㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「こいつはね、いつも俺をいじめるんだよ・・・。」
「余計なことしなきゃあ何もしねえし。」
「乱暴だし。」
「てめえにだけだ。」
頭を抱えて涙目で訴えるヨンハと、うるさいとばかりに短く答えるジェシンとの応酬を、ユニとユンシク、ついでにソンジュンも眺めた。そして大爆笑した。
「・・・何がおかしいんだよ・・・。」
「俺すごく痛いんだよぉ~!」
ユニが目の前でピカピカに光る顔で笑っている。洗い立ての、つやつやした頬を真っ赤に染めて。それがうれしくて、拗ねた物言いをしながらも、ジェシンはほっとしていた。
ユンシクもユニに拭いてもらったとはいえ、まだ完全じゃない少々まだらに黒い線を残した顔で笑い、ソンジュンも近づいてきてふふ、と拳を口に当てて笑っている。そのうちにヨンハが笑いだし、ジェシンもつい口もとが緩んだ。
まだ埃っぽくて、電灯も付いていない部屋が輝いていた。
ジョンが抜けた店は、給仕頭だったシフが店長となり、経営はヨンハがすることとなった。高校生だが、ヨンハの父は15歳ごろには土台となる商売を立ち上げて成り上がった新興財閥の一角の社長だ。現場でしか得られない商売の勘というものがある、とヨンハに命じたのだ。ヨンハはいやいやのように見せていたが、実際はやる気に満ちているのをジェシンは知っている。自尊心の強い男ではあるが、戦災に物事を仕分ける目も持っている。明るく交友関係も広いと思われているが、友人は実はジェシン以外にはほぼいない、という用心深さがそれを示していた。
それでもソンジュンはまだしも、ユンシクも気に入ったヨンハは、忙しい中、ユニの下に通おうとするジェシンにくっ付いてこようとしていた。
「ユニちゃん、可愛いよねえ。」
もはやからかっているのか本気なのか判らない頻度でジェシンに言ってくる。そんな事、何度も言われなくても分かっている。
「お前は店の開店準備でもしてろよ。」
「してるってば。でもさ。息抜きもいるじゃん?」
「俺で息抜きすんな。」
「学校でコロの顔見たら気が抜けるし、外でユニちゃんの顔を見たら元気が出る!」
「あいつも使うな!」
ユニもいたく気に入ったらしく、今日もあいびきですかぁ、とうっとうしく絡んでくる。
「もうすぐ引っ越せるからな。荷物を運ぶのを手伝う約束したんだ。少しずつ運んだらいいだろ。」
医院の隣の建物の二階はすっかり掃除が終わり、あまりないという荷物を運びこみ始めている。最初は今は着ない季節の服。行李一つ分が家族全員の分だった。それをジェシンは背中に担いで運んだ。ユンシクが運ぶと言ったのだが、載せてみたらまるでいじめているみたいに荷物の方が目立ってしまったので、無理やり取り上げたのだ。
「台所の道具なんかは最後になる。今日はちゃぶ台を運ぶ。」
どこかから荷車を借りれば済む話だったのだが、まだソウルにきて浅いキム一家はそれほど知り合いはいないし、母親はなかなか仕事を休めないため、まだ少年少女の域を出ないユニとユンシクが借りれる相手などいない。医師に聞けば患者に当たってくれたかもしれないが、言うほど荷物もないし、というのが遠慮に拍車をかけたようだった。
「イ・ソンジュンが車を使えって言ってさ。」
「それはまあ、筋違いだな。」
ソンジュンは親切で言ったのだろうが、車はあくまでイ家のものであり、ソンジュンの安全のための乗り物だ。私用で使うにしても友人宅の引っ越しに使う物ではないし、その辺りはユンシクだってわきまえていた。
「ユニさんとシクが丁寧に断ったら、今度は自分が荷物を担ごうとして。」
「それならいいんじゃないの?」
「そうしたらあいつのお付きの男がさ、スンドリって言ったか。」
「あの大きなやつね。」
ヨンハも何度か一緒に会ううちに、ソンジュンにくっ付いてくる下男のスンドリと黒塗りの車に慣れてしまった。
「あいつが、替わりに持つってきかねえんだよ。そうなったらまた話が別だろ。」
よその家の雇い人に我が家の手伝いをさせるなんてできない、とユニに言われて、それでもスンドリは坊ちゃんの荷物は俺が持つのが仕事なんです、ときかなくて、ソンジュンは結局一緒に歩いて時々ユニの荷物を持ってあげる、ぐらいしかできないでいるのだ。
あはは!
とヨンハが笑う。今、ジェシンとヨンハの周りは、笑いが溢れていて明るい。