2012年9月14日、自民党総裁選の告示が行われた。
その日の私は、文部科学省の関係機関に所属する研究員と銀座で打ち合わせをしていた。そして、仕事を終え、一緒に駅まで歩いている時だった。目の前にスッとカメラを持ったテレビクルーが現れたのである。
内容は自民党総裁選についてのアンケートだった。いわゆる街頭インタビューだ。渋谷ではよく見かけるが、あそこは若者しか相手にしないから、ネクタイ姿の私なんか見向きもされない。しかし、銀座は違う。やはり大人がターゲットにされるし、政治の話を聞くなら銀座か新橋と決まっている。
でもって、やっと私も声を掛けられたかと嬉しくなり、内容の好き嫌いは別にして答えてやることにした。上から目線なのは、どうせ採用されないことが分かっていたからだ。
なぜなら、どの番組を見ても100人近くにアンケートを取って、オンエアされるのは3~5人だ。よほどまともな意見か、変わったことを言わない限り採用されはしない。
また、いつもインタビューしている側の自分だから、たまにはされてみるのもいいかなという思いもあり、テレビに映る映らないは期待せず答えてあげようなどと、偉そうに思ったのである。
最初の質問は「自民党の総裁選に関心がありますか?」というものだった。本当は関心がなかったが、「ないことはない」と適当に答えた。でも、ここが肝心だった。もし、ここで正直に「ない」と答えたら、そこでアンケートは終わりだったからである。
一応「ある」と見なされて、質問は次の段階に行った。
「誰が総裁にふさわしいと思いますか?」そう言いながら、候補者5人の顔写真が載ったパネルが差し出された。そこには既にアンケートに答えた人達が赤丸シールを貼っていた。
一緒にいた研究員は石破氏を選んだが、私は安倍氏を選んだ。理由を聞かれて、「同郷だから」とマヌケなことを言ってしまった。元々アドリブに弱いので、急な質問には頭が回らないのだ。
しかし、文部科学省の研究員は冷静にまっとうな支持内容を述べていた。このままでは私がアホに見えるので、すぐにもっともらしい意見を述べ直して、なんとか体制を立て直すことができた。
その次の質問は「政策に期待することは何か?」ということだった。正直、特にはなかったが、研究員が「軍事オタクの石破さんに竹島問題の進展を期待したい」と述べたものだから、私も「外交が得意な安倍さんに、諸外国に対して強気な姿勢で臨んでもらいたい」と、心にもないことを口にしてしまった。
アンケートはこれで終了。ちなみに、私たちが赤丸シールを貼った時、トップは石破氏がダントツだった。石原氏は今ひとつ伸び悩み。安倍・町村・林の3氏は3票しかなかった。
オンエアされることは期待していなかったので、何の番組かは聞かなかった。ただ、カメラにTBSのマークが見えたので、今回のアンケート結果が流されるとしたら、その日のうちの『NEWS23』か、翌朝の『朝ズバッ!』か、翌夕方の『Nスタ』だろうと予測した。なので、アンケートの最終結果も気になったので、3番組とも留守録にしておいた。
結果、流されたのは『朝ズバッ!』の方だった。100人にアンケートを取って、最終的には石原氏が50票以上を集めて逆転トップになっていた。2位は石破氏で36票。安倍・町村・林は2桁もいかなかった。
そして、肝心の私と研究員だが…オンエアされていた。
100人のうち5人の意見が採用されていたのだが、二人ともその中に選ばれていた。初めての街頭インタビューで、ちゃっかり採用されてしまったのだ。さすがに「同郷だから」という支持内容はカットされていたが…。言い直して良かった。
あとで、この話を仲間にしたところ、100人の中の5人に選ばれるなんて凄いと言われた。私からしてみれば、後の95人はよほど大したことを言っていなかったのか、テレビ向けの顔ではなかったのではないかと思っている。
でも、よくよく考えてみたら、一人の候補者に対して一人の支持者が、支持する理由を述べていた。つまり私は安倍氏を支持した6人の中から選ばれただけなのだ。つまり採用確率は6分の1だったわけだ。対して研究員は36人の中から選ばれたのだから、私とは質が違う…。さすが文部科学省の関係者…。
でも、まぁ~、いいか。元々テレビに映るのが大好きだから。それにしても、自分の意見がしっかり流れるほどに映ったのは『アンビリバボー』に出演して以来だった。基本、出たがりだから、また何かに出たいな。
[編集後記]
「安倍さんを支持する理由ですか? あの人は一度挫折を味わってるじゃないですか。そんな恥を晒しておいて、今回わざわざ出てこようってのはよほどの覚悟があると思うんですよ。もう二度目はない。だからこそ、そんな安倍さんの覚悟に“何かをしてくれるんじゃないか”とリベンジを期待してます」…これがオンエアされた言い直しの内容でした。