心根が優しい大人の発達障害 ~ 国の主導で救われる ~ |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
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分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

【見渡せば必ずいる発達障害と思しき大人】

 変わった子どもというのはいつの時代でもいる。保育園に勤務していると、それがなおさら目につく。若い保育士は、それが個性であり、面倒な子どもとしか映らない。だが、長年多くの子どもを見てきた者からすれば、それが個性なのか、発達が少々遅いだけなのか、それとも発達障害の兆候なのかがわかる。

 

 私も若い頃はわからなかった。小学生の頃から、クラスには必ず変な子がいたが、たいてい虐められるか嫌われるかしていた。高校~大学くらいになると、その手の人物は周囲から、「要領が悪い」「知能指数が足りない」「気弱」「虐められっ子」「精神障害者」などと陰口を叩かれていた。友だちとして避けられることはなかったが、下に見られていたことは確かだった。でも、それはまだ発達障害という言葉が社会に浸透していなかった時代の話。

 

 そのため、当時は意識していなかったが、よく思い出してみると身近に発達障害と思われる者が4人もいた。当時は変わった奴だとしか思っておらず、友だちとして普通に付き合っていた。避ける必要がなかったのは、彼らが皆ひとつの共通点を持っていたからだ。

 それは「心根の優しさ」だった。

 

 

【私の身近にいた4人の事例】

<事例:A氏の場合>

 大阪出身のA氏とは沖縄の派遣先で出会った。私より年上なのに腰が低く敬語で話してくる。髪が薄いため、実年齢よりさらに老けて見える。仕事ぶりはとても真面目で、知識があり言動もまとも、性格も温和で好感が持てる人だった。

 だが、本人の過去の話を聞いてみると壮絶な人生だったことに驚かされた。10代の時は滅茶苦茶な虐めに遭っていたのだ。聞いた中のひとつには、自転車を電柱に鎖でぐるぐる巻きにされたというのがあった。そんな漫画みたいなことを実際にされていたのである。そのため精神を病んでしまい、1年留年したという。さらに、その留年を理由に虐めはエスカレートしていった。少しオドオドした感じなのはそのためだったらしい。社会人になってからは、虐めはないものの薄給の会社で細々と仕事を続けていたという。

 沖縄での仕事が終わり、私は東京へ、A氏は大阪へと戻った。大阪の実家では年老いた母親と二人暮らしをしている。A氏には弟がいて、すでに結婚し事業が成功して社長というご身分だ。だが、性格が悪く、母親の面倒はA氏に任せっきり。生活費だけを渡しているらしい。A氏はその金で今でも母親の面倒を見ている。

 そのA氏から「運気変えたい」と頼まれたので、関西で評判の霊能力者を紹介した。とても人柄のいい人なのだが、その人から「しつこいし、何を言っても理解してくれないし、まるでストーカーみたいに電話が来て困っている」と私にクレームが来てしまった。

 沖縄時代は、病気で寝込んだ同僚に毎日お見舞いに行ったり、困った人がいれば必ず助けてくれるような優しい人だったのだが……地元に帰ってからは悪い評判しか聞かなくなってしまった。

 もう還暦過ぎだと思うのだが、出会った頃に比べると言動がおかしくなっているような気がする。

 

 

<事例:B氏の場合>

 B氏は以前『詐欺被害のカモにされる大人の発達障害』で紹介した、詐欺被害継続中の50代無職男性。今どき珍しい中卒ではあるが、趣味のプロレスを通じてずっと付き合ってきた。その頃から変った奴だとは思っていたが、度胸の良さには一目置いていた。とにかく臆せずどこへでも飛び込んでいけるし、初対面の誰とでも話しかけることができるのである。就職すれば、怖いもの知らずの営業マンになれると思った。その時は……。

 だが、辛うじて知性はあるものの教養がない。中卒なのは家が貧しかったからではなく、ただ単に勉強が嫌いだったためだ。だから、会話が単調で面白くないし、ニュースを見ないから時事ネタもできない。話す時は自分から一方的で、人の話は聞かない。

 度胸があると思ったが、それは単に図々しく、馴れ馴れしく、空気が読めず、遠慮を知らず、自己中心的だったからだ。

 自分では友達が多いと思っているが、大人になるにつれどんどん離れていっている。中には「キチガイとは関わりたくない」とハッキリ言う者もいた。

 B氏がどうなっているかが気になり久しぶりに連絡を取ってみた。相変わらず詐欺被害のカモにされ続けており、会えるはずのない偽アイドルにお金を振り込み続けている。「まだ騙されていることが分からないのか! いい加減に気づけ!」と説教したところ、「あなたこそなぜ分かってくれないんですか!」と逆に居直られてしまった。人間の女性に好かれない彼は、偽アイドルだけにはモテていると信じ込んでいる。

 大人になってますますおかしくなっているように感じる。

 以前は、働かずに親の遺族年金を食いつぶしていたが、今は生活保護を受けているという。母親は介護施設に入った。B氏一人では介護ができないからだ。その母親の元へは毎日面会に行っているという。母親にとってB氏は唯一の肉親であるため、それが嬉しくてたまらないそうだ。

 母親思いのところはある。だが、生活保護のお金を詐欺師に渡し続けるところは救いようがない。

 

 

<事例:C氏の場合>

 C氏とは関東の各大学生が集う同人誌サークルで知り合った。いつもニコニコしていて愛嬌があったが、初めて会った時から違和感があった。「本当にこいつは大学生か?」と。実はバカなのである。英語の話をしていて、中学レベルの英会話しかできなかったからだ。当時は「裏口入学か?」とみんなでからかっていたが、卒業間際には実際そうらしいということも判明した。

 高校までは虐めに遭っていたらしい。愛嬌の良さは、虐められないために身につけた防御策だったという。おかげで大学時代を始め就職してからも、バカにされつつも無難に人生を送っている。しかも結婚できて子供もいる。

 愛嬌の他の長所は、誰にでも優しく親切にできるところ。そして何よりも度胸があるので臆せずどこへでも飛び込める。そこはB氏とそっくりだ。そのため離職率の高いカーディーラーという仕事を長年続けることができた。車が好きなこともあり、その知識も豊富だったこともあって、過酷な車販売でも頑張れたのである。

 面白い奴だけど怖いなと思った面もある。変態だったのだ。同人誌サークルで、関東の大学のトイレの落書きを調査するという企画があった。トイレに落書きをするというのは当たり前の時代で、それが大学の学力レベルによって内容はどう違うのかを調べたのである。東大、早稲田、青学といった一流どころの国立私立から、二流三流といわれるところまで調べまくった。

 ひとつ問題があったのは、この企画の参加者は男子だけで女子には反発を喰らって協力してもらえなかったこと。そのため女子トイレの状態を把握することができなかったのである。かと言って男子が女子トイレに入るわけにはいかない。ところがC氏は女子トイレに誰もいないことを見計らって一人で入っていったのである。果たしてこれを度胸と言っていいのか、ただの変態行為と言っていいのかわからないが……。シモ系の引くような行為が多かったことを考えれば変態の気があったのかもしれない。

 現状のC氏はロリコンになりつつあるようで、住民からの通報で警察から不審者としてマークされている。奥さんも気持ち悪がって別居している状態だ。

 そんなC氏も今は母親の介護をしっかりやっている。元々誰にでも優しいお人好しだったが、母親に対しては人一倍優しいし、薄給生活の中で介護を頑張っている。

 それにしても途中から犯罪性のあるロリコンになるとは、大人になってから変態性欲が強まるとは思わなかった。

 

 

<事例:D氏の場合>

 後輩編集者のD氏とは、お互い若い頃に何度か仕事をしたことがある。驚くことに、以前紹介した『発達障害を口実に仕事を怠ける者』の30代の青年と言動がまったく同じだった。

 初めは礼儀正しく社交性もあり好青年の印象を受けた。勉強はできないのだが、驚くほど記憶力がいいのには恐れ入った。好奇心が旺盛で、感性も豊かで、手先も器用。お婆ちゃんっ子で、小さい頃から車椅子の祖母の介護を手伝う優しさがある。人から頼まれるとイヤとは言わず何でも協力的な姿勢を取る。困った人を見ると助けてあげたくなる。

 これだけ見ると普通の若者、むしろ好青年なのだが、友達付き合いが下手で、仕事が長続きしない。コミュニケーション能力に欠けているのだ。本人は自分の力を発揮して仕事を頑張りたいという意思があり、明るい性格なので多くの友達と仲良くなって遊びたいという希望がある。だが、それとは裏腹に友達や上司から嫌われる。

 自己保身が強すぎるのだ。何か失敗しても報告せずにバレるまで黙っている。自分を守るために咄嗟に嘘をつく。バレるような白々しい嘘でも平気で口から出るのだ。失敗をしらばっくれたり、ごまかそうとする。そのためには偽装工作も平気でする。そんなことをすれば上司から嫌われるのは当たり前だ。(※ここのところが前述の30歳の若者と瓜二つ。後述する内容もまったく同じ)。そもそも報連相ができないので組織にはそぐわないタイプだ。

 友達ができても長続きしないのは、人の気持ちを考えずに喋るため。そのためトラブルを起こしては嫌われる。人の輪に入りたいのに受け入れてもらえない。

 それでいて、何も知らない第三者には「上司はパワハラで俺を無視する」と会社や上司を批判する。「あいつは急に怒り出す変な奴だ」と別れた友達を非難する。普段から温和で礼儀正しいD氏が言うので、知らない人は「酷い上司だ、友達だ」と同情する。私も同情したことがある。

 だが、よくよくはD氏の言動に問題があったのだ。自分を守るために都合のいいことしか言わないのである。

 もう長く会っていないがいい年になっているはず。人づてに現況を聞いたところ、人間づきあいの薄い配送区分け現場で黙々と働いているという。ただ、友達から借りた金を返さずにトラブルを起こしたり、大好きだったお婆ちゃんの預金を勝手に使いこんだり、働いた金はすべて使いこむなどして、この先のことを考えないだらしない生活を送っているという。今をだらだら生きるだけで、先のことを考えられない性格になっているらしいのだ。

 まだ、若い頃の方が更生の兆しが見えていたように思う。まさか、働き盛りの年を迎える頃に悪化しているとは思わなかった。

 

【彼らにはいくつかの共通点がある】

Ⅰ:4人とも年齢を重ねるにつけ悪化している。若い時の方が接しやすい。

Ⅱ:4人とも優しくてお人好し。虐められやすくバカにされやすい。騙されやすい。人の喜ぶことをやる。

Ⅲ:ABC氏は母親想いで積極的に介護をする。D氏は祖母想いなので、女の肉親には優しい。

Ⅳ:それぞれの個性の中に特技や才能がある。

Ⅴ:4人とも自分が発達障害であるという自覚がない。認める認めない以前に自覚がない。

 

― Ⅰについて ー

 子どもの発達障害は周囲がなんとかケアしてくれる。だが、大人の発達障害はあとで気づいたことなので手遅れに近い。現在、これで悩んでいる中高年以上の大人は多いのではないだろうか? おそらく自分が発達障害であることすら知らない者もいると思われる。

 子どもにだけスポットを当てるのはおかしい。子どものうちに対処すれば必ず良くなるという保証もない。しかも、例に挙げた4人は、加齢とともに社会不適合者として加速している。

 そういう苦しんでいる人たちに何か救いの手を差し伸べてやって欲しい。大人の発達障害にも焦点を当てて欲しい。国がそういう動きをするべきだ。

 

 

― Ⅱについて ―

 優しさは大いなる長所。優しさは人として必要不可欠なもの。もっとも大切なものと考える。4人とも純粋な優しさを持っているのに、それを理解されていない。逆に、純粋な上に利用されたり、バカにされたり、虐められるなどの不遇を味わっている。なぜ心のきれいな人間がそんな目に遭わなければならないのか? その純粋な心を活かす場があれば、彼らは今の闇から抜け出すことができるはずだ。

 4人とも人の喜ぶことや役に立つことがあれば、快く引き受けて喜んでやる。そんな善人を小バカにするなど許せるはずがない。

 

 

― Ⅲについて ―

 優しいからこそ、自分を犠牲にしてでも母親を大切に思い続けている。ただ、それが自分で親孝行と思っているのかどうかは分からない。本当の親孝行とは、普通に職に就き、結婚して家庭を持ち幸せになることなのだが……。

 老親の世話や介護を口実に、実はただ肉親に依存しているだけではないかという考えもある。確かにそういう部分もあり得るだろう。生き方が不器用というか、生きていく術を知らなさすぎることが、美談として形骸化している部分は否めない。それでも肉親を思う優しさが不変であることに間違いはない。

 

 

― Ⅳについて ―

 発達障害を持つ者は何か秀でたものがあるというが、確かにそれはある。A氏は字がとてつもなく上手い。喋りが鬱陶しいと思われるのなら、その綺麗な字を活かせる仕事に就けばいい。B氏には頑丈な体と度胸がある。詐欺に遭わなくなるだけの知性と教養を身につければ肉体対労働者として生活ができる。C氏の誰に対しても優しい精神は奉仕に向いている。本人は気づいていないが。どこにでも行ける度胸は営業向きではあるが、何よりも本人の力を発揮できるのは介護の世界だ。D氏の記憶力はどこかで活かせるはず。記憶力が良いということはバカではないということ。感性が豊かなので俳優的な仕事も向いているかもしれない。若い頃の編集者時代の文章を見せてもらった時には感性や表現の鋭さを感じた。手先の器用さは物づくり職人に向いているし、動画クリエイターとしての才能もある。

 

 そういう才能を発揮すれば、彼らは発達障害という壁を乗り越えられるはず。才能を活かせる職に就ければ、普通の人として生活できるはずだ。ところが、活用する場所を見つけ出せずにいる。どうしたらいいのか分からずにもがいている。だからこそ国が手を差し伸べるべきではないのか。

 発達障害の特徴などが多く紹介されているが、そういうのはどうでもいい。救済方法を考え対策を講じるべきだ。今はLGBTが社会問題として大きく注目され援護されている。だが、それ以上に理解が大切なのは発達障害だと思う。その論議をもっと行い積極的に対策を講じて欲しい。

 

 

― Ⅴについて ―

 LGBTの人達と違い、発達障害の人達は自覚がないので声を上げることを知らない。それならば、理解している周囲の人達がサポートするしかない。今はまだ個人レベルで本人に助言することしかできないが、それでは弱すぎる。今の日本はLGBT、男女間差別の是正、セクハラ・パワハラ問題、配偶者からのDVなど様々な問題を抱えているが、それに発達障害も加えて、もっと大きな社会問題として提議をし取り組んでいかなければならない。

 

【もっと注目しサポートするべき】

 本人が持つ優しさや特技を活かしてやれば、自分で幸せをつかむこともできるはず。しかし、どうすればいいのか分からずにいる。もう大人だからと言って見放すべきではない。むしろ大人も救うべきである。放っておいたらますます彼らの居場所がなくなってしまう。

 すべての発達障害を抱えている人が改善されるとは限らない。様々なタイプがいるし強弱もある。ここに至っては4例しかないし、その中においてもB氏などはかなり難しいと思われるからだ。だが、ACD氏は改善の見込みがある。機会さえ与えられればきっと社会に適応できると信じている。身近で接してきたからこそ確信できる。だからこそ改善できる機会(=サポート)を国から与えて欲しいのだ。

 カウンセリング治療は期待できない。心療内科に行っても薬漬けにされるだけだ。それよりも国が主体となって具体的な取り組みを行い実践すべきである。

 

[編集後記]

 本当は心根の優しい人柄なのに、誤解され、社会不適合者の烙印を押されるのは耐え難い。