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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

 某メーカー機関誌の編集を7年近く続けていが企画提案し、社長に採用してもらい実行した小冊子だった。全国の多くの代理店に向けたこの機関誌は、様々な役立つ情報を掲載することで大変好評を得ることができた。メーカーと代理店のコミュニケーションツールとしても存在感を発揮した。だから長く続いていたのだ。

 

 ところが、に入ってから、突然社長が内容にケチをつけ始めてきた。今までないことだったので驚いた。

 社長が言うには…「今までは君に任せっきりだったが、これからは自分も管理する。そして、今度からは外部スタッフの意見も取り入れるようにする。デザインも一新する」と、言い始めたのである。そうして、私と長年組んできたデザイナーやカメラマン、編集補助の身内スタッフは全て契約を解除され、社長がどこからか連れてきたスタッフと新たにやることになってしまった。

 

 社長の冊子の内容に対する意見は、「なるほどそれも一理ある」というものもあったが、所詮は編集の素人であるため、大半は言い掛かりであり粗探しだった。

 私は、記事の素材探しから始まって、表現の仕方や写真の選別、レイアウト長年の編集者としての経験と知識を駆使してやってきたのだが、それをすべて否定するような素人の言い掛かりだった。

 

 初めは社長の意見をいやいや取り入れて反映させていたが、何度言われた通り修正や変更を加えても難癖をつけてくる。端っからケチを付けるのが見え見えだった。

 クライアントの言うことは渋々聞くようにしているが、明らかに言い掛かりだったり、企画をボツにするために露骨な嘘までつかれるようになったらおしまいだ。ここまで編集のど素人にプライドを傷つけられるようなことをされては我慢できない。さすがに「やってらんねぇ!」という気になった。

 

 メーカーの社員からは「フリーは仕事が減ると困るだろうから我慢したら」と慰留された。だが、は金で仕事をするタイプではなく、プライドを持って仕事をしていという自負がある。だから、年内いっぱいで発行を終わらせることにした。

 

 それから半年くらい経ち、社長の態度が急変した理由が分かった。社長と昔から仲のいい外部のブローカーが、の仕事を横取りするためにハメたらしいのだ。の仕事を横取りしようと社長をそそのかしたのである。そして、カメラマンもライターも自分の息のかかった者を取り入れて、マージンを懐に入れる計画でいたのだ。とことん汚い奴!

 だが、社長は長年の付き合いがあるブローカーを信じ、奴がそんな悪事を働いているとは微塵も思っていない。

 

 こうなると年内いっぱいまで発行する気はない。途中で廃刊になってもいいと思い、社長の意向を完全に無視した内容を、夏に自称最終号として出してやった。社長がやたらケチをつけてきたの取って置きの企画内容をあえてぶつけ、しかも増ページにした。この企画は絶対読者に受け入れられると思ってたので、持ちネタ全部を出してやった。

 この冊子を見たら社長はまた言い掛かりをつけてくるだろう…。下手をするとギャラを払わないと言いかねない。しかし、それは覚悟の上だった。

 

 が、それはなかった。なぜなら予想以上に代理店からの反響が大きかったからである。社長に対し、絶賛する手紙を出してくれた読者いた。また、「あの号は凄く良かった」と直接言ってくれた読者も多数いた。機関誌ごときで、普通こんな反響はないのに…。

 

 にとって一番嬉しかったのは社長に宛てられた一通の手紙だった。その手紙の主は関西在住の代理店からのもの。代理店は奥さんがやっていて、旦那は地元でベテラン編集者として活動しつつ奥さんの仕事もサポートしていた。

 私が7年前に初めて機関誌を創刊した時、メーカーの頭の古い会長から「こんなものは役に立たない」と否定されていた。しかし、その時に「こういうものが必要なんだよ」と支持し励ましてくれたのが、このベテラン編集者だった。その編集者が、今回の内容を絶賛する手紙を送ってくれたのだ。さらに過去の実績労ってくれた。

 

 文面を読ませてもらい涙が出た。社員はに同情しながらも、社長に目をつけられるのが嫌で、外部である私の行動を表立って支持する者はいなかった。まさに四面楚歌状態。それゆえにベテラン編集者のような理解者がいたことが嬉しかったからだ。

 そして何よりも社長から受けていた屈辱が、これで晴らされた思いがした。ど素人の社長にケチつけられるよりも、同業のベテラン編集者の意見の方が正しいということを実感した。自信も取り戻した。

 その後、次々に代理店から称賛の声をもらった。特に、廃刊を宣言してからが凄かった。「これまでもずっと良かったし、今も役立てている」「必要な情報を開示してくれるので助かっている」「デザイン重視のページがポップとして活用できていた」「メーカーからの唯一の情報源なのでやめないで欲しい」等々…。なんで今まで何も言ってくれなかったんだよと思わず苦笑した。

 

 でも、これで分かった。これで確信した。見ている人は見ているんだなと。分かっている人は分かっているんだなと。

 地道にやっていれば、ちゃんとした物を作っているという信念を持っていれば、それを評価してくれる人は必ずどこかにいるものなのだ。7年間の努力が無駄でないことが分かり嬉しかった。編集者冥利に尽きるってもんだ。

 

 

 人生は一本の道。その道に同じことは繰り返される。その道を歩む時、誰かがいつも見てくれている。例え毎回評価が表に出てこなくても、窮地に立った時、きっとどこかで認められる時が来る。だから、自分を信じて生きることはとても大事なのだ。

 

[編集後記]

『こち亀』の連載が終わる時、両さんが「こういう時だけ『最近読んでないけど好きだった』とか、『もっと続いて欲しかった』とか言いやがって!」激怒していたが、なんかその気持ち分かる。