㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニの格好はこうだ。ブラウスは家用だろう、少し年齢にはかわいらしすぎる小さな丸襟の何の変哲もない木綿のもの。そして少し短いズボンは、腰から膝にかけて前掛けがぐるりと巻き付けてある。髪はおさげのままに大判の布・・・おそらく手拭いだろう・・・で巻き付けて埃避けにしている。おかげで額がすっかり丸見えだ。そしてこれも埃避けで口を覆っている。鼻から下がすっかり布でおおわれているので、顔で見えているのは目から額にかけてだ。そのわずかに見えている目の周り、額の中ほどにかけて埃なのか煤なのか判らない汚れがついてしまっている。
「や・・・やだあ・・・!」
細い悲鳴を上げたユニは、雑巾を放り出して両手で顔を覆った。ジェシンは笑いが止まらない。この様子だと、口元の覆いをとったらどんな愉快な模様になっていることやら、と思うと。
ヨンハがすすす、と進み出て、ソンジュンがくんできたばかりのバケツの水にポケットから出したハンカチを浸した。
「お嬢さん。どうぞどうぞ、これで顔を拭いて!」
笑うなんてひどいよねえ、働いていた人に対してねえ、とジェシンに嫌み聴こえるようにちゃんと言い放って、ヨンハは濡れたハンカチを勧める。一瞬受け取りかけたユニだが、その真っ白な布を見てしり込みした。
「あの・・・もったいないから・・・ありがとうごさいます、これを使いますから!」
とヨンハの好意のハンカチは宙ぶらりんになったまま、ユニは頭の手ぬぐいを取り去り、バケツに突っ込んだ。そしてぎゅうぎゅうと絞ると顔に当てて動かない。
「ほら!俺たちは外々!」
ヨンハが気づいてジェシンとソンジュンを回れ右させた。背中を押して部屋の外に出る。
「弟君!大丈夫だって言ってあげて!」
ジェシンとソンジュンは部屋の外で説教を受けていた。
「いいか。女性というのは繊細なんだ。顔を洗ったりするところを見せたくないなんていじらしいじゃないか。それに汚れを取るのにこするところなんて見せたくないんだろう。それぐらいわかってやらないと。これだから唐変木どもは・・・。」
ジェシンはまだ少し腹がよじれているし、ソンジュンは自分が指摘したことで大騒ぎになったと落ち込んでいる。意気揚々としているヨンハの手には、ユニの羞恥に気付く前に自分もしようとした余計なおせっかいの残骸のハンカチ。
姉さん、もう大丈夫だよ、そんなに汚れてなかったってば、ほら、こすったって手ぬぐい黒くならないでしょ・・・。
ユンシクのそんな声が聞こえてきて、ホント、ホントに、と聞き返すユニの声も混じった。大丈夫黒いの取れたよ。汚れてたもんね物入れ、あらユンシクの顔も汚れてるわやっぱり口を覆えばよかったのに、やだよ窮屈だもん。そんなやり取りが始まって、ようやく三人は扉からおずおずと顔をのぞかせた。
そこには、ユンシクの顔の汚れを拭っているユニの姿があった。顔は濡れ手ぬぐいでまんべんなく拭いたからか、つやつやと光っていて、頬が赤らんでいた。
「う~わ。」
こういう時のヨンハの素早さには敵わない。というか、ジェシンはちょっとばかり足がすくむのだ。他の女の子に対してはどうかわからない。接することもないから。けれどユニに対しては、近しくなっているのに、ちょっとした表情の違いで照れてしまう。照れると、そこに足踏みして近づけなくなってしまう。だからヨンハに後れを取った。
「えっと!ユニさん、だったね。君はユンシク君!コロから話は聞いてたんだよ~初めて会ったとは思えないねっ!俺のこと聞いてる?コロから聞いてる?え?聞いてないの?イ・ソンジュン君からは?聞いてない?なんでだよ~~!」
この時にはジェシンは立ち直っていた。ソンジュンはまだだったが。ジェシンは扉の傍にソンジュンを残して、二歩、ヨンハに近づいていた。つまり真後ろ。狭い屋内だ。いくらヨンハが飛び出していても目の前、たったの二歩。振り向いたヨンハの脳天に。
ごす
と拳骨を落としていた。