グスターボ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック来日公演によるマーラーの交響曲第9番ニ長調(サントリーホール)。

 

 

前々日に聴いた彼らのマーラーの1番「巨人」が違和感満載のアゴーギクで引いていたのであるが、それに比べるとこの9番はそうした変わったアゴーギクはかなり少なく、表現は極めて常識的である。

音は壮麗に鳴っており、音楽的な純度が高い演奏だったといえる。にもかかわらず全体として魂をゆさぶされるまでに至らなかったのは、ドゥダメル本来の楽天的な音楽性と、オーケストラの音色の明るさであろうか。

 

ドゥダメルの解釈は基本的に楽天的である。決して、それが悪いと言っているのではない。2015年来日時のマーラー6番「悲劇的」など、マーラーが曲に込めたメッセージ以上に、純粋に音楽として素晴らしく説得力があったからである。今回の9番も方向性は同じなのであるが、9番に過度なまでに強い思い入れがある自分としては、この曲の音の向こうにある陰の部分をもう少しくっきりと描き出して欲しかった。つまり、この曲についてはもう少し暗さが欲しいのだ。単なる一クラオタのぜいたくな要求なのであるが。

全曲が終わったのは20時35分過ぎだったから、開演時間から音が鳴り始めるまでに5分以上あったとしても、演奏時間は90分に近かったことになる。2012年に録音された彼らのマーラー9番のCD(DG479 0924)でもやはり、2枚組でトータルタイムは86分程度とかなり遅め。しかし決して遅く感じられる演奏ではない。

 

弦は15-14-13-10-10対向と、低音に重心を置いているにもかかわらず、その音は明るく開放的だ。それでも、第4楽章のクライマックスに至るまで弦が連綿と重なりあっていくところはかなりの緊迫感が感じられる。金管は輝かしいが、アメリカのオーケストラにしては威圧的になりすぎることがなく、適度なバランスを保っている。ホルンセクションのレベルが高いのはこの曲ではとても重要だろう。木管も含め全体として音は明るくて抜けが良く、同じ米国西海岸のオケでもヨーロッパ的な質感を持つサンフランシスコ響と比べるとだいぶイメージが違う。

 

第4楽章が終わった後の余韻が素晴らしく、1分ぐらいは続いたのではなかろうか?マーラー9番でもこれだけ長い静寂が続くことは少ないだろう。

終演後、ドゥダメルにソロ・カーテンコールあり。

 

技術点:★★★★☆

総合感銘度:★★★★☆