お祭り大好き! その18 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「俺はさ、汁は牛骨でだしをとったものしか認めないんだよ!」

 

 ヨンハはあっけらかんと言った。そんな贅沢をするのは正直ヨンハの家ぐらいのものだとは思うが、その後ろめたさのなさが逆にユニには気楽だった。

 

 「確かに牛骨の汁は滋養にいいって聞くから、ぼく・・・姉上も手にいれられたら、って思ってくれてたらしいんだけど。」

 

 「あれは高価だ。だが美味いんだ。俺の屋敷だって毎回牛骨を使うわけじゃないさ。鶏やアワビの出汁はまあ美味い。だが、牛骨には敵わない。それにここの汁は出汁自体、放り込む具から出るに任せてるだけの薄っぺらいものだからな!」

 

 俺はダメなんだ、と主張する。ユニは、遥か以前、まだ少女で父が健在だったころ、新年など祝いの時に出されたワカメの汁の味が今までで一番おいしかったものだ。薄い薄い干し肉を戻したものとニンニクを炒め、湯を入れて沸いたら戻した乾燥ワカメを入れる。作る母の横で見て手伝っていたから逐一覚えている。ごま油のいい香りが、他の材料が重なるにつれてもっといい匂いを発していた。とろりととろける柔らかさのワカメ、薄いけれど甘くほろほろと崩れる肉片、お腹をいつまでも温めてくれた。あれも牛肉の干し肉だったような・・・それなら牛骨の出汁と似てるかなあ、でも骨じゃないしね、とユニは首を傾げた。

 

 「いい味ってのはな、テムル。中からにじみ出て来るんだ。だから出汁を取るのに骨や筋を煮込む。牛骨だって大きく砕いて骨の周りの肉片も付いたまま水から煮込むんだ。鶏だって骨を煮込んだ方がいい味が出る。じっくりな。色も出るしとろみも付く。それぐらい味が染み出るんだ。」

 

 「でも僕、食べたことないからわからないよ~。」

 

 「よし!俺がいつかごちそうしよう!」

 

 でもユニは、成均館の食堂の汁だって、多分具にしている野菜や野草だって一度茹でたり炒めたりして、食べやすく青臭さを取り、その上ごま油やニンニクショウガ、しおなどで一度味を染みさせてくれているのが分かるから、別にまずいとは思わない。十分汁にもその味が混ざってしっかりと味付けされているし、とやはり食事を作っていたせいか判るのだ。

 

 けれど、ヨンハのこういうてらいのなさがユニには気楽だった。時おり、どうしてもかつてのキム家の窮乏がばれてしまうようなとき・・・今回の食事内容に関する生い立ちの相違や培われた感覚などが露になると、ジェシンやソンジュンは言葉少なになるのだ。慰めるのもヘンなのだろうし、何を言っていいかわからなくなるのだろう。ユニは別に同情はいらないのだ。キム家の窮乏にソンジュンやジェシンは関係ない。父だってこんな早くに自分が命を失うとは思っていなかっただろうし、重なった不幸を誰が予測できたかと考えれば、避けられない運命だったとしか言いようがないからだ。そのときの周囲・・・親戚たちのユニたち家族への冷たい態度は恨めしいが、もう付き合うつもりはないと思えばどうでもいい。本性が知れただけよかったとさえ今は思っている。だから、ヨンハは変に同情もしないし、かといって馬鹿にもしないから、ユニも正直に感心したり質問したり、ねだったりできる。ごちそうしよう、と言ってくれているからいつかごちそうになれるかもしれない、とも思う。だけどそのとき、実際にごちそうになるのは私じゃなくってユンシクかもね、とはちくりと思うのだけれど。

 

 このこともユンシクに教えておかないと、と思うのだ。成均館で学んだ講義の内容だけでなく、日常のどんな小さなやりとりも、ユニはできるだけもらさずユンシクに伝えてきた。入れ替わったあと、不自然な記憶の相違が出てきたら困るからだ。誰とも会わずに一生を過ごすことなどありえない。こんなに共に過ごすことができる人たちと出会えるなんて思ってもみなかったから、それだけは誤算だった。けれどユニはおかげでとても楽しく、豊かな儒生生活を送ることが出来ている。だからいい。いいのだ。実際にごちそうになるのはユンシクでも。いくらちゃんと話して出来事を共有していたって。

 

 ここで、今この時の豊かな時間を過ごしているのはユンシクではない、私なのだから。どんなに伝えたとしても。

 

 この心と体に刻み込まれる記憶は、私だけのものなのだから。

 

 

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