以前、中小の化粧品メーカーA社で、広報の紙媒体の編集に携わっていたことがある。
そのメーカーでは、全国のエステサロンや美容室に自社が開発した化粧品を卸しており、それらの店舗と代理店契約を結び業績は安定していた。商品はなかなか良い物であり、代理店にもユーザーにも好評だった。しかし、そうでありながら会社はなかなか急成長しないし、商品の知名度も上がらない。それはなぜなのか?
今までA社だけでなく、他の化粧品会社や健康食品、自然食品を扱う中小のメーカーに携わってきたが、そこには中小特有の共通した問題点があった。
【成長しない会社のオーナーは自分を客観視できない】
一代で会社を築いた人ほど、昔ながらの叩き上げの商売人であり、自らがトップセールスマンという自覚と自信を持っている。自分の言うこと、やることは絶対で、社員は自分の手足になって動けば間違いはないと思っている。それで大きく成長できた会社は結果が出せたので問題はない。
しかし、組織をまとめることができず、自分を神だと思っている独善的なオーナーは問題がある。商品の良さだけが絶対であると信じ、営業が良ければ会社はでかくなると思っている。社員を見下し、信用していない。社員の提案を聞き入れない。そのため社員は社員で、皆イエスマンと化して会社のことよりも自分の立場だけを考えるようになる。
特に家族経営の会社にこのような傾向が共通して多く見られた。もう一つ共通しているのがケチ。自分や家族には贅沢をさせるが、社員や代理店に対してはケチで、恩着せがましいことを言う。今まで数社の中小に携わってきたが、皆同じような体質だった。
【離職率が高い会社のオーナーは裸の王様】
独善的なオーナーは離職率の高さを問題としていない。次から次と社員が辞めていく会社は完全なブラックなのだが、オーナーにはその自覚がない。「辞めていくのは社員が無能だからだ」とか「無駄な給料を払わずに済んだ」などと言い、辞めた人間が負け犬だと決めつける。自分や会社に非があることを理解していないのだ。
私から見れば、辞めた人間は優れた才能を持った人が多くダメ社員はほとんどいなかった。むしろ、辞めた人間は先見の明があったといえる。半ばノイローゼになって辞めた人も多くおり、社員を大切にできない会社が伸びるはずがない。
B社の代理店からは「社員が頻繁に変わるので戸惑う」「引継ぎが上手くいっていないので困る」「とても対応の良い人が辞めたので会社が信用できない」という声が聞かれた。ただし、これらの意見は外部スタッフである私には愚痴ることができても、オーナーには誰も進言しない。だから、オーナーは辞めた側の社員が悪いのであって、自分や会社の体質に問題はないと思い込んだままだ。これでは離職率はますます高まるばかり。
【コンサルタントの利用の仕方が下手】
社員を信じていないので、外部のコンサルティング会社を頼りがち。それはそれで良いのだが、我が強すぎてアドバイスを素直に受け入れない。口出しが多く自分の注文を強引に入れたりすることで、せっかくの真っ当なアドバイスも中途半端なものになってしまう。それで結果が出ないとコンサルタントが悪いと責任転嫁し、次のコンサルティング会社を探すということを繰り返す。
また、そういうオーナーほど口の上手いコンサルタントにコロッと騙される。全てのコンサルティング会社が優れているわけではなく、なかには理想だけを述べるインチキコンサルもいた。儲かる理想だけを植え付けられ、高い契約料だけをむしり取られる有様。自分が悪いにも関わらず、ここでも責任転嫁。これでは会社が良くなるはずがない。
【広報の重要さを微塵も分かっていない】
商品さえ良ければ宣伝に力を入れなくても売れる!と考えているオーナーは広報戦略を軽視しがちだ。
実際、関わってみて驚いた。パンフレットやリーフレットのデザインはプロが作ったものではないと分かるレベルの下手くそさで、文章も当たり障りのない内容で、キャッチも適当につけただけのもの。文章表現もプロが書いたものではないというのが一目で分かるし、何よりも薬機法や景品表示法にも抵触している。今までは中小ゆえに薬務課からのお咎めをたまたま免れていたに過ぎなかったのである。
そんな低レベルの物であるということが理解できずに発行してしまうところが何とも恐ろしい。安っぽいということが理解できないのだ。その安っぽさが会社のイメージをダウンさせているということに気づかないのである。
これこそ広報を重視しない家族経営会社のあるあるだ。それが会社の発展を妨げていることにも気づかず、「なぜ良い商品なのにもっと売れないのだろう」と口走っている。そんなことだから、いつまで経っても中小の域から脱することができないのだ。
【代理店から嘲笑されてもその屈辱に気づかない】
A社では、代理店向けに毎月連絡事項を記した発行物を出していたが、明らかに素人の事務のおばちゃんが作ったと分かるものだった。A4のコピー用紙に文章だけを書き綴った内容で、昭和の小学校の手作り壁新聞のようだった。
誰も読む気がしないし、読んだとしても伝わらない内容。文字校正をしていないので誤字脱字も酷くメーカー発行物としては恥ずかしい限り。ただ形式的に発行しているだけの無駄紙に過ぎなかった。
そのため、代理店は商品の良さでメーカーと取引をしているが、メーカーを尊敬していないし信じてもいない。中には絶対的権力者であるオーナーに対して、「はいはい」とこびへつらいながら内心はバカにしていた。代理店にとっては自分の店の売り上げが伸びればいいだけのことだから、あえてメーカの無知な部分など指摘しない。このような関係だから会社はいつまで経っても伸びないのだ。
【問題点を改めればいくらでも立て直せる】
自社の欠点を認めない、気づかない、虫のいい話にだけ飛びつく、社員を大切にしない、広報を軽んじる…伸びない理由は明確だ。理由が分かれば解決策はある。そこで私は自分のできる仕事に着手した。
●ユーザー目線でパンフレットをリニューアル
私は編集ライターの立場から、紙媒体のレベルアップに努めた。全ての発行物の誤字脱字を修正し、薬機法や景品表示法をギリギリの線でかわした代替表現に改めた。
商業誌をしてきた経験から、キャッチや文章をメーカー目線からユーザー目線に変えた。デザインも見た目の重要さを取り入れた。
こうして大きくリニューアルしたことで、商品の価値はますます高まることとなった。「商品さえ良ければ」ではないのだ。それを引き立たせるものも大切なのだ。
●代理店との繋がりを強化するため機関誌を発行
そして、機関誌を利用した代理店との関係も重要視した。それまでメーカーからの一方的な連絡だったものを、代理店自身も関わる内容に変更した。それにはA4ペラ1枚では足りないので、小冊子に形を変えた。
メーカーの活動を詳細かつ明確に報告することで、代理店との関係に透明性を持たせ繋がりを強化させることができた。これによりメーカーへの信頼ができ、尊敬と誇りを持たせることができ、陰で小バカにされることもなくなった。
●商品知識を深める内容
新商品の紹介発表、商品の特徴を述べた特集記事の掲載、商品の使い方の説明、商品の主要成分の分かりやすい解説、薬機法の解説…それらをイラストや図、時には漫画も交えながら展開していくことで、ますます商品への信頼と愛着そして理解を深めさせることができた。
●飛躍のヒントとなる記事
そして、代理店の人々を誌面に登場させることで、機関誌を身近な存在なものとした。全国で活躍している人の紹介、成功事例の紹介、売上アップの秘訣、商品の変わった使い方・有効な使い方など、個々の代理店でのサクセスストーリーを掲載。これにより売り上げが頭打ちだったサロンや美容室には飛躍のヒントになり、代理店同士にも繋がりができコミュニケーションの輪が広がっていった。
●結果
代理店からは、このような媒体を作ってくれてありがとうと感謝されたものだ。
その後、会社の業績は右肩上がりとなり、媒体がこれに一翼を担っていると自負している。しかし、オーナーは商品が良いからだと相変わらず認めない。
それでも、こちらとしては使命を果たせたことで満足しているからいいけどね。
中小の会社が伸びないのにはそれなりの原因がある。広報戦術だけが全てではなく、ありとあらゆる戦術を駆使すれば売り上げはアップする。私はたまたま編集ライターだったので、紙媒体を使い業績アップに貢献できただけのこと。
中小のメーカーからは本当に良いものが出ていることがある。しかし、先の理由で多くの人の目に留まることがない。それがとても残念でならない。
[編集後記]
機関誌の取材で全国のエステサロンや美容室を訪ねた。売上が伸びた店からはなるほどと思える成功事例を聞けた。伸び悩んでいる店にはそれなりの理由があった。しかし、それらもちょっとしたことで解決ができる。小さな個人店舗ほどやりやすかったりする。次回はそんなサロンの改善例を紹介する。