お祭り大好き! その17 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 夕餉は美味かった。お腹が空きすぎてがっつきそうになり、挨拶まではどうにか待ったが、食ってよしとなると、結局がっついた。コメのほかに雑穀の混じった粥、汁は珍しく野草ではなく葉物野菜と人参らしき細く刻んだものが浮いていた。肉や魚などはめったに出ない食堂なので、今日も相変わらずおかずは貧しい。儒生たちは甘い味付けの芋などは好きではない。今夜の夕餉もやっぱり芋と山菜の乾物を戻したものが一緒に煮られていた。そしてキムチが少し。

 

 

 贅沢だよ、とユニは思う。粥に濃い味付けの山菜を載せて大きな口を開けて放り込む。成均館に来る前、キム家は粥だけが食事だった。おかずにもなりそうにないくず野菜を一緒に煮て、気持ち嵩増しした粥を一人一杯。ユニの筆写の仕事が軌道に乗るまでは一杯すら食えなかった。病人の弟ユンシクのためだけに粥を煮て、それをさらに半分に分けて母に食わせ、食欲がないユンシクが残した粥をユニがすする。それが精いっぱい。粥を作れるだけましな日もあった。

 

 成均館で驚いたことは、何よりもこの食堂での食事だった。一人一膳、一汁二品。何と贅沢な、と感激して食べた。春真っ盛りに入ったユニにとって、ナズナのたっぷり入った汁はこの世のごちそうだったのに、ヨンハは嫌いだとユニの空の汁椀と勝手に取り換えてきた。勿論ユニは喜んでそのお替わりを食べた。ジェシンは芋が嫌いだと、芋のお菜が出れば必ずユニの膳の上に置く。芋はしょっちゅう出て来るから、ユニはしょっちゅう芋を食べられる。ソンジュンは何も文句を言わず、膳の上のものを端然と食べ切るが、一度聞いてみたら、矢張りたいしておいしいとは思わない、と返答してきた。

 

 「みんないいものを食べてるんだね。」

 

 と嫌みではなく感心するユニに、部屋でジェシンとソンジュンが顔を見合わせた事がある。

 

 二人曰く、食事は用意されているもので、その内容に文句を言うことは礼儀に反するから、出されたものは食べなければならない、それだけの話なのだそうだ。

 

 「それに、残すと心配をかけるから。」

 

 というソンジュンにジェシンが同意する。

 

 「母上がな、具合が悪いのか、と部屋までくる。」

 

 当たり前のように言ってこちらを見る二人に、ユニは自分の今までの家でのことを脳裏に浮かべた。

 

 「そっか。うちはおと・・・僕が昔からよく寝付いていたから、僕に合わせて母上も姉上も粥だけだったし・・・それに母上が目を少し悪くしてから食事は姉上が作っていたから、食べたかどうか心配するのも姉上だった。」

 

 自分がしてきたことを思い返して、あわや弟と言いそうなところをどうにかごまかしながら話すと、返答が帰ってこない。見ると二人は次っとユニを見ていた。

 

 「おま・・・っ・・・えの姉上が食事の世話もしてくれてたのか・・・?」

 

 なぜか詰まりながら聞くジェシンに、ユニはうん、と頷いた。

 

 「目が悪いと火の扱いは危ないからね。それに・・・まあ・・・何品も作るわけじゃない・・・なかっただろうし。食べられない病人のためにはどうしたって粥ばっかりになるよ。」

 

 「病人のおと・・・き、君はともかく、お元気な姉上様はちゃんと食べないと働くのがお辛いだろうに・・・。」

 

 これもまた詰まりながら聞いてくるソンジュンに、心の中でお気遣いありがとう、と礼を言いながらユニは視線を落とした。」

 

 「いや、病人の僕のためだけで粥だけしか作らなかった、っていうより、粥ぐらいしか作れなかった、っていうべきだったね。」

 

 ソンジュンはそこで言葉に詰まり、ジェシンも不機嫌そうな顔をした。意味は伝わったのだ。薄い、薄い粥を作るのがやっとだったあの日々、キム家の窮乏は少しでも伝わっただろう。ただ、二人はたぶん、普段の粥のことしかわからない。ユニがあの日々に作っていたものは、米や穀物の粒が浮くような薄い薄いものなのだ。

 

 

 だから!粥だけでも贅沢なんだって!

 

 自分の膳の上に当たり前のように乗る芋の鉢、さっと取り換えられる汁椀を睨みつけながら、ユニはパクパクと食べ続けた。実際お腹が空ききっていたのは本当だったから大変美味しかったし。

 

 毎日ごちそうを食べることができるなんて、夢見ていた祭りの贅沢みたいじゃない。

 

 そう、ユニにとって成均館での今の暮らしは、非日常そのものだから、大層な行事は特に必要ないのだ。それが本音だった。

 

 

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