ノワール その80 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 インスがユニに贈った髪飾りは、中心に小さな真珠を使った蝶のヘアピンだった。光り過ぎず、けれど角度によっては明るく白く輝く。もったいなくて使えない、と箱の中を見て驚くユニに近づくと、ジェシンはそのヘアピンを詰められている綿の上からそっと持ち上げた。

 

 四苦八苦とまではいかないが、少し時間をかけて耳の後ろに差し込む。ちょうど結っているおさげの網目が始まるちょっと上。確かに真珠は高校生がつけるにしては高価で勿体ないかもしれないが、デザインはかわいらしく、おさげ髪に良く似合っていた。

 

 「あいつ、趣味は悪くねえな、まあカン・ムのおふくろさんの見立てだけどな。」

 

 ぶつぶつと呟きながらユニの姿を見詰めるジェシンの視線に、ユニは恥ずかしがってうつむいた。そしてそのほかにも。

 

 「僕・・・僕あっち向いてたらいい?」

 

 「俺もだよユンシク・・・。」

 

 ソンジュンとユンシクが、ヨンハを助け終って突っ立っていた壁際でくるりと背中を向けた。壁とこんにちはしている。

 

 「お~い!そんなことは、もっと雰囲気のいいところでやれよな~!」

 

 ヤジを飛ばしているのは肩をさすっているヨンハだ。ジェシンの一撃を避けたのは良いが、飛びのけた先で壁に激突した肩が痛いのだろう。ヨンハの言う通り、今皆がいるのはユニ達の住まう医院の隣の建物の裏口だ。学校帰りに尋ねてきたジェシンとヨンハを出迎えるため、二階から三人が降りてきたのだ。当たり前のように一緒にいるソンジュンの存在が、もう慣れっこになってしまった。こいつ、家族より長い時間シクといるんじゃねえか、と思うぐらい二人はいつも一緒だ。それは二人がジェシン達と同じ高校に進学してから、校内で目の当たりにしている。

 

 裏口を入ったところの式台の上と下で、髪飾りはユニの髪にセットされた。薄暗い玄関先、それも裏口だ。ヨンハの言うように、雰囲気は全くない。だが、野次馬が三人もいるのに、元から雰囲気もあったもんじゃない。ジェシンはヘアピンを付けたユニが見たかっただけだ。いつもおさげにきれいに結っているが、飾りをつけているのを見たことがなかったから。ピンを見ていると、無性に飾ったユニが見たくなったから体が動いただけ。

 

 

 うるせえ、とヨンハに強めに言い放ってから、ジェシンは恥ずかしがるユニを見た。

 

 「高校へはつけていけないだろうが、ちょっとしたときに使ってやってくれ。あいつにしちゃ、珍しく気を使った品だろうしな。それに似合って・・・る・・・し・・・。」

 

 お~い!どうしてそこで言い切らない?!

 

 「・・・似合って・・・ますか・・・?」

 

 他人の贈り物でいちゃつくなよ~!!

 

 「・・・おう・・・。」

 

 ねえ、まだ振り向いちゃだめだよね ダメだと思うよ

 

 こんな時どうしたらいいんだろう、ユンシク知ってるかい?

 

 知らないから後ろ向いてるしかないと思うんだけど・・・

 

 そうだよねえ・・・参考になるね

 

 「こんな不器用なの!参考に!なるもんか!!」

 

 ヨンハが切れ気味の煽りに、ジェシンはようやく我に返って、改めてヨンハを突き飛ばした。裏口の端と端。たったの一歩の距離。そしてまた壁に激突したヨンハは、

 

 「おかしいだろ~~!」

 

 と叫んだ。

 

 

 

 インスが旅立ったのは、卒業式の次の日。勿論インスは卒業していないが、カン・ムの卒業を祝ってからの旅立ちを決めていたらしい。カン・ムは体育教師になるべく、教育系の大学に行く。それを一番喜んだのは、インスだったという。空港まで見送りに行ったわけでもないが、その日、ジェシンとヨンハはなんとなく空を見上げていた。飛行機は一機も飛んでいないのに。

 

 「インスはさあ、カン・ムがいたから真っ暗闇に突っ込まなくて済んだんだろうな。」

 

 「そうだな。俺は・・・曲がりなりにも家族がぐれ切らない理由になっていたが、インスは家族が暗闇に誘っていた、ってところか。」

 

 「けどさ、コロが急激に更正した・・・みたいになったのは、やっぱりユニちゃんと出会ったから?」

 

 「・・・まあ、きっかけではあるな。」

 

 「素直だねえ、今日は。」

 

 「たまにはな。」

 

 

 今日は、卒業と進学の祝いを、医院でしてくれるというのだ。なぜかヨンハも一緒に。医師夫妻と出稼ぎを続けている大けが親父。そしてユニとユンシクの姉弟、ソンジュン。

 

 二人は見上げていた顔を戻して、歩き始めた。

 

 

 

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