目)を、東京文化会館大ホールにて。

 

指揮:マレク・ヤノフスキ

ローエングリン(テノール):ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー

エルザ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム

テルラムント(バス・バリトン):エギルス・シリンス

オルトルート(メゾ・ソプラノ):アンナ・マリア・キウリ

ハインリヒ王(バス):タレク・ナズミ

王の伝令(バリトン):リヴュー・ホレンダー

ブラバントの貴族:大槻孝志、髙梨英次郎、後藤春馬、狩野賢一

小姓:斉藤園子、藤井玲南、郷家暁子、小林紗季子

管弦楽:NHK交響楽団

合唱:東京オペラシンガーズ

合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩

音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

 

コロナ禍により2020年、2021年の東京春祭・ワーグナー・シリーズは中止となっていたが、2019年のさまよえるオランダ人公演以来、3年ぶりの開催となった。なんとも喜ばしい限りである。

 

やはり、日本人歌手や日本人指揮者主体のワーグナーとは断然違う!

 

無事に来日を果たした外国人歌手陣、私が名前を知っている歌手はシリンスとキウリしかいないが、総じてレベルが高く、さすが東京春音楽祭だと痛感する。

ローエングリン役はドイツ人歌手ヴォルフシュタイナー。第1幕の途中で登場した時ちょっと拍子抜けしてしまったのは、彼の見た目…ここ10年ぐらい、ローエングリンといえばクラウス・フロリアン・フォークトの輝かしい声とルックスでイメージが固定してしまっていたので、正直太めではげ上がったオジサンであるヴォルフシュタイナーが出て来た時、イメージとの落差に、えっ?と思ってしまったわけである。しかしその声は非常に伸びやかで温かみがあってとても心地よい。何ヶ所か声がかすれるところはあったのだが、それほど気にはならなかった。

健康上の理由で来日できなくなったマリータ・ソルベルグの代役のエルザはヨハンニ・フォン・オオストラム。極めてリリカルでクセが全くない声で、非常に気に入ってしまった。ワーグナー歌手の強靱さというのはないのだが、それがかえってエルザ役にはとても合っている。声もルックスも控えめに美しいというのがよい。ところでこの人、日本語表記だとヨハンニ・フォン・オオストラムとなっているが、ご本人のウェブサイトなどの綴りはJohanni van Oostrumとなっており、オランダ人の名前に多いvanという綴りになっている。

そして、テルラムント役のエギルス・シリンス。前回2018年東京・春・音楽祭におけるローエングリン(指揮はウルフ・シルマーだった)でもこの役を歌っているし、東京春祭ワーグナー・シリーズではおなじみの存在だ。2018年公演の自分のブログを見ると、譜面にしがみついているとか線が細いとかいう印象だったようなのだが、今回は実に堂々としていて、悪人としての部分と、元々名門の出である格調高さを兼ね備えた素晴らしい歌唱であった。今回登場した歌手のなかでもピカイチだったと言えよう。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12366154667.html

オルトルート役は直前にエレーナ・ツィトコーワが降板、昨年の新国立劇場「ドン・カルロ」でエボリ公女を演じたアンナ・マリア・キウリが代役となった。キウリの声、迫力満点であるが、声を張るところではやや声がつぶれがちであった。

ハインリヒ王ナズミも知らない名前だが、非常に丁寧で押し出しも強くなかなか見事であったし、伝令も普通に立派な歌唱だった。

 

オーケストラ、弦のサイズは14型。冒頭、第1幕への前奏曲では弦の音程などにややぎこちなさが見られたが、徐々に回復。83歳のマエストロは全曲を通した立ったままでの指揮、従来通り職人的できびきびとした運びで、テンポがだれることが全くないのはさすがである。うねるような音楽作りではなく比較的直線的に起伏を作るタイプの指揮者だ。登場、退場でもにこりともしないのがなんともドイツの職人気質の指揮者という感じでとてもよい。感動的な第2幕「エルザの大聖堂への入場」でも、ことさらにもったいぶることなく淡々と進めていく。そんな謹厳実直なマエストロだが、第3幕への前奏曲では、まだ拍手が終わらないうちに指揮台にさっと乗り、タクトを手に執る前に振り始めた。これはちょっと驚きだった。

コンサートマスターは白井圭氏。従来東京春祭ワーグナー・シリーズでのコンサートマスターは元ウィーン・フィルのライナー・キュッヒル氏だったのだが、白井氏もいつもに比べてかなりの牽引力を持っていたように思われた。

 

合唱は東京オペラシンガーズ、常設団体ではないし結局のところどういう歌手たちの集まりなのかわからないのだが、毎度のことながらハイレベルだ。

 

今回の自分の座席は1階前方ということもあって、歌手の声をダイレクトに浴びることができてとても幸せだった。しかし隣のじいさんがずっと手で拍子を取っていたのには辟易…

久しぶりのワーグナー・シリーズということもあり、平日17時開演であったがかなり客席が埋まっていたと思う。まん延防止措置明けにもかかわらずクロークもバーカウンターも休止、(すでにほとんど誰もしたがっていない)分散退場あり。幕間の休憩は30分ずつあったが、アルコールを飲める場所もなく、公園まで満開の桜を見に行った。

 

総合評価:★★★★☆