声を掛けてきた怪しすぎる女 |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

 時折霧雨の舞う夜9時頃のことだった。

 取材先から帰るための駅へ通じる道は、車は通るが、人けは少ない。その歩道を進んでいる時、向かいから二十歳ぐらいの白いワンピ姿の女が傘もささずに歩いてきた。

 

 

 そして、すれ違いざまに声を掛けるような仕草をしてきた。

「なに?」

 立ち止まって用件を聞こうとしたが、何か言いたそうで言えないでいる。ひょっとして日本語ができない中国人かと思った。それらしい顔つきだったし。だが、ようやく開いた口からは流暢な日本語が出てくる。しかし、そのひと言が

「横浜にはどう行けばいいですか?」

 ここは西武線が最寄り駅の練馬区の端っこ。女は駅方向から来たので道を間違えたのかと思った。

「まずは駅まで行かないと」

「初めての場所なんで分からないんです」

 霧雨の降るこんな時間に、傘もささずに、手ぶらで歩く女…。咄嗟にヤバイ女かと思った。

 

 

 しかも変なことを言ってくる。

「横浜まで歩いて行けますか?」

「徒歩で行けるわけがない。電車で行かないと無理だよ」

「15円しか持ってないんです」

 ますます怪しさが増した。

「まずは西武線に乗って、そこからJRに乗り換えてだから900円くらいかかるよ」

 だが、女はキョトンとしている。

「JR分かるよね?」

 分かってないみたいだった。

 

 このままではどうしようもないと思ったので駅まで連れて行くことにした。

「駅まで一緒に行ってあげるよ」

「ご親切にどうも」

「そばに交番があるから、そこでお金を借りるといいよ」

 そうして駅へ向かったのだが、女は突然立ち止まった。

「やっぱりいいです」

 交番に行くのがイヤだったのか、お金がないことを心配したのか?

 無理矢理連れて行くこともできたが、ここで拒否されて悲鳴でも上げられたら、が痴漢してるか拉致してるように思われてしまう。しかも、相手は普通ではない得体の知れない女。会話はできるが、少々頭が弱いのは確かなようだ。深く関わりたくないので、女が逆方向に歩き出すのを止めようとは思わなかった。むしろ、ホッとした自分がいた。

 だが、段々と良心の呵責に苛まれだした。このままでいいはずがないと。駅に着くと交番に飛び込み、すぐに事情を説明し女を保護するように頼んだ。

 

 時間が少し経っていたし、女がどこをどう歩いているのか分からないので、無事見つけだすことができたのかどうか

 

 それにしてもあの女、何しにこの地へ来たのだ? どうやって来たのだ? 横浜は家なのか? 他にも人はいたのになぜに声を掛けた? 今どき手持ち15円なんてあり得ないだろ?謎が多すぎる。

 心配させやがって……どうにも後味の悪い帰り道になった……。

 

 困っている人は助けてあげたいというのが基本的な考えなのだが、こういうイレギュラーな事態に遭うと臨機応変に振る舞えない自分がイヤになる。この日は寝るまでアドリブ対応ができなかった弱さに自己嫌悪した。

 

 この話を知人らにしたところ、女は確信犯なのではないかという推測をする者もいた。話がおかしすぎるからだ。頭の悪いふりをして、本当は別の目的があったのではないかと。

 例えば、から同情心を引き出して金を無心しようとしたのではないか? 男のスケベ心を利用して売春を誘っていたのではないか?等々。ところが予想外に交番に連れて行かれそうになったので慌てて逃げたのだろうと。

 

 

 考えてみれば当てはまらないこともない。確かに矛盾が多くて怪しすぎる。それが事実ならの気持ちも少しは救われるし。

 どのみちデリケートなにはモヤモヤしか残らなかった。

 

[編集後記]

 自分のためにもせめて確信犯説であることを願う。