㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
入るわけにもいかず、ジェシンは医院の前で待っていた。何度もここで見ていたらわかる。この医者は忙しい人だ。休診日の今日も患者は訪れている。そしてそれを断らない。薬だって処方できるものは出してくれるし、在庫を置かないものは、薬局へ支持する処方箋もその日に渡してくれるのだという。荒れた国土のあちこちで、以前と同じように医師が診察してくれる地域がまだ回復していないことを考えれば、この医師がいる街は幸せなのだろう。ユニは医院の手伝いができることを、収入の面だけでなく、誇りであると帰る道々ジェシンに語った事があった。
入れば邪魔になる。ジェシンは何の役にも立たない。だからここで待つしかない、そう思って壁にもたれていると、裏口からユニが飛び出してきた。
「あ!コロ先輩、いてくれた!」
どうした、とジェシンはがばりと身を起こした。走ってくるユニに向かって、ジェシンも大股で近づくと、来てほしい、とばかりに手を取られた。
「あ・・・な・・・何だよ!」
「手伝ってほしいの・・・って先生が!」
真っ青な顔をしているユニを見て、ジェシンはうろたえた自分を忘れ、手を逆に引っ張って開けっ放しの裏口から飛び込んだ。裏口は小さな台所のような部屋のものだ。そこを突っ切り、開けた扉の先の診察室に立ち込めていたのは血の匂い。
「痛いな!分かってるんだけど、じっとできるか!」
だん、という音と医師の大声と共に一人の男が壁に激突して尻もちをついた。だが血の匂いはその男のものではないのはすぐに分かった。診察台で獣のように唸りながら足を抱えている男。その男の太ももに何か大きな刃物が突き刺さっている。
「先生!」
ユニが叫ぶと、医師は振り向き助かった!と叫んだ。
「えっと、ムン君!こっち来てくれ!この人を抑え込んでくれ!ほら君!君も早く!」
尻もちをついていた男も立ち上がり、今度はけが人の頭側に回った。さっきは足を押さえようとして蹴飛ばされたようだった。早く、という医師の声に、付き添いらしき男は上半身をグイっと仰向けに戻して覆いかぶさった。
足かよ、と思ったが、思いながらも体は動いた。痛みのせいだろう、縮めて膝を折っている足をひざ下から抱え込み、それこそ付き添いの男と同じように覆いかぶさった。口!という指示と共に、叫び声を上げていたけが人の声が籠る。何か布を突っ込まれたのだろう、舌と、それから人を噛まないように。
「いいかあ!とにかく、応急処置は上手にしてもらってんだあ!ここで君が暴れたらこの手当てが水の泡!麻酔の効きはもう少しかかる!だがね、そろそろこの縛っているところを緩めないと、足が使えなくなるぞ!今は!我慢しろとしか言えないからね!」
医師はそう言うとまずゆっくりと刃物を抜き始めた。ジェシンの目の前で抜き取られていくのは鶴嘴らしきものに見える。折れたのか不自然な長さだ。けが人の脚がジェシンを跳ね飛ばそうという動きを見せるが、これはたぶん反射だろう。頭でわかっていても我慢できない痛みなのだ。
びく、ビクンと跳ねる足を押さえながら、医師の手元を見る。動脈を切っていなきゃいいが、と眉をしかめながらゆっくりと引き抜くと、血が噴き出た。ジェシンにも降りかかった。だが飛びのくわけにはいかない。医師は噴き出る血をガーゼで押さえながら傷の中を調べ、あちこちを押さえ、
「動脈じゃない・・・。」
とほっとしたようにつぶやいた。呟いたが、素人のこちらからすれば、どくどくと湧き出ている血が怖い。医師は傷口を押さえながら止血帯代わりの手ぬぐいを少し切った。きつく縛りすぎてほどけないのだ。少し切っただけでも隙間はできるらしい、医師は素早く指示をし、細長い針を傷口の中に容赦なく突っ込み幾針が滑る滑ると言いながら素早く縫い、次は太い針で皮膚を荒く縫い合わせた。
「いいか。少しずつ止血してる布を緩めるから、動くんじゃないぞ。」
この頃には多少麻酔は聞いたらしく、かなり力は抜けていた。けれど医師の目配せで、ジェシンは顔中血まみれのまま、止血の手ぬぐいが全て取り払われ、けが人が足の感覚をなくして動かなくなるまで、ひざ下を抱え込んで馬乗りになっているしかなかった。