予選で落ちても恥ではない |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

 一般人を取材することが多くある。そのなかで、テレビに関わることを体験している人が少なからずいるのだと気づかされる。

 

<CASE・1>

 北海道の田舎町で取材したTさん(推定60代)。昼は精力的に働く衣料店の専務であり、夜は白髪の混じったバンド仲間と遅くまで演奏に明け暮れていた。

 

 このTさん、学生時代からバンドをやっていて、70年代から80年代にかけて大流行した『ポプコン』(ヤマハポピュラーソングコンテスト)の予選に出たそうだ。その時の北海道予選には中島みゆきがいたという。

 出場者はステージで必ずインタビューを受けるそうだが、Tさんのバンドやその他の出場者は当たり障りのない簡単な質問だったらしい。しかし、中島みゆきだけはインタビューが長く、質問内容も別格だった。

 

 その時は「なぜこの人だけ特別なんだろう?」と疑問に思ったそうだが、あれよあれよと予選を勝ち抜き、本選でグランプリを獲ったのを見て、ポプコンは出来レースなんだと分かり失望したそうだ。若いミュージシャンにとっては憧れのコンテストだっただけに、ショックはひときわ大きかったという。

 インタビュー内容が他の出場者と同じ程度なら、バレなかっただろうに…。

<CASE・2>

日曜の昼にオンエアされている『NHKのど自慢』。 素人の歌を聴いても仕方ないと思い、まともに観たことは一度もない。 NHKはプロの歌手でさえ歌唱力の審査があるというのに、いくら素人とはいえ、なぜ上手くもない人の歌を公共の電波で流すのか、なぜ歌わせるのかがいつも不思議だった。

 

そんなある日、取材した男性美容師の中に『NHKのど自慢』に応募したものの落ちてしまったという人と知り合った。 予選で落ちるなんて、よほど下手くそなんだなと思った。 そして、取材後に意気投合して一緒にカラオケに行ったのだが…

「この人、めちゃくちゃ上手い! 」

腹の底から出る確かな歌唱力だった。 何曲歌ってもその上手さは変わらない。 私もそこそこ自信のある方だが、この人には絶対かなわないと自覚した。

そして分かった。 落ちた理由は、美容師が“プロ級に近い歌唱力のせい”だったのだと…。

 

恐らく私みたいな“素人の中ではそこそこ”というタイプは受かるのかもしれない。 しかし、この事実を知ってから、予選を突破してテレビに出るのは恥ずかしいことなんだと思った。 プロの業界人から見たら、私も下手くその一人に見られているということなんだもんな…。

 

考えてみれば、プロ級の人ばかりを出してしまったら、応募する人はいなくなる。 あの番組は庶民に夢を与えているのだなぁ。