法医学的見地から見る心霊現象・3 |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
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分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

「火葬されながら蘇る首なし死者」

 

 火葬直前に死んだと思われた人間が息を吹き返す、あるいは悪人の罠にはまり生きたまま火葬される人……映画や小説のホラーサスペンスにありそうなシーンだ。実際に、昔は火葬の最中に死体が起き上がるという現象があったそうだ。それを見た者は誰もがこう思った。炎の暑さで死者が蘇生し、もがき苦しんだ挙句に蓋を押しのけて起き上がってきたのだと……。それが真相だとしたらこれほど怖い話はない。

 

 

 平成8年のこと。ある田舎町で一人の女の首なし焼死体が発見された。身元を隠すために首を切断したのだろうが、だったらなぜ焼く必要まであったのか。一見すると残虐なように思えるが、バラバラ殺人としては中途半端な感じだった。

 犯人の男はほどなく逮捕されたのだが、その際、酷く憔悴しきっていて、いつも何かに怯えている様子だったという。

 

 男の証言を抜粋する。

「俺は彼女と付き合っていた。結婚を約束して借金をしてたんだけど、端から返すつもりはなかった。それを知った彼女は逆上して俺を包丁で刺そうとしたんだ。だから俺は奪い取って逆に刺し殺してしまった」

 男に自首する意思はなかった。そこで死体をどう処分するか迷い、山中で焼いて身元を分からなくしようと考えたのである。

「リヤカーで運んで、死体に油をかけたあと新聞紙や木に火をつけて燃やしたんだ。でも、なかなか骨にならないし、そのうち彼女が動き出して……」

 

 

 顔の皮膚が焼きただれ、ものすごい表情になっていく女。瞼がなくなり大きな眼球が剥き出しになると、それだけで恐怖の絵面になる。しかも、その目は男を凝視している。

 さらに、女の体は少しずつ丸まるように内側に動いていくではないか。まるで、熱さにもがいているように……。体は死んで動かなくなっていても、脳はまだ生きていたのかもしれない。それが、熱さから逃れたい、熱さに耐えられないという思いが神経を伝って体を動かしているのではないか。それはまさに生きたまま焼き殺されるのと同じ……。

「そのうち両腕も曲がり始め、拳も握られ、まるで俺に殴りかからんばかりの形になっていた。剥き出しの眼球が、苦しい苦しいと訴えるのが分かった。このままでは死体が起き上がって俺は殺される。だから、急いでノコギリで首を切り落としたんだ」

 男は首だけを持ち帰り、焼けた胴体はそのままにして逃げ帰ったという。

 

 そして、そこから男の悪夢が始まった。自分を睨む剥き出しの眼球が脳裏から離れないのである。握られた拳が自分めがけて振り落とされる幻影にも悩まされた。

 最後に見た女の姿は見覚えのある形をしていなかった。真っ黒く炭化した首なしの物体だ。その姿もまぶたに焼き付いてしまい、まったく寝ることができなくなってしまった。だから、捕まったときは半ばノイローゼ状態になっていたのである。

「彼女は生きていた。焼かれた熱さで意識を取り戻したに違いない。そして、動かない体を必死に動かそうとしてたんだ。俺は彼女を二度殺してしまった。いや、首を切り落としたことで三度も殺してしまった。だから、俺の頭の中に取り憑いていつまでも離れないんだ!」

 

 

 焼かれた死体が突然動き出したのは、熱さで微かに意識が目覚めたからだろうか? それとも恨みで死者が本当に蘇ったのだろうか? 答えはノーである。

 実際は、筋肉が収縮して関節が屈曲したというのが真相だ。

 男は、焼けばすぐに骨になるだろうと安直に考えていた。だが、骨になるまで焼き尽くす火葬場の焼却力と、焚き火程度の火力では比較にならない。そのため筋肉は黒色炭化状として残り、熱による筋肉の凝固で各関節が屈曲したのである。腰が曲がったのも、腕が上がって拳を作って殴りかかろうとする仕草になったのもそのためだったのである。このようにボクサーのファイティングポーズみたいになるのは焼死体特有の固まり方らしい。

 男はそんなこととも知らずに、ずっと彼女の祟りだと思い込んでいる。そしてそのまま廃人同様になったというが、それこそが祟りだったのかもしれない。