〈異才たちのピアニズム 3〉トーマス・ヘル(ピアノ)を、トッパンホールにて。

 

シューマン:クライスレリアーナ Op.16

アイヴズ:ピアノ・ソナタ第2番《マサチューセッツ州コンコード 1840~60年》

(アンコール)

コープランド:真夏の夜想曲

 

トーマス・ヘルはドイツの中堅ピアニスト。2016年に来日した際には、やはりトッパンホールで鮮烈なリゲティのエチュード全曲演奏、新日本フィル定期での矢代秋雄のピアノ協奏曲を聴かせてくれた。日本での知名度はさほどではないが、現代音楽を中心に評価の高いピアニストである。

 

さて、今回の目玉は後半に演奏されたアイヴズのピアノ・ソナタ第2番である。チャールズ・アイヴズ(1874〜1954)はアメリカの作曲家。といっても、彼は存命中、生命保険会社を経営して副社長を務めていた人物であり、作曲家としてはマーラーと同様、あくまでも「日曜作曲家」であってこれが本業ではない。

作品の数は多いとは言えないが、日本の演奏会で比較的プログラムに載ることが多いのは、管弦楽曲の「答えのない質問」ぐらいだろうか。

今回演奏されたピアノ・ソナタ第2番、実は2012年にやはりトッパンホールでピエール=ロラン・エマールにより演奏されていて、あれも壮絶な演奏だった…

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11411565587.html

今回、アイヴズの演奏に先立ち前半のシューマンが終わったところで、音楽学者野本由紀夫先生の通訳付きで解説がなされた。第2楽章で高域鍵盤をクラスターで押さえるための板(作曲者の指定で長さも決まっている)はヘルのお手製だとか。

それにしても、ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタを上回る、50分にも及び長大で、かつ強烈なソナタである。「人種のるつぼ」と言われるアメリカ社会を象徴するような、様々な要素がごった煮にされたかのような音楽。不協和音のなかに、突然マーチや俗謡が聞こえたかと思えば、突然混乱が止んで天国的な美しい音楽が流れる。このあたりは、マーラーの初期の交響曲にちょっと似たところがある。

ヘルの演奏はテクニック的には言うまでもなく完璧で、聖と俗のイメージの対比もなかなか見事である。

 

前半に演奏されたシューマンの「クライスレリアーナ」。こちらは、後半に比べると音色がやや単調に思われ、まずまずといったところか。

ちなみに、アイヴズのソナタ2番の前にクライスレリアーナが置かれた理由として、どちらも文学作品が題材になっているとのことを本人が解説していた。クライスレリアーナはE.T.A.ホフマンの小説のなかの楽長クライスラーから題名も取られているし、アイヴズのソナタはエマーソン、ホーソーン、オルコット、ソローといった作家が題材らしいが、無学な私はオルコットの若草物語すら読んだことがない…

 

総合評価:★★★☆☆